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記事2005年5月3日 1976号 (6面) 
新総長インタビュー 法政大学総長 平林 千牧氏
高等教育に対する理念と今後の抱負
特性生かして地域の活性化に貢献


ユニバーサル化に対応した教育メソッド開発
理念掲げ独自の個性を


 法政大学では、清成総長の任期満了にともない四月一日付で新しい総長・理事長に平林千牧(ちまき)教授が就任した。
 法政大学はこれまで百二十年を超える歴史があり、自由の尊重、進取の気象という伝統の下で、「自由と進歩」を校風に若人を育成してきた。このため本紙では、四月十五日に平林総長を訪ね、高等教育に対する理念や今後の抱負などについてお伺いした。

 ―― 平林総長の教育方針についてお聞かせ下さい。
 平林総長 高等教育界のパラダイムが変わって、最近、中央教育審議会が高等教育の将来像(グランドデザイン)を出し、二十一世紀の日本社会の特徴を「知識基盤社会(knowledge−based society)」とした。様々な位置づけがあるが、社会的に見れば大学高等教育の普及率が五〇%になり、かつ生涯学習を担うなど大学は大きく変わってきている。大学=ユニバーサルアクセス化し、誰でも高等教育機関を利用出来るようになった。同時にそこには高等教育の「高等」とはどういうことなのか、誰でも利用出来る「高等」の内実を問う問題が生じる。私立大学は経営上、一定程度多数の学生を確保して教育にあたらざるを得ない。つまり、高等教育の普及の上に私立大学は存在しており、なおかつ高等教育の維持=質の確保という問題を抱えている。
 そこで、私立大学はなにはさておき「教育重視」を一層促進する必要がある。主要国立大学は研究型大学、大学院大学化している。学部生より大学院生が多くなっているところもある。そうすると私立大学は必然的に「教育重視」をターゲットとし、法人化した国立大学と競うことになる。私学は戦略的な選択的研究重視と「教育重視」とを組み合わせ、ユニバーサル化に対応した教育メソッドを開発していくことが重要になる。

 ―― 総長の考える「私立大学像」とはどんなものでしょうか。
 平林総長 私立大学というのは設立当初から一定のミッション・理念を掲げ、これにより教育を引き受けている。したがって、私は日本の私立大学は個性を持って競うのがあるべき姿だと思う。慶應は慶應、早稲田は早稲田と独自の個性がある。法政大学にも個性があり、おのずと伝統としてきちんと生きている。「自由と進歩」「進取の気象」といっているが、常々それを実感している。例えば飛行機で初めてユーラシア大陸の横断を敢行したし、また初めて経済学部を私学で開設し、最近では女性機関士(JR)や女性自衛隊パイロット第一号が本学の学生から生まれている。そういったパイオニアの精神を持っているチャレンジングな学生が多い。こういったことは私どもの大学の個性として生かしていきたい。

 ―― 最近の学生についてどうお考えですか。
 平林総長 最近の大学生と社会が求める学生との間のギャップが指摘されている。私はそれほど深刻なギャップとは見ていない。社会は今変革期であり、その先進部分と後進部分に落差があり、またその調整が進行中である。急激な社会変化に対して若者の惑いはあると思うが、私には若者が社会と距離感を持っている印象はない。四年間の大学生活でキャリア学習を含め社会人への準備を進めている。

 ―― 学生にどういった四年間を過ごさせたいですか。
 平林総長 人間の学習時間は一般的には大学四年間で終わる。二十二歳で人生の四分の一近くを学びに過ごし社会へ出て行く。この四年間はひとまず学ぶということの集大成である。新しい知識の獲得はもちろん、学びにひとつの区切りをつけ、社会に出て自分の能力を自分で確かめながらその人生を確立しなければならない。この四年間はこの「意識」を確固とする時間であると思う。

 ―― 地域への貢献についてはどんなお考えですか。
 平林総長 二十一世紀の大学は教育と研究の他にもうひとつファンクションを持たねばならない。それが社会貢献である。人を育てて社会に貢献するという意味ではなく、大学の持っている知的な能力を社会に有効利用出来る形にするということ。そのために「地域研究センター」をつくった。法政大学には地域関係の研究者が多い。この方々を中心に地域の活性化に貢献したい。また、これから社会に出て地域で活動する人材の養成、自治体に対する新しい事業のサポートも行っていく。

高度な知識を連結し社会に
来年度から生命機能学科新設


 ―― 産業界との連携についてどうお考えですか。
 平林総長 産業界への貢献は多様な形がある。
 「知識基盤社会」にはかなり高度な知識を相互に連結して社会に有用なサービスを施すこと、知識そのもので新しい社会の動かし方を考えることが含まれている。どういう業種であれ産業界と結び付いて私どもの研究能力を産業活性化に生かすことが重要である。これは言うは易いが難しい問題で課題でもある。

 ―― 具体的な事例をお聞かせ下さい。
 平林総長 特に今工学部のマイクロ・ナノテクノロジー研究センターを通じて、テクノロジーが新しい分野をどのように作れるのか、またそのテクノロジーを生かすアイディアを提供できないか、産学連携を図っている。来年度には「生命機能学科」という新しい学科をつくる。いわゆるバイオ学科で個々の細胞レベルの体系的研究を行う。これをナノテクノロジーと結び付けて生かしていきたい。

 ―― 専門職大学院の充実についてお聞かせ下さい。
 平林総長 私ども伝統のある私学は大きな総合大学であり、研究能力をきちんと確保しなければ大学を一体感によって高めていくことは出来ない。ところが主要国立大学が研究型大学へ変わる中で、私立大学と研究能力に差が出てきた。それに対抗するときに私学の特徴を最も生かす大学院課程が専門職大学院である。私学は傾向的に多かれ少なかれ実学的教育部分を引き受けてきた。とりわけ、高度職業人養成を担う専門職大学院は得意分野であり、充実させるのは当然の方針である。

 ―― 従来の学部教育や大学院教育に変化はありますか。
 平林総長 あると思う。学部は従来にましてきちんと職業観を養う教育が必要である。また専門職大学院で単なる高度の職業人だけが学び育っていくかというと必ずしもそうではない。そこで学びながら研究型の人間も育っている。研究志向の人に対してその受け皿を用意していないといけない。在来型の研究科がそれに対応している。また同じところで勉強すると相互に刺激し合う。ビジネススクールに入ってきた人でも博士後期課程で学位を取りたいという人が必ず出てくる。そういう人が在来型の研究者に刺激を与えている。私立大学にとって専門職大学院を重視することは結果的に大学院全体を活性化することになり、大きなメリットがある。

 ―― 今後の改革の構想についてお聞かせ下さい。
 平林総長 大きく言えばポイントは三つある。まずは研究の質的向上を図りたい。研究機能に対する改革で、各研究センター・研究所がもっと能力を発揮できる体制づくりに着手する。二つ目はガバナンスについて。法人の経営の革新を積極的に推進してきてはいるが、システムとして必ずしも、全面的に更新できていない。法人組織を近代的に整備したい。三つ目は当たり前だが、教学改革の継続およびこれまでの改革の成果に対し、そのクオリティを高める作業です。


法政大学ボアソナード・タワー

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