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記事2004年9月23日 1948号 (5面) 
吉田茂理事長に著作権ゼミナールの趣旨を聞く
文化を支える著作権 知的財産が将来を作る


 社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC、吉田茂理事長、東京・渋谷区)は、著作権保護の大切さを、私立学校の中学生や高校生、保護者、教職員に知ってもらおうと「第一回JASRAC著作権ゼミナール」を、十二月四日、東横学園中学校・高等学校で開催する。同時に全国の私立中学・高校にインターネット中継を行う。著作権ゼミナールは、今後三年間、著作権思想普及のための継続事業として実施される。さらにその成果を、著作権教育のための教材・カリキュラム開発に活用する。著作権ゼミナールの趣旨など、吉田理事長に伺った。

社団法人日本音楽著作権協会理事長
 吉田茂氏略歴=東京大学法学部卒業後、文部省入省、文化庁著作権課長、文化庁長官、国立教育研究所所長などを歴任、平成十二年から現職(文中敬称略)

著作権思想の普及
人間の精神の所産を尊重


 ――最初に、「JASRAC著作権ゼミナール」の趣旨についてお話しください。
 吉田 今回の著作権ゼミナールは、会員の拠出する会費によって運営する文化事業の企画の一つとして、JASRACの総意の中から生まれてきたものです。著作権を保護していくのは、世界各国とも、非常に難しい、厳しい道で、「百年河清を俟(ま)つ」というような状況です。日本が著作権制度をつくったのは、すでに十九世紀のことで、以来三世紀目に入っていますが、それでもなお、著作権擁護について、なかなか理解を得られない。
 「物」を盗んではいけない、粗末に扱ってはいけないということは、だれでもよく分かります。ところが、精神の所産、あるいは文化的な成果は、基本的に物のように形がないために、おろそかにされがちです。例えば文庫本の夏目漱石の『吾輩は猫である』は物質的にいえば紙と印刷文字だけです。
 しかし、そのほんとうの価値は、その背後にある精神的な所産であり、そこからかもし出される人間の心の反応です。
 ある意味では、二十一世紀は、物より精神的な所産の方が大事になる。そういうものを尊重していく、敬意を払う、あるいは、一歩進んでつくっていく。それを目指していくのがこれからの社会であろうし、それにかかわっているわれわれ著作権管理団体は、それについて力を尽くしていこうというのが、基本的な志です。
 それは、単に著作権管理団体の希望ということではなくて、文化の進歩や経済の発展に大いに役立つのではないか、まず、子供たちに、人間の精神の所産を尊重するということを考えてもらいたい、分かってもらいたい、ということから、「著作権ゼミナール」を開くことになったのです。

 ――特に若い人たちに著作権について理解してほしいということでしょうか。
 吉田 知的財産権の国際的保護のため、一九九四年にWIPO(世界知的所有権機関)が設立されるなど、近年、著作権や商標権、意匠権などの知的財産が、文化の領域を踏み越えて産業・経済でも重要なテーマになっています。日本は今後、旧来型の製造業では、アジア諸国との競争に負けてしまうでしょう。
 ですから、知的財産を活用していくことに力を注いでいかないと、率直にいって日本の将来はない。日本が生き残る道としても、知的財産を厳しく実感していかなければならない。
 その切り口の一つに「著作権ゼミナール」がなればと期待してもいます。宮崎駿さんのスタジオ・ジブリのつくるアニメーション映画は、世界的に受け入れられて、日本に大きな恩恵をもたらしています。あれも著作権のかたまりのようなものです。もし著作権がなかったら、精神の働きの結実・成果がただ同然のものとなってしまうでしょう。こうした知的財産は、将来のわれわれが杖(つえ)とも柱とも頼むものです。にもかかわらず、危機的状況なのです。

知的財産や文化を伝える
教材開発のサポート


 ――例えば、インターネットで、違法に音楽ファイルが交換されているといったことですね。
 吉田 そうしたファイル交換ソフトを利用した行為は、インターネットに音楽著作物を無断でアップしただけで違法です。つくった人の音楽を、CDに入っているものやネットで購入・配信されてきたものを自分で聴くのはいいけれど、それをだれかに与える、あるいは売るということはやめてください、つくった人の権利を尊重してください、といっているわけです。著作物で難しいのは、まさにデジタル化の時代だからです。
 著作権の場合、つくった人が亡くなって五十年間は保護されますが、後はパブリックドメインです。ですから、モーツァルトの音楽はたくさん使われていますが、すべてパブリックドメインです。ある方が「私はモーツァルトの音楽を聴くたびに、それをただで聴いていることに罪悪感を覚える。あんな素晴らしい音楽を聴いても、私はモーツァルトに何も報いることができない」と書いておられましたが、それを読んで、そういうふうに感じる人もいるのだなあと感激しました。
 モーツァルトも、あれだけ大きな仕事をした人なのに、貧窮のなかで亡くなった。シューベルトも、エドガー・アラン・ポーもそうです。

