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記事2004年9月23日 1948号 (2面) 
中央教育審議会の審議動向
柔軟性持つ新たな学士課程
総会に審議の概要報告
教養課程三年修了で大学院専門教育は四〜六年修了
短大は学位の位置づけ検討

【大学分科会】

 九月九日、都内で中央教育審議会の総会が開かれ、その中で佐々木毅・大学分科会長(東京大学長)は、これまで同分科会内で審議してきた、「我が国の高等教育の将来像(審議の概要)」について報告した。
 これは、二〇一五年から二〇年ごろまでの、わが国の高等教育の全体構造と、そこに至るまでの施策の方向性を示すもの。日本の高等教育の進むべき方向として(1)誰もがいつでも学べる高等教育(2)誰もが信頼して学べる高等教育(3)世界最高水準の高等教育(4)「二十一世紀型市民」の学習需要に応える質の高い高等教育(5)競争的環境の中で国公私それぞれの特色ある発展と、五つの方向性を示した。
 (1)としては、十八歳人口が低位で安定し、従来の試算より二年早い全入時代の到来が予想されること、IT技術の発展に伴い、履修形態が多様化していることから、誰もがいつでも学べる高等教育が実現され、競争的環境の中で各高等教育機関の個性・特色の明確化が一層重要としている。
 (2)では、事前・事後の評価の適切なバランスによる高等教育の質の保証の重要性を指摘。
 (3)の世界最高水準の高等教育実現のためには、大学院の拡充・整備が必要であり、大学院を「学位を与える課程」として再整理すべきとしている。
 (4)では、学士課程について、主専攻・副専攻を組み合わせることなども含めて、多様で質の高い教育を展開することを求めた。特に総合的教養教育を行うものは、学部三年修了による大学院進学を活用し、専門教育課程は、修業年限を四〜六年の間で定められるようにするなど学士課程の新たな形が提示されている。
 短期大学については、他の短期高等教育機関との差別化に一層努めるべきと指摘。
 地域社会と密着し、幅広い年齢層に対応した生涯学習機会を提供する役割をもって、知識基盤社会の土台作りとしてふさわしい位置づけがされるよう、課程の改革や特徴の明確化を求めている。その実現を前提として、短期大学の課程修了を学位に結びつける検討の必要性にも触れている。
 (5)では、多様な機能に応じた発展を支援するため、多様な機能に応じたきめ細やかなファンディング・システムが必要としている。それによって、国公私、三つの設置形態の教育機関による、緩やかな役割分担と適正な競争条件を確保するためにも、高等教育への公財政支出の抜本的拡充と民間資金の積極的導入を求めている。

米国教委制度視察結果を報告
次回に中間報告案提示

【地方教育行政部会】

 中央教育審議会教育制度分科会の地方教育行政部会(部会長=鳥居泰彦・日本私立学校振興・共済事業団理事長)は、九月十日、東京都内で、第十一回の会合を開き、小川正人委員(東京大学大学院教育学研究科教授)の米国調査訪問報告を踏まえて、地方分権時代における教育委員会の在り方について、審議した。
 小川委員は、七月十一日から十七日まで、全米州教育委員会協議会、全米州教育長協議会、メリーランド州教育委員会等を視察調査した結果を報告した。米国では、教育委員・教育長は任命制と公選制があるという実態について説明したうえで、教育委員・教育長の選挙について、投票率の低さなどの批判はあるが、教育委員会制度の意義は「権力の抑制と多元化」であるということで最大限評価されていると感じた、などと話した。
 また、その後行った目由討議の中で鳥居部会長は、九月六日に静岡県教育委員会、静岡市教育委員会、同岡部町(人口約一万三千人)教育委員会、岡部町立岡部中学校を視察訪問したことに触れ、教育委員会や学校評議員との連携をうまく行っている岡部中学校の校長から「学校運営協議会が導入されたら、少し窮屈に感じるかもしれない」との意見があったことなどを話した。
 この日の審議では、「教育のナショナルスタンダードを保証するために、教育委員会は、なくてはならない制度」であり、保持すべきという意見があったが、また「教育委員会にしかできない仕事はいったいなんなのか、もう一度考えるべき」といった廃止を前提とする意見も出た。さらに、機能を強化すべき、権限を委譲すべきなどの意見もあった。
 次回の会合ではこれまでの審議を踏まえ、事務局から中間報告骨子案が提示される予定。それをもとに三回ほどの審議を経て、中間報告をまとめる予定だ。

