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記事2005年2月23日 1969号 (3面) 
第52回全国私学教育研究集会福島大会報告 (上)
建学の精神と国際化
特色ある私学教育を求めて
 昨年十月二十八・二十九の両日、福島県郡山市内のホテルを会場に「特色ある私学教育を求めて――建学の精神と国際化」を研究目標に行われた第五十二回全国私学教育研究集会福島大会の部会での研究討議などの模様を今回から二回にわたって報告します。(編集部)

コミュニケートできる人間
企業への就職で非常に重要


【進路指導】社会環境変化に対応した進路指導
 進路指導部会は「社会環境の変化に対応した進路指導」を研究目標に、二つの講演と三つの研究発表が行われた。このうち自白大学経営学部の多田孝志教授の講演「キャリア過去 現在 未来」と、村田秀俊・弘前東工業高等学校教頭の研究発表「本校の進路指導について」の概要を報告する。

多田・目白大学教授が講演
 講演の中で多田教授は、世界的な場における人材育成の方向について、特に企業人がこれからの高校生にどんなことを望んでいるかについて、次のように話した。
 生徒にどんな力をつけるか、キーワードはつながり・参加・共同である。二〇〇二年に「持続可能な開発のための十年」が国連で採択を受けたが、これからの世界の状況を考えたときに、人とのつながり、コミュニケートできる人間こそが、企業への就職では非常に重要である。子供たちの内側にある潜在能力を、人とのかかわりの中で高めていくという指導がないと、小手先だけのことをやっても、本物にはならない。
 子供たちの状況を見ると、コンビニ文化、お任せ民主主義、人間関係の苦手意識がある。さらに重要なことは、五十万人の若いひきこもりの人たちが、何とか親がかりをやめたい、技術を身につけたい、仕事の情報がほしい、生きがいがほしいと考えていることだ。つまり、高等学校における進路指導が、彼らの内側に迫るものであってほしい。企業は、大学ブランドも学部学科も関係ない、自分の企業を発展させる人をとりたい。企業は生き残りの時代に入っており、その中で非常に重要になってくるのはコミュニケーション能力だ。学生が社会に出れば、さまざまな人と話すことが求められる。その際、まず人の話を正確に聞くことが必要であり、自分の考えを持つこと、そしてそれを話すことが要求される。学校はそういうスキルを子供たちに与えてほしい。学生に「私の出会った先生たち」との題で作文を書かせると、驚くほど教師の影響を受けている。先生の声かけこそ本来的な進路指導である。マスコミからはさまざまな情報が流れているが、NHKの番組もその三割しか真実はない。情報をかき集める力、その中から真実を見抜く力、真実を見取る力を付けることが大切だと多田教授は話した。

弘前東工業教頭が研究発表
 「本校の進路指導について」を村田教頭が発表した。同校の生徒は就職希望が大半のため、従来から資格を取らせているが、青森県そのものが不況のど真ん中にあり、地元志向の強い生徒の就職は年々厳しくなっている。就職率一〇〇%という同校の実績は神話になりつつある。これが同校の生徒減につながり、経営悪化につながっている。系列を持たない私立の工業高校の限界を感じ、経営悪化に行政の手助けが望めないならと平成十四年に学校改革にかかわる委員会を立ち上げ、独自に魅力ある学科の設立、スポーツ振興などで生徒の確保を図る方向性を打ち出した。
 改革の一つは、多様化する卒業後の進路(進学・公務員)に対応する教育課程にしたこと、二つ目は就職希望者を求人数に応じた数に絞り込んで一〇〇%就職を達成したこと、三つ目は、さらに上級資格を取らせるために専攻科の設置の研究を行っていることだと村田教頭は述べた。この背景には、青森県の動きとして、公立校の定員減、郡部校の統廃合の計画があり、その結果、生徒を根こそぎもっていかれるという危機感がある。安定した経営を目指して生徒の確保とその拡大を図るため、来年四月から普通科を設置し、制服および校名を変更し、総合的な高校として心機一転「生き残り」にかける、と村田教頭は話した。