 ――現在は著作権料収入で、生計を立てることができるようになったのでは。
 吉田 とんでもない。確かに、著作権法ができて、それ以前に比べれば、職業として収入を得ることができるようになりましたが、今でも、著作権料だけで生活できるのはほんの一握りのヒットメーカーだけです。ほとんどの会員は副業で生計を立てている。アメリカを見ても、ジョージ・ガーシュイン、バーンスタインなど音楽家として成功した人はいます。しかし、フォードの社長のそれに比べれば、収入はケタ違いに低いのではないでしょうか。それでもアメリカは恵まれているほうです。著作権料だけで生活できる人は、全体としては、微々たるもので、ほとんどの人は副業をしながら、少しでもいい作品を書こうと頑張っているのです。

音楽出版社と権利の譲渡契約結び
その作品をプロモートする


 ――著作者の権利としては著作者人格権や著作権(財産権)があり、そのほかにも著作隣接権(実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者の権利)や、原盤権(マスターテープ)と、いろいろありますし、契約業務も含めて、創作者が著作権を行使するのも大変なのではないかと思われますが。
 吉田 われわれが会員など著作者から著作権を預かりますが、具体的には、著作者が会員である音楽出版社と権利の譲渡契約を結び、音楽出版社がその作品を世の中にプロモートしていくわけです。そうやって放送局が音楽を使う、あるいは人気タレントが歌ったりすると、今度はわれわれが放送局などとその音楽の利用料を交渉して徴収し、まとめて、会員に配分していくわけです。
 それは海外の著作物についても同じで、日本は「ベルヌ条約」「万国著作権条約」「WIPO著作権条約」「WTOのTRIPS協定」などに加入していますので、それをふまえてJASRACは世界各国の著作権団体と相互管理契約を結び、お互いの国の作品を管理し合っています。ですから、われわれは年中、ハード・ネゴシエーターをやっていますよ。

 ――高校に教科「情報」が導入され、著作権などの情報モラル教育の必要性がいわれていますが、なかなかよい教材がないのが現状です。
 吉田 「情報」の導入は世の中のすう勢をみた、適切な処置だと思います。われわれは著作権管理団体として、教育委員会や学校の教員の方がカリキュラム開発や教材開発をするときに、何か役に立てるような材料を提供していきたい、さらには、知的財産や人間の文化をどう伝えていくかという問題についてのカリキュラム・教材開発のサポートをしていきたいというのが、この「著作権ゼミナール」の目的の一つです。

基本的には作家の許諾必要
学校は特別な制限下に


 ――学校等教育機関が、授業で著作物をコピーして使う場合、特例措置がありますね。
 吉田 通常、著作権のある著作物を使う場合、例えば写真をコピーして使う場合はその写真家の許諾を取らなくてはいけない。ただし、著作権法第三十五条で、学校の授業では一定の限度でコピーして使えるとしています。コピーをする人も以前は教師だけが可能でしたが、著作権法の改正で、授業で使う場合に限り生徒がコピーしてもいいということになりました。また、遠隔授業でも使えるようになりました。これは教育の持つ重要な価値から、子供たちのために、著作権を制限している、つまり創作者に我慢してもらっているのです。
 ところが、一般の方々がただでコピーして写真を使ったら、写真家は立ち行かなくなる。それこそ、文化の泉が枯渇してしまいます。ですから、著作権は基本的に作家のものであり、使うときにはその人の許諾を取っていただく、その場合通常は利用料を支払っていただく、というのが著作権の原則です。それでも著作権者からみると、物の保護に比べて、精神的価値の保護は非常に低い。
 学校の場合には、先程申し上げたように教育の重要な価値を考えて、特別な著作権制限があるのだ、ということも教育していくことが大事なのです。
 結局、著作権料をきちんと支払うことが、経済を立ち上げ社会を豊かにしていく。あるいは文化を盛んにしていく。例えばそれが音楽であれば、素晴らしい音楽となって音楽愛好者にまた戻ってくる。日本ほど、いろんな種類のCDやレコードが出ている国は少ないそうです。アメリカやヨーロッパ主要国は作家の死後七十年、著作権が保護されます。日本は死後五十年、海外に比べると短い。しかし日本は、童謡、古典音楽、Jポップ、現代音楽まで出している。多種多様の音楽が聴ける。
 これは、レコード会社など著作隣接権者の努力だと思いますが、しかし、利益は上がっていない。赤字と言われています。そこが、文化産業のつらいところです。
 大事なことは、文化を支える作家の創作意欲をつぶすことは、結局CDなどの音楽作品の種類・ジャンルが少なくなることであり、音楽愛好家の期待に応えられなくなる。そんな意味で、われわれが集めている著作権料は、作家にとって、次の創作のための「糧」なのです。