小学校の就学年齢一年前倒し
前後一年の弾力化等さまざまな意見

【初等中等教育分科会】

 中央教育審議会の初等中等教育分科会(木村孟会長=大学評価・学位授与機構長)は九月十日、都内で二十七回目の会合を開いた。
 同分科会は四月以降、月に一回程度のペースで義務教育に係る諸制度の在り方の検討を続けてきたが、その課題を検討して六回目となるこの日は、これまでの検討における主な意見のまとめが提示された。
 このまとめは、これまでの委員の意見発表や自由討議の内容を、基本的な問題意識、義務教育の目的・目標、義務教育の修了の考え方、就学時期、就学年齢、学年の区分、学校間の連携等に分け整理したもの。
 この中で小学校の就学時期に関しては、現在の就学年齢を原則にしたうえで、プラスマイナス一歳の幅で就学時期を保護者の選択の余地が入るようにすることや、就学時期を親と学校が相談して決める仕組み、また五歳から就学し、義務教育期間を五・五制とし延長することなどを求める意見があった一方、家庭や地域の教育力の低下の中で就学年齢の引き下げは難しく、むしろ幼稚園と小学校の接続を強化する方策を検討すべきだとの意見もあった。
 就学年限に関しては、五歳から十五歳までの十年間のうち九年間を修学期間として、就学時期については弾力化すべきだとする意見や、就学年限の延長、高校教育まで全入・無償を求める意見、また高校全入や無償化に反対する意見など費用負担のあり方に関する意見も数多く出された。
 学校の区分、学校間の連携に関しては、四・五制への移行や六・三制の維持、制度変更への慎重論などさまざまな意見が出されている。
 このほか義務教育の修了の考え方に関しては、現行の年齢主義(一定の年限を学校で過ごす)を支持する意見の一方で、修得主義(一定の年限の中で修得すればいい)への移行の必要性を指摘する意見もあった。
 同分科会は平成十六年度末を目途に審議の経過を公表する予定。

10月の総会に中間報告案を提出
幼小の連携を強化
一種免許状持つ教員を増加

【幼児教育部会】

 中央教育審議会初等中等教育分科会の幼児教育部会(田村哲夫部会長=渋谷教育学園理事長)は、九月十四日、都内で十八回目の会合を開き、「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について」と題する中間報告案をほぼまとめた。中間報告案に関しては、保育所など幼稚園以外の幼児教育施設に対する提言の表現などをめぐって委員からさまざまな意見が出されたが、最終的には部会長らが意見に沿って修正し、九月二十九日の初等中等教育分科会、十月二十一日の中教審総会に提出することになった。
 また同部会と厚生労働省社会保障審議会児童部会との合同の検討会議が、八月二十五日に公表した、いわゆる総合施設に関する中間報告や文部科学省が今後進める義務教育改革の内容とスケジュールの概要が事務局(文部科学省)から説明されたが、委員からは幼児教育と深くかかわる小学校就学年齢の弾力化の見通しなどに質問が出された。
 今後の幼児教育の在り方に関する中間報告案は、幼稚園等と小学校の連携の強化や幼稚園教員の資質及び専門性の向上、幼稚園等施設(幼稚園や保育所等)による家庭や地域社会の教育力の再生・向上などについて提言しており、このうち幼小連携では、幼稚園等施設で主に五歳児を対象に挑戦的な課題など共通の目標を協力工夫して解決する「協同的な学び」の奨励、幼児期から児童期への教育の流れを意識して、幼児教育における教育内容や方法の充実、合同研修の実施、幼小連携推進校の奨励、幼小連携教育の検討等を提言している。
 また幼稚園教員の資質及び専門性の向上では、養成段階で幼稚園等において就業体験をするなど実践経験を積むこと、一種免許状を有する教員の増加、男性教員の割合を高めること、処遇の改善等による経験豊かな教員の配置、二種免許状所持者の上級免許状取得にむけ免許法認定講習等の実施方法の改善検討、地方公共団体における一種免許状取得促進の努力目標の設定等を求めている。
 家庭や地域の教育力の再生・向上では、幼児を持つ家庭に対する子育て相談の実施や情報提供、親子参加型の事業等の実施、また幼稚園等を利用していない子育て家庭に親子登園、園庭開放、子育て相談等に幼稚園等が積極的にかかわっていくこと、幼稚園における預かり保育の明確化などを提言している。このほか子育て家庭に対する企業等の働き方の見直しなども求めている。

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