祈る心、謙虚、奉仕、感謝の心重要
学力向上と人間成長


【生徒指導】健学の精神に則ったした生徒指導
 生徒指導部会は「建学の精神に則った生徒指導」を研究目標に、二つの講演と三つの研究発表が行われた。このうち、東京文化中学・高等学校の黒澤教子参与の講演と、聖ウルスラ学院中学・高等学校の堀江直子生徒指導部長の研究発表を報告する。黒澤参与は「建学の精神と生徒指導―その具体化を求めて―」と題し、教育活動のよりどころとしての建学の精神を大切にすること、生徒の自主自力を育てる教育の必要性を強調した。
 【研究発表】堀江部長は「建学の精神の具体化としての新設行事『感謝の日』」と題し、同校の建学の精神をはじめ、生徒指導方針、「感謝の日」についての設立経緯・プログラムなどについて発表した。聖ウルスラ修道会はイタリアの聖アンジェラ・メリチによって一五三五年創立され、「祈る心」「謙虚」「奉仕」「感謝の心」を大切にしてきた。同校の特色は「学力向上と人間成長保証両全」にある。この「人間成長保証」とは人としての姿勢教育を指し、(1)宗教的情操の育(はぐく)み、(2)女性としての生きる力の育み、(3)国際性を身につけた人としての育み、(4)社会性を身につけた人としての育みと奉仕の精神の育みの四つを内容とする。「生徒のみならず、教員も大事な方針として日々取り組んでいる」(堀江部長)。このうち、(1)(2)(4)と深くかかわっているのが「感謝の日」だ。「感謝の日」は、学校創立以来行われてきた「修養会」、約三十年の伝統を持つ生徒会行事である「奉仕の日」、および「創立記念式典」の三つの大きな行事の流れをくむ。「感謝の日」は「静かに神と自分自身に向き合い、イエス・キリストの生き方や教えを学ぶ日」であり、また「創立者の精神を深く理解し、実践する場で、さまざまな学校行事の中でも特に大切な行事」となっている。
 一日目(十月十九日)、二日目(十月二十日)を通し、朝の読書から始まり、朝の祈り、講話、そして奉仕活動などが行われた。奉仕活動では、中学生がハンドタオルの作成、高校生がおむつ縫いである。このおむつは「使い勝手が良く、期待されている」(堀江部長)。また、生徒会執行部が身障者施設や特別養護老人ホームを慰問し交流を図った。その後は中学生による特別養護老人ホームや、高校生による近隣地区(区役所、新設道路など)などの清掃が行われた。二日目は、創立記念日の前日に当たり、ミサ聖祭をもって記念式典が行われた。

黒澤氏講演の要旨
建学の精神を大切に
生徒の自主自力を育てる


 私立学校は個人あるいはグループが私財を投げ打って運営管理している学校で、建学の精神が非常に大切です。大正七年以降、学校は法人しかつくってはいけないことになり、これは学校は個人のものではないということです。
 この意味で私学には公共性がありますが、私学をつくった理想は独自性という点に存在します。
 生徒指導についていえば、二つ考えられます。一つは、生活指導の基本は人間そのものをつくるところにあります。最近は少子化で生徒募集をより有利にしていこうという方針は当然です。しかし、私学に官公立を模倣する傾向が見られます。生徒募集を意識して(学校の)外観に重きを置いて、生徒を育てているのではないか。私学は本来、内容の充実に重きを置くべきではないでしょうか。学校が人づくりを基本に考え、これに外観的な条件を取り入れているところに独自性が発揮できるのです。
 もう一つは、教職員の意思統一ということです。これは難しいのですが、一つの目標に向かい、みんなで協力していけばできるはずです。この目標が建学の精神であり、教育活動のよりどころなのです。
 また、中等教育で欠けているのは、生徒が自分で考え、行動するという自主自立の力を育てる教育だと思います。
 これからは、自分たちで知恵を出し合って、手を組んで街づくり、国づくりができる人間が必要で、この資質を育てる教育をすることが大事です。創立者はこういう思いを持っていたはずです。
 私学の使命はここにあると思います。

必要な私学助成の堅持
中高一貫教育は公立でな私学で


【学校経営】国際化に活きる私学教育
 「国際化に活きる私学教育を目指して」を研究目標にした学校経営部会では二つの講演と三つの研究発表が行われた。
 そのうち、(1)午後の講演に先立って吉田晋・日本私立中学高等学校連合会副会長(富士見丘中学・高等学校理事長・校長)が行った「中高連の現況報告」、(2)岡本肇・学校法人静岡県西遠女子学園理事長・校長の講演「私学の教育と経営について考えること建学の精神と国際化」、(3)木村隆文・青森山田中学・高等学校理事長・校長による研究発表「本校における教育改革」、(4)堀田壽一・東北高等学校長による研究発表「国際化に活きる私学教育を目指して」の概要を報告する。