【平成16年度下半期実施の文化事業(抜粋)】

1.JASRACシンポジウム
 テーマ:音楽コンテンツ流通の現状と未来
 開催日:2004年11月26日(金)
 会 場:イイノホール(千代田区・内幸町)
2.JASRAC講座ミュージック・ジャンクション
 コーディネーター:日本ポピュラー音楽学会会長 三井 徹氏(金沢大学教育学部音楽学教授)
 会 場:けやきホール
 第1回 2005年2月10日(木)
 第2回 2005年2月21日(月)
 第3回 2005年3月9日(水)
 第4回 2005年3月10日(木)
3.JASRAC著作権ゼミナール
 開催日:2004年12月4日(土)
 会 場:東横学園中学校・高等学校
4.JASRAC文化講演会
 開催日:2004年9月17日(金)
 会 場:ヤマハホール(中央区・銀座)=終了
5.JASRAC音楽療法講座
 開催日:2005年2月4日(金)
 開催日:2005年2月23日(水)
 開催日:2005年3月17日(木)
 会 場:ヤクルトホール(港区・東新橋)

【第1回JASRAC著作権ゼミナール】

主催:社団法人日本音楽著作権協会 
日時:12月4日、会場 東横学園中学・高校


 このゼミナールは、私立中学校・高等学校の生徒、保護者、教職員を対象に「音楽著作権」に関する基本的な知識やルールの獲得を目的として開催する。さらにその成果を著作権教育のためのカリキュラム開発、教材開発に活用する。(今後三年間の継続事業)

1.開催日時及び会場
 日時=平成16年12月4日(土曜)午後1時30分から4時30分まで
 会場=東横学園中学・高等学校(東京・世田谷区等々力)
2.参加方法
 会場での参加=会場となる東横学園中学・高校の生徒、保護者、教職員および参加を希望する中学・高校の生徒、保護者、教職員
 インターネットによる参加=視聴を希望する全国の私立学校にネット中継し、視聴生徒にアンケート参加をしてもらう。
3.プログラム
 第一部 トーク&ミニライブ
 講師は中高生に人気の高い作家・ミュージシャンを予定。ミニライブを交えて、著作権への理解を深める。
 第二部 分科会
 第一会場(生徒対象)
 第一時限「音楽界ってどんなとこ」
 Q&A方式で、会場の生徒たちが回答、著作権の重要性について理解を深める。
 第二時限「音楽著作権博士ジュニアはだれ?」
 違法コピーの事例をもとに著作権の重要性や必要性を学ぶ。
 第二会場(教職員・保護者対象)
 第一時限「あなたもいつのまにか犯罪者になるかも!?」
 著作権侵害の実例と民事・刑事上の制裁など、具体例をもとに著作権と著作権侵害について具体的に学び、音楽著作権の重要性と著作権侵害の罪の重さを理解してもらう。
 第二時限「学校現場の著作権問題」
 学校現場における著作権問題についても具体的な事例を基にその重要性、必要性を学ぶ。
 このほか、会場でのアンケート調査、指定サイトでのミュージシャンからのメッセージによるアピール、ゼミナールの内容を編集し、学校現場で著作権教育に活用できる教材開発・カリキュラム開発を行い、ネット上で提供する。
 ◇ お知らせ ◇
 現在ホームページを作成中です。各私立中学高校に九月末に参加案内とID・パスワードを郵送しますので、ホームページからログインしてください。
 ホームページアドレス=https://jasrac−semi.jp


第1回JASRAC著作権ゼミナールホームページ

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