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記事2005年2月23日 1969号 (6面) 
明治大学社会連携促進知財本部シンポジウム
大学の知的財産活用と人材育成

納谷総長兼学長


妹尾教授

 明治大学社会連携促進知財本部(山元洋本部長、東京都千代田区)は一月二十日、明治大学アカデミーコモンで「明治大学社会連携促進知財本部シンポジウム2005」を開催した。シンポジウムでは、「大学の知的財産活用と人材育成」をメーンテーマに、同大学における高度職業人育成の実情を踏まえ、「産」「官」「学」の幅広い角度から活発な意見が交換された。

高度専門職業人教育 納谷氏
互学互修による知財マネジメント 妹尾氏


 山元本部長は「社会連携促進知財本部この一年」と題して、主な事業展開を中心に報告した。同本部は二〇〇三年七月開設、八学部七大学院研究科および専門職大学院を擁する総合大学の利を生かし、学域にとらわれない「文理融合型」による幅広い知的財産の創出を目指すとともに、「地域密着型」の事業を提案・実施している。産・官・学の交流を通じて一層社会貢献していく方針だ。

基調講演(1)納谷廣美氏
明治大学総長兼学長

 納谷廣美・明治大学総長兼学長が「明治大学における高度専門職業人教育」と題して講演。納谷総長兼学長は同大学の創設、特色、専門職大学院開設など最近の制度改革、および今後の大学運営に関する基本的視点――について言及した。
 この中で、納谷総長兼学長は社会貢献を柱の一つに置き、理論中心の研究から社会ニーズへの積極的な対応の実学必要性を指摘した上で、「日本は科学立国のための教育が大切だ。今、これを言わなければ、日本の若者に夢を与えられないし、生きがいも与えられない。われわれも意識改革をして、大学のあり方を考えなければならない。大学を活性化するためには、専門職大学院はいいアイデアだと思う。先端的なことを取り入れて改革をしなければならないことはきちんとやる。大学では教養教育をしっかり行い、学生に期待感・夢を持たせるようにしたい」と強調した。
 妹尾堅一郎(東京大学先端科学技術研究センター特任教授)氏は「『互学互修』による知財マネジメント人財の育成」と題し、知の変容と多様化、日本産業の問題と知財マネジメントの必要性、教育モデルの変容――を中心に、科学技術、経営、知財・法務の融合(融合領域)について講演した。

基調講演(2)妹尾堅一郎氏
東京大学先端科学技術研究センター特任教授

 妹尾氏は知の新領域の創出モデルとして、インター(学際知)、ニッチ(間隙知)、フュージョン(融合知)、トランス(横断知)、メタ(上位知)、フロンティア(尖端知)(せんたんち)の六つの理念型があることを指摘、「知財マネジメントはこのすべての要素を含んでいる」と述べた。
 従来は、大学知の伝達、企業知の社会貢献、市民知の開放とはっきり区別されていたが、「これからは大学、企業、市民が融合して互いに教え合い学び合うようにしなければ、本当の先端領域は開けないのではないか」と問題提起した。
 知財マネジメントは「経営」「科学技術」「知財・法務」の複合・融合領域であり、先端的かつ流動的領域と指摘した上で、「この先端的で融合的な領域を研究し、専門職人材育成にチャレンジしている。ここでは体系的知識を持っているだけでは役に立たない。正解のない、不確かで、断片的な知を活用する力、創造する力、考え抜く力が必要だ。そのためには疑似体験的な訓練が必要だ」と強調した。
 また、教育学習モデルの変容という視点から、「日本の大学の九割以上は一方的な知識の伝達という、教える・教わるのモデルで行っている」と述べ、教員が学ぶ人を助けるという「学習支援」、そして学び合うという「互学互修」の考え方を提案した。
 「互学互修」とは「先端的な領域については、各分野の実務家が持つ最新の知を、『お互いに学び合い・教え合う』ことが有効的である。その結果、新たな知を生み出すことをしてほしい。教育とは学習者の創造の場である」とまとめた。

知財社会担う人材と大学の役割テーマに
実務家育成、知財戦略必要


パネル討議
 「知財社会を担う人材育成と大学の役割」をテーマに、六人のパネリストによって活発な意見交換が行われた。パネリストは、講演を行った妹尾氏のほか、野村武史(TDK株式会社取締役・知的財産センター長)、伊藤学司(文部科学省研究振興局研究環境 産学連携課技術移転推進室長)、黄立培(清華大学教授)、向殿政男(明治大学理工学部長)、棚橋祐治(明治大学法科大学院教授)の各氏で、モデレータは森下正・明治大学知的資産センター副センター長(明治大学政治経済学部助教授)が務めた。
 野村氏は企業の立場から「グローバル競争力と企業価値増大のための知財戦略上から必要とする人材について」と題し、同社の知財戦略について「限られた時間・人材の中でいかに効率良く成果を出せるかが問題で、企業経営の一環として研究開発戦略、事業戦略、知的財産戦略の三位一体で立案・実行することが大事だ」と語った。
 伊藤氏は行政の立場から専門職大学院について言及、「実務家を育成してもらうことがポイントで、現在MOT系のもの、知財人材にターゲットをあてているものもある。先端分野では、産学界と連携して、対話を通じて切磋琢磨しより良いカリキュラムを作ってほしい」と述べた。
 妹尾氏は社会人教育の現況について説明した後、「先端領域については、上の世代から下の世代へ継承することができないから、これをどのようにするかという問題がある。先端人材育成では大学などの高等教育機関、エクステンション講座、教育産業、企業内教育機関、通信教育などがある」と指摘した。
 これに対し、黄氏は清華大学での産学研について取り組みを報告、「大学は教育ばかりではなく、研究も中心にする必要がある」と述べた。
 また、棚橋氏は明治大学法科大学院での「知的財産と法」の授業について発表、向殿氏は「明治大学理工学部・理工学研究科における人材育成」の中で、理工系と社会・人文系との連携、IT系の拠点としての秋葉原クロスフィールドへの進出など、当面の戦略について報告した。


活発な意見交換が行われたシンポジウム

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