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記事2004年7月3日 1939号 (6面) 
ユニーク教育 (130) ―― 慶應義塾女子高等学校
最大の行事 演劇会「一期一会」
知性磨き豊かな情操育てる

梅岡校長

六月十二日、慶應義塾女子高等学校(梅岡淳子校長、東京都港区)は一年の行事の中で最大の盛り上がりを見せる演劇会の日を迎えた。今年で十五回目を数える演劇会のテーマは「一期一会」。午前八時三十分から始まり、午後五時には一年から三年までの演劇すべてが終わった。表彰式に入り、各賞が発表されると、そのたびに生徒たちから歓声が沸き起こり、会場は歓喜の涙、涙で包まれた。
 同校は昭和二十五年創立され、慶應義塾では唯一の女子高校だ。校舎は三田の徳川家の武家屋敷跡にあり、その片りんをとどめている。福澤諭吉の「独立自尊」の精神は、同校の教育の中に脈々と流れており、自分を大切にし、他人の立場と意見を尊重し、知性を磨き豊かな情操を育てるのが教育方針だ。
 この方針に基づいて、同校には生徒が主役となって行う多彩な学校行事が多い。生徒会が主催する行事として、四月のオリエンテーション、六月の演劇会、九月の運動会、十月の文化祭がある。中でも演劇会はクラス単位で実施するイベントで最も大きなもので、これを境にクラスがまとまっていくという。
 演劇会には脚本、演出からキャスト、大道具、小道具、衣装、音響、照明にいたるまでクラス全員が参加し、クラス対抗で競い合う。
 特に三年生になると、一、二年次の経験が生かされ、随所に工夫が見られた。三年の演題はD組「宵闇」、C組「クジラの島の少女」、B組「TRUTH――、つまり、誠の心だ」、A組「アニーよ銃をとれ!」。
 「宵闇」は圧巻だった。
華やかに仕上がった舞台の鮮やかさはひときわ目を引いた。アピールポイントは「人間の心に潜む闇(やみ)をテーマにし、表面的な華やかさだけでなく、意味の深いものにしようと、何度もストーリーを練り直した」という。会場全体を使った出演者たちの演技は、とても高校生とは思えないほどの熱演振りだった。やはり結果は評価された。「宵闇」は総合優勝に輝き、三年の部で舞台効果賞も獲得した。また、三年生個人賞を妖(よう)女(じょ)役(やく)の生徒が受賞した。
 審査は教員の中の有志、各クラスから生徒二人ずつ、卒業した実行委員会、および個人賞の獲得経験者、それぞれ二年分約六十人が、一時間ほどかけて審査に当たる。「宵闇」は千八百三十一点を獲得し、二位の「TRUTH」は千七百四十四点だった。「TRUTH」は同じ道場に通った三人の青年剣士が、信念とは何かを問い続けた作品だった。このクラスは昨年の演劇会で優勝を果たしただけあって、演劇に迫力があり、声もよく通っていた。
 練習に当たっては、各クラス放課後を利用して行った。練習時間が短いが、クラス全員が集中し熱がこもる。生徒の自主性が尊重されており、教員はほとんど口を出さない方針だ。演劇会実行委員はプログラム編集後記で「花を咲かせるまでにはさまざまな〓藤(かっとう)があったと思いますが、それを乗り越え、クラスが一つになり、集中して目標に向かったからこそ、私たち、実行委員のテーマとした『一期一会』にふさわしい最高の演劇会をつくり上げることができた」と語っている。
 また、一年ではD組の「シンデレラ」が、二年ではA組の「The PHANTOM of the OPERA」がそれぞれ学年優勝した。
 梅岡校長は「この年代だからできた、この年代だからこんなことに感激するのか、しばし、自分を忘れてしまうほどでした」と、この演劇会にかける生徒の熱意に圧倒された様子である。
 直接舞台に上がらない生徒もそれぞれの持ち場で自分の役目を果たし、一生忘れることができない思い出を胸に刻んでいる。


熱演する生徒たち

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