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記事2005年3月23日 1972号 (3面) 
短大基準協の認証評価 (上)
教育研究水準向上へ
機会均等等研究所代表筑波大学大学研究センター客員研究員 日塔 喜一
いよいよわが国高等教育界でも認証評価が始まった。平成三年大学審議会答申で、それまで細かく大学を規制していた設置基準を緩和した。そして大学が主体的に質の向上を考える方法として努力義務ではあったが自己点検・評価を考案した。直接的にはこれが効いた。これをきっかけに、まず、昭和二十二年に設置され、戦後の五十有余年、設置基準問題で孤塁を守り続けてきた大学基準協会が先陣を切ってこの道を切り開き、点検評価そして相互評価を始めた。さらに、この十年で、すなわち平成六年の短期大学基準協会、同十年に日弁連法務研究財団、同十二年に大学評価・学位授与機構そして同十六年に日本高等教育評価機構が相次いで設置された。本欄では、このほど活動を開始した短期大学基準協会の認証評価について二回に分けてご紹介申し上げる。まず、ここに至るまでのわが国における経緯を概観しておきたい。

教育研究の危機に対応
質の向上に点検評価が大事 連盟報告が口火


【経緯概要】
 思えば、昭和五十二年、三年にわたる議論と中間報告に対する学長、学部長アンケートの意見等を基に、日本私立大学連盟大学問題検討委員会第六分科会が「私立大学の相互協力と自己点検―教育研究の質的向上をめざして―」をまとめ、口火を切った。余談だが、この報告書はある新聞社にすっぱ抜かれてしまったが、永井文部大臣、村井早稲田大学総長らの鼎談を添え『朝日ジャーナル』に掲載を予定していた。この分科会は村井先生自らの提案で設置され、メンバー選びも先生が行うという念の入れようだった。さらに連盟常務理事会の後押しもあって錚(そう)々(そう)たるメンバーがそろった。検討課題は「いい教員が国立に引き抜かれる。この教育研究の危機にどう対応すべきか」であった。並々ならぬ気迫がこもっていた。こうして開かれた一回目の会合で、ある委員が「我々が作る報告書はよくできた報告書ですね、とあしらわれる類のものですか。理事会にはじめから活用する気がないのならこの場で解散しましょう」と穏やかでないスタートを切ったのだった。
 連盟では、この「危機を乗り越えるには、教育研究の質を上げるしか方法はない。そのためには点検評価が大事」としたこの報告書の精神を生かした。一つは、教育白書『私立大学 きのう きょう あした』の出版と、もう一つは「教育研究に関する調査」の実施である。
 この教育白書は、類まれな名著といわれた。後に英訳もされ全世界の主だった大学や戦乱のレバノンを除くすべての国会図書館に送られた。これは学校法人会計基準施行にあわせ、加盟大学に財務状況調査を行い、それを基に報告書をまとめ、記者発表と論説委員との懇談を行い、世間をあっといわせた「財政白書」に匹敵するものだと今でも思う。
 「財政白書」は、その出版により経理の開示を行い、私学に対する世間の信頼を得るという大殊勲を上げた。そして、私学助成運動を大きく後押しし、補助金額をぐいぐい伸ばす役割を果たしたのであった。

短大基準協の認証評価
自律性と先見性から誕生


 もうひとつの「教育研究に関する調査」は、理事会を対象に「予備調査」を行った後、連盟加盟校を対象にした大がかりなもので、強烈な点検評価作業を伴うものであった。なんと日本大学一校の回答だけで数千ページにも及んだ。その実施に当たり、大学と連盟を結ぶ「調査回答責任者懇談会」を設置した。また、この調査を基に『建学の精神』を出版することもできたのである。
 今回、短期大学基準協会が認証評価の仕組みの中枢にALO(Accreditation Liaison Officerの略。第三者評価連絡調整責任者)を設置されたことを事務局の方から聞き、それを資料でも確認しハッと、この懇談会のことに思い当たり「これならいける」のではないかと直感した。
 その後、私大連盟の石川忠男会長(慶應義塾長)、西原春夫会長(早稲田大学総長)、濱田陽太郎会長(立教大学総長)、青木宗也先生(法政大学総長)(以上、役職は当時)といった方々が、基準協会の会長等の立場で点検評価の検討、実施に鋭意つとめられた。それも百年以上の経験を持つアメリカの基準協会を訪ね、そこでの成果を精力的に取りまとめ、会報等に掲載した。力がこもっていた。そうしたリーダーシップも大きくものをいっている。
 これらのことは、おのずと平成三年の、石川先生が会長を務める大学審議会答申に影響し、自己点検評価が努力義務規定に盛り込まれた。
 その直後、石川先生にアルカディア市ヶ谷ですれ違い「大学審議会やりますね」と私。「うん、やるよ!」とおうむ返しに先生。大変な張り切りようで、その声は弾んでいた。先生は、若い時分アメリカに留学され、質向上にこの仕組みが効果的であることをすでに看破されておられたのだ。先生は、すでに述べた連盟の第六分科会の学長、学部長アンケートにも法学部長として積極的な回答を寄せている。
 そして、大綱化に伴う改革の嵐の中、さらにはずみがついた。努力義務は義務化に転じ、その上で、相互評価の必要性も答申され、それが第三者評価の必要性に結びつき、この度の学校教育法改正による認証評価制度の創設へと変貌を遂げた。
 さて前置きが長くなったが、短期大学基準協会が発行された『第三者評価関係資料』(以下「資料」という)に沿ってその評価活動の一端をご紹介し、その上でポイントを絞って二、三私見を申し述べたい。

