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記事2005年4月13日 1974号 (3面) 
イコールフッティング考 (10)
機会均等等研究所代表 筑波大学大学研究センター客員研究員 日塔 喜一
国私差別のない国づくり
世界がわが国に望むこと
日本は本気で国連の常任理事国入りを望んでいるのだろうか。そのことを考えてみたい。四月六日の読売新聞で、自民党新憲法起草委小委員会要綱(要旨)が紹介された。その「財政」の項に「私学助成は違憲の疑念を抱かれないような表現とする」とあった。
 憲法第八十九条は、「公金その他の公の財産は、…公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と規定している。
 私立大学が都市に集中していたために、第二次世界大戦による戦災の打撃は致命的なものとなり、戦後復旧の努力はインフレもあって二重の困難に直面した。私立大学の苦境を救済しようとする動きも、この条文があるため、公費助成に疑義がもたれて助成に結びつかなかった。
 ようやく政府は昭和二十三年に憲法解釈を変え、昭和二十四年に私立学校法が成立した。私学は学校法人という自主性と公共性をもつ公益法人となり、公費助成を法的に可能とする道が開かれることとなった。その第五十九条は、「国又は地方公共団体は、教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律に定めるところにより、学校法人に対し、私立学校教育に関し必要な助成をすることができる」と明示したのである。
 しかし、これと表裏一体となるはずの私立学校援助法は、国自体に金がないため廃案になっている。そのためもあってか、道が開かれたはずなのに、実際に人件費を含む経常費補助が行われるまでにさらに二十余年を要した。
 昭和四十五年に百三十二億円の経常費補助金が閣議決定され、それを機に私学の自主性を尊重し、国の私学に対する干渉を避けるため、既存の私立学校振興会を改組した日本私学振興財団が設けられ、この第三者機関に配分が委ねられた。その後、昭和五十年七月に私学振興助成法が制定され、昭和五十五年度などは経常的経費に占める補助金の割合が二九・五%にも達した。
 しかし、国の財政危機を理由に昭和五十七年度には前年同額に抑えられ、昭和五十八年には六十五億円、そして昭和五十九年には何と三百三十一億五千万円も削減された。
 他に頼る当てのない私学は、学費アップでこれに対応するしかなかった。それとても思うにまかせず四苦八苦の状況に追い込まれている。
 一方、国立は国からの潤沢な資金を手当てされ、いまや、世界で最も高い公財政支出教育費を受けている。この格差は開くばかりである。
 その他もろもろの制度的差別と資金の不足から脱しきれない私学の知的生産活動が危機を迎えている。連合会の安西会長がおっしゃるように「研究もいろいろな人がやっているからいろいろな芽が出てくる」のだから「芽」を摘んではならないのだ。いや、むしろそれを大事に育てていかなくてはならないのである。それが「私学の持つ人的資源を活かすことが重要」という連合会の主張にもつながっている。
 さらに、現在のわが国では、人間形成の場であるべき学校が、その機能を失っている。この分野は私学の独壇場と思う。
建学の精神を持つ私学は、多様多彩な人間教育、心の教育を実践してきている。いまやそれを率先垂範すべきときなのではないか。
 たとえば、福沢諭吉は、慶応義塾の目的を、「気品の泉源、智徳の模範たらんことを期す」とした。そして「心身の独立を全うし、自らその身を尊重して人たるの品位を辱めざるもの、これを独立自尊の人という」と喝破していた。
 さらに、物としての西洋文明の輸入ではなく、その精神をこそ学び取るべきもので、結果として西洋文明を超える文明を日本人の手で創造していくことを目指していた。
 文部科学省が発行した『諸外国の学校教育(欧米編)』は、欧米三十カ国(北欧二十八、北米二)の教育制度やその財政を調査研究した出色の報告である。
 この報告は、明治以来百年以上にわたり、至極当然のこととして差別政策を踏襲してきたわが国とは違って、どの国も学生に公平かつ平等に機会を提供していることに気づかせてくれる。
 私立が多いイギリス、ロシア、ハンガリー、カナダ、オランダそしてアメリカといった国々でも、設置者の違いを超えて「公平と平等」を死守している。これらの国々ではこの人類存続のための鉄則が自明の理になっている。
 そういえば三十年以上も前の話だが、OECD調査団が『日本の教育政策』をまとめた。高等教育の財政問題について概ね次のように鋭く指摘している。
 「日本の教育投資は全体としてはOECD諸国と並び、特に初中等教育は同じ傾向をたどっているが、高等教育への投資は際立って低い。したがって大学制度の改革には高等教育財政の立ち遅れの克服がまず必要である。さらに、日本における投資配分の最大の誤りは、主として私立大学より国立大学に重きを置いている点で、これを是正するための一つの方法は、私立大学と国立大学との区別を解消(国公立大学の法人化)することである」という。
 わが国の高等教育に対して「世界性をもつ人材を養成、…自国の必要のためだけではなく、世界の必要に応えたもっと普遍的な科学や技術を創造する上で、重要な役割を果たし、…世界を代表して、国際参加への道を進むことである」と期待し、格差や差別のない国づくりを願っている。わが国が国際社会の仲間入りを果たし、リーダー役をつとめるためには、憲法改正を機会にイコールフッティングを果たさねばならない。
 今回は、さまざまな視点から常任理事国入りについて考えてみた。

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