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記事2004年8月3日 1944号 (2面) 
新私学部長に聞く 文部科学省高等教育局私学部長 金森 越哉氏
私学振興は国の責務、最大限努力
一般財源化は助成水準にばらつき、格差
教育選択機会喪失、質低下懸念


  文部科学省の七月の人事異動で金森越哉・大臣官房審議官(初等中等教育局担当)が高等教育局私学部長に就任した。そこで平成十七年度概算要求や厳しさを増す私立学校の経営環境など当面する課題への対処方針などを伺った。(編集部)

 ――国の財政状況は依然厳しいですが、来年度概算要求に関してはどのような状況でしょうか。
 私学部長 私学振興は重要な課題と考え、従来から私学助成の充実に努めてきた。
 国の財政状況は厳しいが、私立学校が学校教育の中で果たしている大きな役割にかんがみ、私立学校が個性豊かな教育研究を推進できるよう、私立大学等経常費補助金や私立高等学校等経常費助成費補助金を中心とした私学助成の充実に努めていきたい。
 ――私立高校等に関する国庫補助は、三位一体の改革で廃止が取り沙汰されています。来年度概算要求ではそれらも含め要求するのですか。
 私学部長 国の私学助成は地方公共団体が行う私学助成の核として、その水準を引き上げる役割を果たしてきた。しかしそれが廃止・一般財源化されると、地方公共団体の財政事情で助成水準にばらつきが生じる恐れがある。
 現に国庫補助がなかった時代には都道府県間の私学助成額の格差は六倍あったが、今は一・五倍程度に縮まっている。仮に国の私学助成がなくなると、学費の値上げ、公私間の教育費の格差拡大、多様な教育選択の機会喪失、教育の質の低下、といったことが懸念される。
 各都道府県の私学助成をさらに充実させるにためには引き続き国庫補助が必要であり、またそれが私学振興に対する国の役割だと思っている。
 概算要求でも私学助成の充実に最大限努力していきたい。
 ――私立大学等に対する経常費補助に関しては三位一体の改革のような特別な要因はないと思うのですが。
 私学部長 大学等に関しては、毎年、厳しい財政事情の中で助成の充実を図ってきたが、来年度概算要求においても、引き続き私学助成の充実に努めたい。
 ――留学生問題から経営破綻した瑞穂学園(酒田短期大学)に先日、国所管の学校法人として初の解散命令が出されました。今後就学人口の減少とともに、私立学校の経営環境の悪化が予想されますが、文部科学省としては、経営困難法人については財政面ではなく経営相談といった面で支援していく考えと聞いております。その考えに変わりはないですか。
 私学部長 変わりありません。
 長期的に十八歳人口が減少していく中で私学の経営環境は厳しくなってきている。例えば入学定員を満たしていない大学・短大をみると、平成五年度には定員未充足の私立学校は大学で五%、短大で三%だったが、平成十五年度には大学で二八%、短大で四六%に上昇した。
 私学経営については、一義的には私学が自らの責任で行うことが基本だが、学校法人が経営困難に陥ると、社会的・経済的影響も大きいので、文部科学省では従来から事前の指導・助言の充実を図ってきた。例えば学校法人の自主的な努力を支援する観点から、日本私立学校振興・共済事業団における財務分析や経営診断を充実させるとともに、学校法人運営調査委員による財務に関する指導を組織的・継続的に行っている。昨年十月からは私学部内に学校法人経営指導室を設けて経営分析や指導・助言を通じて学校法人の主体的な努力を支援している。
 私立学校の経営困難問題への対応については私学団体や私学事業団の意見も聞きながら、さまざまな観点からこれからも検討を進めていきたい。
 ――文部科学省の私学部内で私立学校の経営困難問題に関するガイドラインづくりを進めているようですが。
 私学部長 経営困難な学校法人への対応方針については、今春にはこういうことでどうか、という案もまとめつつあったが、その後の東北文化学園大学の問題もあり、そのことも踏まえてより検討を深めていく必要がある。
 ――先の通常国会で私立学校法の一部が改正され、関係の政省令も改正され、近く通知も発出されるようですが、私学部長としては、今回の一連の改革で私立学校に何を一番期待していますか。
 私学部長 今回の改正は私立学校の自主性を最大限尊重しながら各学校法人における管理運営制度の改善を図るとともに、財務情報の公開を一層推進しようというもの。各学校法人におかれては今回の改正のねらいや、私立学校に対する社会の大きな期待、社会的な責任の大きさを十分に理解して頂き、教育内容や財務状況に関する情報公開を積極的に行うことによって、学校法人の説明責任を果たし、それを通じて社会の信頼と評価を一層高めていくことに努めてほしい。また管理運営制度を改善することによって、各学校法人がさまざまな課題により主体的、機動的に対応できる体制にしていくことが大事だと思う。
 ――構造改革特区で株式会社が設置主体となって大学や大学院等が設置されていますが、そうした学校への評価は進んでいるのでしょうか。
 私学部長 特区の評価については評価委員会が設けられている。
 特区の評価委員会から示されているスケジュールはかなり急いだものであり、株式会社を学校の設置主体と認める特区の特例措置については、昨年の十月に法律が施行され、四月から学校が開校されたばかりだが、今年の十月以降早速評価の対象になる。
 特区評価委員会は今年度末までに全国化について結論を出したいということだが、十分な評価をするにはある程度の期間も必要だし、弊害が生じているかどうかを、半年や一年で見極めるのは中々難しい。
 拙速な評価で結論付けるのではなくて、継続的で安定的な学校教育が展開できるのかどうかをしっかり慎重に評価すべきだと思っている。少なくとも例えば卒業生を出すまでの状況を見ないと適切な実態把握、評価は難しいし、相当の事例の集積を踏まえた評価が必要だ。また株式会社やNPO法人立の学校に対する私学助成については、憲法上の課題がある。株式会社等の学校に私学助成をするとなると、公の支配に属させなくてはいけないが、そのためには学校法人と同じような規制をかけなければならない。それでは、学校法人に課せられるさまざまな制約を受けずに学校を作りたいという特例の趣旨に反することになる。
 ――休日には何をされているのですか。
 私学部長 最近では、仕事関係の書類が溜まるので、スキャナーを使って読み取り、パソコンに保存して、少しでも書類を減らすようにしている。

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