日短協に基準協設立
水準向上と評価による改善


【日短協の先見性】
 「こうした流れの中で、平成六年四月、日本私立短期大学協会の総会において「短期大学基準協会」の設立が決議され、発足いたしました。その設立の趣意と事業計画の骨子は、(1)短期大学教育の水準の維持向上を図ること、(2)短期大学の自己点検・評価による改善を支援することであり、具体的には、(a)会員校から短期大学の現況および自己点検・評価と改善の努力が明らかになる資料の提出を求め、(b)会員校からの相談に応じ助言、援助を行うこと、(c)短期大学を中心とする高等教育に関する調査研究を行うことでした。そこでは日本私立短期大学協会のすべての会員校が、設立と同時に基準協会の会員となる穏やかな加盟をその組織化の基本に据えました」
 改めて再認識しておきたいのは、「基準協会の設立と、日本私立短期大学協会の全会員校による基準協会への加盟が実現したのは、第三者評価が義務づけられる以前であり、今回の認証評価が影も形も見えない時期であった」。そして、「基準協会こそが『評価文化』の育成を短期大学の関係者の協力によって真剣に進めようと呼び掛けていた事実です。このような会員校間の自律性(auto−nomy)によって、互いに自らの教育研究の水準の向上に資する評価を実施しようとする精神は、認証評価機関としての基準協会が実施する第三者評価に生きており、その評価の基本方針や特色につながっています」
 このくだりからは、関係者すべての誇らしさがジワーッと伝わり、素直に感動を覚える。これは私自身も団体勤めが長かったから理解できるのだが、中々できないことで、その意味でも改めて驚嘆する。そして思い当たることがある! 建物が同じなため、私も短大基準協会の担当者に時折出会うことがあった。彼の表情は常に一心不乱で揺るがないといった風なのだ。真剣で実に好感が持てた。その背景に、上記のような大きな支えと壮大ともいえる使命感が与(あずか)って余りあったのだと「資料」を拝見しながら思った。

継続的な質の保証
カギ握るALOを配置


【第三者評価の概要】
 短期大学基準協会が行う第三者評価(機関別評価)の目的は「短期大学教育の継続的な質の保証を図り、加えて短期大学の主体的な改革・改善を支援して、短期大学教育の向上・充実に資するとともに、評価システムや評価の結果を公表することによって広く社会の理解と支持を得る」ことにある。評価の周期は七年以内。ただし、一回目の周期は、平成十七年度から平成二十二年度までの六年間。
 そして、このシステムの成否のカギを握ると思われるALO(第三者評価連絡調整責任者)を配置している。各短期大学からの登録制を敷いているが、その任務は「各短期大学において、自己点検・評価報告書の作成、資料(添付資料及び参考資料)の選別もしくは作成、学内調整、短期大学基準協会及び評価員との連絡、評価に係る情報収集等に中心的な役割を担う」としている。すでに担当者の登録や研修会も昨年末までに終えている。
 「評価の基本」は、「短期大学設置基準を基礎とした短期大学評価基準による評価を基本としつつ、短期大学の個性を尊重する評価も併せて行う」というもの。
 これをベースに以下の各段階の評価が順次行われるのだ。
 なお、別表にもあるように評価に先立ち、この夏、評価員・評価チーム責任者研修を予定している。
 (1)「評価員による項目別評価」(*)は当該短期大学が作成する「自己点検・評価報告書に基づく書面調査及び訪問調査により、評価員が短期大学評価基準の項目別に評価を行う」もの。
 (2)「評価チームによる領域別評価」は「評価員による項目別評価に基づき、評価チームが短期大学評価基準の領域別に評価を行う」。
 そして、(3)「第三者評価委員会分科会による機関別評価原案の作成」は、「評価チームによる領域別評価に基づき、第三者評価委員会に置かれる分科会(評価チームを分担する)が機関別評価案を作成」する。
 (4)「第三者評価委員会による機関別評価案の作成と通知(内示)」は、「分科会が作成した原案に基づき、第三者評価委員会が機関別評価案(適格・不適格・保留)を作成し、当該短期大学に通知(内示)」する。
 なお、機関別評価案が「保留」の場合は、保留とされた事項について再評価を受けることになる。
 (5)理事会は、「第三者評価委員会が作成した機関別評価案に基づき、機関別評価を確定し、当該短期大学に通知する」。

公表は刊行物とホームページ

【異議申し立ての機会】
 「異議申し立ての機会」については「通知(内示)された機関別評価案の内容について異議のある短期大学は、異議申し立てができる。異議申し立てについては第三者評価審査委員会において審査する」とある。
 「機関別評価結果の公表」は基準協会の刊行物およびホームページ等で広く公表する。
 (*)一校につき五人程度の「評価チーム」を置く。評価員は、「評価員候補者及び学識経験者から評価実施校数に応じ委嘱する」。これはすでに委嘱済みで、研修も実施済み。評価員候補者は、各会員短期大学から、入学定員三百人以下の短大からは一人、三百一人以上の短大からは二人推薦するとしている。

 すでに、第三者評価の申し込みも昨年末に済み、この一月に評価を実施する短期大学及び評価員(評価チーム)も決定し、その通知も行われた。
 そのほか、別表にあるように「書面調査」は八月〜九月中旬、「訪問調査日程の決定と学内視察計画表の提出」については、ALOが、「評価チーム責任者と連絡を取り、訪問調査の日程を決定するとともに、学内視察計画表を作成し、短期大学基準協会事務局及び評価チーム各評価員」に連絡する。「訪問調査」は「九月中旬から十月」など緻(ち)密(みつ)かつきめ細かく決まっている。(以下略)

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