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記事2005年3月23日 1972号 (7面) 
新世紀拓く教育 (31) ―― 武蔵中学・高等学校
自ら調べ自ら考える 謎を解く楽しさを
国際化学オリンピックで金メダル獲得

 謎を解く楽しさを体得させたい、それには「自ら調べ自ら考える」ことが大切、というのが武蔵高等学校中学校(福田泰二校長、東京・練馬区、男子校)の授業方針の一つである。その「謎を解く楽しさ」を化学に見つけ、世界へ自らチャレンジしたのが、昨年、国際化学オリンピックで金メダルを取った、同校二年化学部の川崎瑛生さんだ。
 川崎さんは高校一年生の時に自分から参加した国内の「全国高校化学グランプリ二〇〇三」で成績優秀者となり、日本代表(四人)として、二〇〇四年七月、ドイツのキールで開催された第三十六回国際化学オリンピックに出場した。キール大会の参加者は六十一カ国から二百三十四人。その中から、金メダル(参加者の約一割)に輝いた一人となったのである。
 キール大会は七月十八日から二十七日まで開かれたが、川崎さんは、大会四日目に実験と、六日目に筆記の試験を受けた。実験の課題は二つ、一つはプラスチックを分解してその分解生成物と別の試薬を反応させた物質の純度と量を競うもの。もう一つは超電導体の分析だった。筆記試験の方は八問、天然ガスの燃焼熱の発生量から、家を温めるために価格的に効率的な手段は何かといった問題などが出題されたという。制限時間はそれぞれ五時間だった。
 「実験の方はかなりできました。だけど、小問のいくつかが解けなかった」、だから成績が発表された時、金メダルと言われて「驚きました。もちろんうれしかった」と川崎さん。化学オリンピックに行ってもうひとつうれしかったことは、韓国とインドネシアの高校生と友達になったことだという。
 川崎さんの将来の夢は、研究者。いまは素粒子物理に興味があるとのこと。
 もともと武蔵高等学校中学校は伝統的に理科教育が充実している。中学から高校一年生までの四年間で、生物・化学・地学・物理分野を履修させる。中学三年間では授業と、二人一組での実験を週に各二時間ずつ行う。カリキュラム自体も、自然科学を関連づけて考えることができるよう組まれている。そのほかにも、動植物や岩石の観察、校内の天文台での天体観測や気象観測なども体験させる。また中一では箱根での地学巡検、中二では清里高原での天文実習が実施される。高校二・三年では選択授業となるが、時数は少なくなるとはいえ実験の授業もある。化学でいえば定性分析など基本的なものだが、より深い理解を目指す。
 化学を担当する渡辺範夫教諭は、実験では、「まず楽しく。そして、楽しかったというだけでなく、実験のあとでもう一つ何かを感じ取ってほしい」。だから、実験の後では必ずレポートを提出させる。レポートは、生徒自身が実験によって体験し、得たものを理論づけ、体系化するためである。
 こうした体験学習を通して学問的興味を引き出し、生涯にわたる知的探究の基礎をつくろうと考えているからである。
 自主性と自由を重んじる教育方針から、授業でも、部活動でも、進路や学校外の活動でも、まずやってみよう、調べてみよう、と後押しする。失敗もあるかもしれない。しかし、自主的な行動の結果の無駄や失敗は、本人にとって必ず財産になるというのが武蔵の考え方である。川崎さんの所属する化学部でも、研究テーマを決めるのも実験も、生徒たち自身が全部自分でやる。全国高校化学グランプリも川崎さんが、「挑戦してみたい」と後押ししただけ。「彼は、自分で道を拓いたのです」と言う。
 「世界に雄飛する」ことも武蔵の掲げる理想の一つ。「世界の高校生に伍して知恵を競うことが、彼の知的好奇心を誘ってくれたのだろう。将来、研究をやりたいわけですから、日本にとどまらないでやってみたらいい」と渡辺教諭。
 化学オリンピックの問題は理系学部の一般教育レベルの内容である。それをやりたいという子供が出てきた場合、ケアできる環境がある。
 実は、川崎さんはキール大会の後、もう一度やりたいと渡辺教諭に言ってきたのである。たぶん、やり残したことがあったのだろうと、今度も渡辺教諭は彼の背中を押した。川崎さんは、昨年、「全国高校化学グランプリ二〇〇四」に出て、やはり優秀賞を取り、再び日本代表となった。
 そして、高校生最後の年となる今夏、台湾の台北で開催される第三十七回国際化学オリンピックに出場する。再び世界の高校生と知恵の限りを競う。





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