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記事2005年11月13日 2002号 (2面) 
私大等教員の授業改善白書 私大情報教育協会
学生の学習意欲向上に苦慮
IT活用は増加傾向
私立大学情報教育協会(戸高敏之会長=同志社大学工学部教授)の「私立大学教員の授業改善に関する調査結果」がこのほど明らかになった。この調査は昨年十一月から十二月にかけ行われたもの。調査結果からは学生の基礎学力不足が一層顕著で、教員は学生の学習意欲を高めることに苦慮していること、ITの活用は三年前に比べ増加しており、その範囲も資料提示・情報検索から、シラバスの掲載や音声・動画の活用、自学自習への活用と拡大していることなどが明らかになった。


 「私立大学教員の授業改善に関する調査」は私立大学情報教育協会が三年ごとに実施しているもの。調査対象は、同協会加盟大学・短期大学の専任講師以上の全専任教員。今回は、大学三百三十九校の五万六千三百四十五人と短期大学百六十一校の四千五百人が対象となり、回答は、大学三百三十五校、教員二万五千五百二十一人、短大百五十五校、教員二千三百四十七人から寄せられた。回収率は大学四五%、短大五二%だった。
 調査項目のうち、▽授業で直面している問題点では、学生・教員・大学に関してそれぞれ尋ねている。
 まず、学生に関する問題として挙げられたのは、一位が「基礎学力がない」(大学六〇・一%、短大六六・〇%)、二位は「学習意欲がない」(同四〇・四%、同三七・六%)だった。この二つについては、調査の回を追うごとに割合が増加しており、深刻な状況が続いている。教員に関する問題としては、「学習意欲を高める工夫が難しい」(同四七・六%、同五〇・〇%)が一位で、二位には「学内で関連教科と連携をとっていない」(同二七・八%、同二七・五%)が挙げられ、学生の意欲を引き出す授業づくり、教授法の改善に苦慮している様子が伺える。
 大学に関する問題では、人・物・金の面で「教育に対する組織的な支援がない」(同四四・二%、同五〇・六%)が一位、二位は「教育内容・教育方法を議論するための専門組織がない」(同二五・八%、同三二・九%)となっており、大学のファカルティ・ディベロップメントへの取り組みが十分ではない、さらにはその成果を評価する仕組みが十分でないとしている。
 ▽直面している問題点を踏まえて今後二年以内に実現したい授業との調査項目では、「動機付けを徹底し学生が主体的に学ぶ授業」(同七九・八%、同七六・二%)が一位で、以下、順に「学生の反応をとらえ、理解度に応じた授業」「対話を重視した授業」「事前・事後学習の徹底」「座学と体験を組み合わせ、問題発見・解決能力を高める授業」と続いている。

7割以上 授業のシナリオ作り必要
IT活用 授業に刺激もたらす


 ▽授業改善のための課題では、教員・大学それぞれの課題を尋ねている。教員の課題としては、七割以上の教員が学生の学習意欲を高めるための「授業のシナリオ作り」が必要としており、「課題学習の徹底と理解度把握」「情報技術の活用」も四割近くの教員が課題としている。一方、大学の課題としては、「授業科目間の実質的な連携」「教員の意見を取り入れた施設・設備の整備」との回答が四割を超え、「教育政策の明確化」「人間力を高める個人教育」「教育業績評価制度の構築」が続いている。
 ▽授業でのIT活用状況を見ると、大学・短大とも当初は情報検索や教材・資料提示といった活用方法が主であったが、今回の調査では「ウェブに授業詳細情報を掲示」が八〇%弱で最も回答率が高く、続いて「自学自習(eラーニング)」「現実感覚を持たせる(音声・動画の利用)」「課題提示、レポート提出」での利用が進んでいる。
 こうした回答から、ITが学生の学習支援に欠かせないものとなっている様子がうかがえる。
 ▽授業でのIT活用事例の項目では、具体的な例を挙げた回答が寄せられた。現在の事例として、例えば社会科学系商学「貿易商務論」で、産官学連携により地域の専門家による貿易実践講座を設置し、人と組織のネットワークによる情報の活用と社会貢献を目指すなど、現実感のある授業を展開しているものがあった。また将来(二年後)のIT活用事例としては、経済学・経営情報学「オペレーションズ・リサーチ」で、経営上の難しい選択を迫られた経営者の状況とプロフィルを映像で紹介し、意思決定の選択を行うというものがあった。携帯電話のCGI機能を利用して集計、実際の経営判断と比較、結果をプロジェクターでリアルタイムに表示して、判断力の育成に利用するという。また、看護学「保健実習」では、授業科目に関連した現場のカメラで撮った映像をリアルタイムで直接教室にウェブ伝送する遠隔授業を試みるとしている。
 ▽授業でITを活用した場合の効果と問題点との項目では、効果として一位となったのが「授業に刺激をもたらす」ということだった。一方、IT活用の問題として挙げられたのは「理解しているようで理解していない」「ノートをとらない」「教員個人で対応困難」などで、学生がノートをとる習慣をなくしつつあることを問題と指摘している。また、効果を考えないITの多用は好ましくないとしている。
 ▽一大学では解決できない取り組みとの項目では、「教員向け情報技術活用の講習」を望む回答が最も多く、続いて「学問分野別の授業改善交流コンソーシアムの運営」「教育の産官学連携の実現(社会からの授業支援、大学からの出前授業など)」の順で回答が寄せられるなど、大学の枠を超えたレベルでの取り組みが待たれているようだ。今回の調査から、同白書では、教員自身の課題として「授業のシナリオ作り」を最大の課題だとしており、大学の課題としては「教育理念はあるが、それを具現化するための教育政策が明確ではない」とし、大学を超えた課題として「分野別コンソーシアムによる授業改善の情報交流、共同授業の企画・実施」「授業運営能力を養成する方策のガイドライン作り」「社会の感覚、体験を導入するための教育の産学官連携の仕組み作りと振興普及」等が必要と提案している。

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