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記事2004年9月13日 1947号 (5面) 
新世紀拓く教育 (26) ―― 豊島岡女子学園中学・高校
毎日5分運針継続の進学校
自己点検・評価、シラバス作成
 豊島岡女子学園中学校・高等学校(二木謙一校長、東京・豊島区)は、この十年、急速に進学実績を上げてきた。国公私立難関大学に多数の合格者を出しているというだけでなく、医学・薬学・理工学部など理系進学者の割合が三九%にのぼる。文系では弁護士などの専門職を目指す生徒が多いなど、生徒たちの目的意識が明確なのである。
 これまで、豊島岡女子学園は、常に生徒・保護者の求めるものを看取し、さまざまな改革を断行してきた。その原動力となったのは、戦後、廃校寸前にまで追い込まれたという、強い危機意識だ。
 昭和二十五年、生徒が好きな学校に行けるようにと、私立としては初めて公立高校との併願を取り入れ、入学手続き締め切り日を公立の合格発表日としたことが、その始めだった。昭和四十年代半ば、高校応募者が激減する時期があった。その時、豊島岡女子学園にもっと特徴を持たせなければと、同校は進学校への道を歩み始めた。
 平成元年、中学校で二度目の定員増を行い、一学年定員を百五十人とした。これを機に、入試日を二月二日に変え、入試日一日校との併願体制を敷いた。同時に教育課程も新しくした。
 その六年後の七年、早稲田・慶應・上智・理科大学へ大量の合格者を出した。翌年には、東大にも五人が合格した。
 「それが大きな転換点だった」と二木校長は言う。「入試日の変更で、成績のよい生徒が集まるようになったこと、それを本校の教育の特徴であるきめ細かな教育とコミュニケーションのよさで、進学実績につなげていったのです」。
 理系に強いとの評価が生まれたのは、特に理系に偏ったカリキュラムをつくったわけではなく、ただ、生徒たちのニーズに応じて、例えば、一・三年次に化学を履修する生徒が二年次にブランクを埋めるための授業がほしいと言った場合、教員が自主的に年間を通して化学の補習を行うといった取り組みが、「豊島岡女子学園は理系に強い、と伝わって広がっていったのではないか」と小林博子教頭は話す。
 取材にうかがった八月七日は、二木校長の新しい取り組みの一つである夏休みの「クラブ体験」の日だった。小学生とその保護者が大勢つめかけていたが、学校側の話では、申し込みは四百七十人、保護者を入れると一千人くらいになるという。テニスや漫画研究会、コーラス、阿波踊りなどいろいろなクラブの体験教室が開かれていた。特に人気だったのは化学・生物・物理の実験教室で、子供たちでいっぱいだった。運営は生徒に任せているとのことで、説明や実験をしているのはいずれも生徒たちだった。
 クラブ活動は、全員参加が原則。「授業での優等生が社会で活躍するとは限らない。さまざまな活動を通して、その子の特徴を見つけること、そして、センス・発想・努力・創造力を育てていく必要がある」(二木校長)からだ。
 一方で、昭和二十三年から今も変わらず行われているのが運針である。生徒たちは毎日五分間の運針をする。針に糸を通すことさえよく知らない世代の子供たちだから、入学当初は不安に思っている者も多いという。しかし、中高一貫の生徒は六年間、毎日やることで、運針が習慣化する。集中力もつく。その積み重ねがいかに大きいか、いかに大切かを、生徒自身が体得する。東大を受験した生徒が、テストの休み時間に落ちつかないからといって、運針をやって落ち着きを取り戻したという話もある。「そういう生徒はとても多い。運針なんていまや死語でしょう。しかし、それを戦後から変わらず続けている意義は大きいと思います。大切なものは変わらないのです」と小林教頭。
 長い間、豊島岡女子学園を引っ張ってきた二木友吉前校長(現学園長)が昨年三月に勇退。それに伴い、請われて國學院大學の専任教授から校長となった二木謙一校長は、就任後すぐ、新たな改革に取り組んだ。生徒たちに、早い段階から進路を考えさせるために「輝く先輩に学ぶ」と題して、現在活躍中のOGの講演会を始めた。七月十七日の第一回の講演者は、日本テレビアナウンサーの山本真純さん(平成七年卒業)だった。
 組織改革も行い、今年度から、教務部長と総合企画部長を置き、教務部長の下には学年主任会議と教科主任会議を置いた。一方、総合企画部は、進路指導・生活指導・生徒会指導・環境防災・広報など教務以外の分野を担当する。これで、以前にも増して動きが速く、小回りがきくようになった。
 二木校長には今後さらなる進学実績の上昇という期待がかかる。そのためには、教員にいかに力をつけさせるか、いかに取り組ませるかが課題だが、第一段階として、今年三月、全教科の自己点検・評価を行った。そこで出てきた改善点のうち、できるものはさっそく四月から実施した。同時にシラバスの勉強会を行い、二学期のシラバスの作成を教員に課した。九月一日には各学年・教科の二学期のシラバスを全生徒に配付する。来年度は、一年間のシラバスをつくる。
 矢継ぎ早の改革は、二木校長がこの先二年間に照準を合わせているからだ。
 平成十七年三月、東京都の進学指導重点校が、指定後初めての卒業生を送り出す。十八年三月には進学指導重点準備校がやはり初めての卒業生を送り出す。
 「その時、本校が、都立校にいかに水をあけることができるか、いかに上位にいるかが勝負。同時に、いかに豊かな教育内容を与えることができるか、この実績を示すことがやはり、勝負だと考えています」(二木校長)。


中高6年間のカリキュラムの中で 生きた学問を身につける


豊かな教育環境が生徒たちの 充実した学校生活をつくり出している

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