三位一体改革の現状報告も
 「中高連の現況報告」を行った吉田副会長は、政府の進める三位一体の改革として、私学助成や義務教育費国庫負担金等が税源移譲対象補助負担金として地方六団体の改革案の中に出されているが、実際に市町村の現状を見ると、地方財政の悪化から、公立保育所の運営費として移譲された税源が、他に転用されたという実態が出てきている。私学助成は私学振興助成法に基づくもの、これを地方に移すことは、違法である。仮に税源移譲されても「私学助成はなくさない」と知事は言うが、それは保証されるのか、大いに疑問だ。私学助成はなんとしても維持、堅持していかなければならない。そのための活動を展開していく。さらに次のステップを考えていかなければならない、と述べた。
 また、公立中高一貫教育校の拡大について、「多額の予算をつぎ込もうとしている。官から民へというなら、評価の高い私学に任せるべきではないか」などと、吉田副会長は報告した。
 引き続き行われた講演「私学の教育と経営について考えること建学の精神と国際化」の中で静岡県西遠女子学園の岡本理事長は、吉田副会長の話を受けて、私学は都道府県の壁を越えて、田村哲夫・日本私立中学校等学校連合会長と心をひとつにして運動を起こしていかなければならない、と述べた。静岡私学の現況については、静岡県にも公立の中高一貫校が二校でき、浜松にできた中高一貫校の説明会には三千人が集まり、募集人員百六十人に対し七百人の受験者があった。一方では、少子化に伴う高校入学者減少により、県立高校再編整備の見直しが始まっている。その中で、公私別生徒の受け入れについても見直しがされている。検討委員会では岡本理事長が、公立校を減らして私立に任せた方が県財政の節減につながるはずと提案しているが、ことはそう単純ではない。また公立高校は共学化が進んでいる。そうした中で静岡県西遠女子学園は「ガールズ・ビー・アンビシャス」を掲げ、将来的に女子の社会進出や地位向上が進むことから、それに対応するべく特色ある教育を展開していく。高校退学者が増える中、私学は、自分の学校が保護者や生徒から本当に必要とされる、魅力ある学校をつくっていかなければならない、と述べた。

青森山田と東北高校が研究発表
 次に、「本校における教育改革」と題して研究発表を行った青森山田中学・高等学校の木村校長は、八年前校長に就任して以来取り組んだ学校改革について話した。
 まず(1)教職員と納得いくまで話し合い、入り口(入学)から出口(進路)まで、とりわけ出口をしっかりやる(2)生徒はお客さま、徹底したサービスを行う(3)丁寧にしっかり教育するの三つの大きなビジョンを立てた。
 その具体策として、安全・安心な生徒との信頼関係をつくる。そのためには教師は生徒の弁護士でなければならない、同時に善悪・社会のルールを示す裁判官でなければならない。さらに生徒の親でなければならないとして、内外に向けてすべての情報を公開、クラス別の欠席・遅刻・タバコ・万引きを含めて、学校のすべてを公表した。そして、家庭訪問を徹底し、それが深夜に及ぶこともしばしばであったと、教職員とともに取り組んださまざまな経緯を話した。結果として、欠席もタバコも万引きもない学校に生まれかわったが、生徒に対しては、「常に気力を持って生きろ、迫力を持って生きろ、名前をはっきりと言え、すべてにおいて全力で取り組め」と言ってきた。現在も改革のために生徒による授業評価、授業の常時公開などを行っている、と木村校長は話した。
  「国際化に活きる私学教育を目指して」として研究発表を行った東北高等学校の堀田校長は、泉キャンパスのフェスティーナ・ジェネラルコースとインディビジュアルコースの全コースで海外研修を実施、そのほかに長期・短期留学も実施しており、それを単位認定し、生徒は三年間で高校を卒業していると述べた。学年の枠を超えた習熟度別授業、オンライン・イングリッシュの導入、英語を実践できるイベント、東北インターナショナルスクールとの合同授業などを実施。平成十六年四月にはスーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクールとして文部科学省の指定を受けた。研究内容は「スピーキングとリスニングに重点を置いたディスカッションプログラムの開発」「徹底した基礎力の育成、個のアイデンティティーの確立」。委託費を使って他校への見学研修を行うなど教員の目が輝いて、研究に励んでいる。こうした意欲が他教員へも飛び火、他教科の見直しも始まったと堀田校長は述べた。


生徒指導部会で講演する黒澤参与

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