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記事2005年3月13日 1971号 (2面) 
イコールフッティング考 (9)
機会均等等研究所代表 筑波大学大学研究センター客員研究員 日塔 喜一
私学の考えを世間にアピール
心強い連合会の動き
日本私立大学団体連合会(安西祐一郎会長=慶應義塾長)が活発な運動を展開している。本紙一月二十三日号によれば、この一月十四日、科学技術学術審議会基本計画特別委員会の会合で、私立大学の立場から意見を述べた。安西会長は「第三期科学技術基本計画は、三十年後のわが国と世界のあり方への長期的戦略のもとに策定されるべき」としたうえで、「大学教育の七五%を担う私立大学の教育・研究から創出・保有する資源を有効に活用することは、人的および知的財産の拡充に不可欠」と主張した。
 さらに、同連合会で教育改革委員会・私立大学将来構想委員会委員、菅野卓雄・東洋大学理事長は、理工系学生への求人数が文科系よりはるかに多いのに、国立に比べ理工系学生の比率が低い私学の実態に触れたあと、その理由について「学生数四百人の場合で比較すると、人文系学部の、校舎面積で約二倍、教員数で一・四倍、機械・器具などの設備経費で約二十倍の経費が必要」と説明。社会の需要にこたえるためには、理工系学部学生増支援措置と大幅な奨学金制度の財源確保を要望した。そして、ポストドクトラル制度は研究活動の活性化に資する点は多いが、若手研究者の使い捨てになることもあり、放置すると社会問題になる恐れがあると指摘。その対策に必要な日本版テニュアトラック制度の導入を私立大学に求めるなら、財政支援が必要と話した。
 またCOEの採択状況から、国・私間の研究水準に差があるのは明らかであるが、原因のひとつは「現実に優れた研究成果を上げている組織に重点的に配分される傾向」があるからであり、長年にわたって膨大な国費を投入してきた国立大学と私立大学を現時点での業績で比較し、国立大学に「競争的資金」を投入することの矛盾を示唆。
 これを解消するには、私立大学における研究基盤の抜本的な整備を施策の眼目とすることが必要と主張した。
 安西会長は、本紙新年号のインタビューで「これからは私学の時代」と明言された。その中で「人間はそれぞれ生まれながらにして多彩な能力を持っている。ところが、それが開花しないまま一生を終える人たちが戦後には多かった。しかし、これからは思ってもいなかったような自分の力を、年をとってからでも見つけられるような時代になります。一人ひとりが自分の能力を自ら発見・発掘して、それを磨いて他者に貢献し、それによって喜びを見いだすとともに、自分の生活の糧もうることができれば、それが人間にとって一番の幸福かもしれない。そういう時代が巡ってきますし、そういう時代をつくれるのは私学です。なぜなら、私学は極めて多彩多様な学びの場を用意しているからです」
 「科学技術関係についても、研究は国立、教育は私立というようなことを言う先生がいます。それはまったく論外です。研究もいろいろな人がやっているから、いろいろな芽が出てくる。これからは科学技術においてもいろいろな芽を多様に出す時代になる。いわゆる基礎研究から応用研究、あるいはベンチャーの育成に役立つようなシーズに至るまで、人間の創造力と想像力は果てしない。それを一部の人だけではなくて、多くの人たちが担うようにすべきだと思います。そのためには私学の力はきわめて大事です」そして、国立大学との「公財政支出のイコールフッティング実現は険しい」と述べつつ、「私学の考えをまとめ、広めていくことが必要です。政治家の先生方からも、私学がどういう考え方を持っているのかをもっと世間にアピールしてくれ、私学に本当の危機感があるのか、ということを言われております。教育基本法、憲法改正の論議もあります。憲法改正の中では、八十九条などをぜひ検討してほしいと思っています。今後、こうしたことが俎上(そじょう)にのぼってきます。これらを念頭に置いて、私学として、どういう方向で新しい時代を築いていくのかということの政策を提言していく必要があると思います」以上、研究面での連合会の実践例と安西会長の教育研究に関する基本理念の一端をご紹介申し上げた。連合会では、このほか中教審の中間報告にも意見を届けている、と伺った。
 憲法改正について小泉総理は「第九条に限らず、第八十九条の問題もある。現実には、公の支配に属さない私学に助成されている」と問題を指摘する。こういう問題にどう対応していくか。(きちんとした)改正が必要であると思っているのではないか。
 総理は、事あるごとに、このことに言及する。昭和二十四年に私立学校法が制定された。その第五十九条は、「国又は地方公共団体は、教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律で定めるところにより、学校法人に対し、私立学校教育に関し必要な助成をすることができる」と規定している。
 政策提言がきわめて重要な局面である。

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