こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2004年7月3日号二ュース >> VIEW

記事2004年7月3日 1939号 (10面) 
対談 「大学教育における映像技術の活用」
質の高い授業コンテンツ
教育分野のIT活用として
遠隔授業を位置づけ

小野沢学部長


松原社長


【出席者】
小野沢 元久氏 日本大学副総長 工学部学部長 
松原 正樹氏 池上通信機株式会社代表取締役社長



 デジタル技術の飛躍的発展により動画などの映像が手軽に扱える時代が到来している。大学教育でも教育資源をデジタルコンテンツ化してネットワークで配信するような取り組みが開始されているが、コンテンツの質を高めるためには映像を効果的に演出できるカメラや編集機器をはじめとした機材と、制作現場になるスタジオなどの整備が必要だ。日本大学工学部(小野沢元久・学部長、福島県郡山市)では平成十四年に放送局仕様の本格的なスタジオを整備して映像を活用した教材制作を実施し、大きな成果を挙げている。映像技術の活用については国際化と情報化にさらされて質的な変化を求められている大学教育にとって重要なテーマだ。そこで本紙では同大学の小野沢学部長と機材提供企業である池上通信機株式会社の代表取締役社長・松原正樹氏に「大学教育における映像技術の活用」をテーマに話し合っていただいた。



【サイバーキャンパスの整備】  
 松原 弊社ではこちらのキャンパスに放送用機材を納入するとともに、本格的な映像収録のお手伝いをさせていただきましたが、このプロジェクトを始められたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
 小野沢 本学がプロ仕様のスタジオと放送機材を整備しようと考えたきっかけとしては、文部科学省が推進しているサイバーキャンパス整備事業への参画があります。現在政府は産業や社会全般でITの基盤整備を行う「e―ジャパン構想」を強力に推し進めていますが、この構想における教育分野のIT活用の一形態としてサイバーキャンパスの整備とそれに伴う「e―ラーニング」の普及・活用が盛り込まれています。文科省ではこの方針に沿う形で遠隔授業に対する規制を緩和し、現在百二十四単位のうち六十単位を遠隔授業による取得で可としています。
 さらに二〇〇一年の三月にはグローバル化時代の高等教育の在り方についての答申があり、衛星通信による授業だけでなくインターネットを経由する授業(e―ラーニング)も遠隔授業として位置づけられました。本学におけるスタジオの整備はこのサイバーキャンパス整備事業による補助金を活用したもので、目的としては高品質の授業コンテンツの制作にありました。
 松原 サイバーキャンパスになると大学教育の形態が変化するだけでなく、グローバル化や情報化を見据えた新しい概念による教育研究の体制が必要になりますね。
 小野沢 サイバーキャンパスでは必ずしも現実の校舎で授業を行う必要はなく、インターネットを利用した教育が自由販売のように展開されるようになります。その時点で、外部の大学との間で単位の認定をどうするか、という問題がでてくるでしょう。要するにボーダレスの時代になって、国内の学生が海外の大学の講座を受講することも可能となるので海外の大学の脅威が現実のものとなってくると思います。このような状況の下では、必然的に海外の大学との競合にも耐えうる質の高い授業コンテンツを制作できる体制の整備が必要となるわけです。



国際的に通用するPEの資格
より高画質の機器が必要


【高品質な授業と人材育成】  
 松原 貴学では真の国際エンジニア養成機関として「国際工学コース」を開設されて、プロフェッショナル・エンジニア(略称PE)という国際資格の取得を目指す教育を実施されていると伺っていますが、このような取り組みこそが高品質な授業といえるのでしょうね。
 小野沢 その通りですが、世界レベルにおいて日本の大学はまだまだ国内レベルの評価に甘んじています。本学ではこのような現状を脱却し、エンジニアとして国際的に通用する資格を取得し、海外に事業展開する企業において世界で戦力となり得る人材の育成を行っています。
 その具体的な形態がPEであり、PEの基礎資格であるファンダメンタルズ・オブ・エンジニアリング(略称FE)なのです。これらの教材にはスタジオで撮影した映像が活用されています。
 松原 人材の育成という観点について考えてみますと、企業が求めている人材は、基本的に創造力がなければいけない。それとリーダーシップです。このような人材の育成にはやはり教育が大切です。
 現在は一度社会人になった人が、さらにキャリアを身に付けるために大学にもどってくる時代ですから、企業も人材育成のためには投資をすることが必要です。
 小野沢 企業の人材投資としてはスキルアップ講座の受講がありますが「e―ラーニング」はこれらの運用を端緒として急速に普及してきたという背景があります。「e―ラーニング」ではコンテンツの良しあしによって効果が決まるといって過言ではなく、こうした環境のなかでは教材に投入されている「映像」の質がハイレベルである必要があります。特に当学部のように工学系の教材には高度なリアリティーが要求されるので今回整備したレベルの機材、施設は必須(ひっす)の条件であり、今後はより高画質の機器が必要になってくると思います。



携帯電話でも手軽に映像利用
映像活用は大学の活性化


【大学の活性化と映像の活用】 
 松原 映像を操る技術はこれまで放送局や映画会社など、いわゆるプロの世界のものでしたが、技術の進歩によって映像がデジタル化されることで、映像の処理、加工、蓄積が誰にでもできるようになりコストも大幅に下がりました。また、映像の伝送手段についてもブロードバンドの整備につれてクオリティーの高い映像を簡単に利用できるようになりました。いまでは携帯電話を含めて手軽に利用されています。
 このように手軽に映像が活用できるようになったことを考えると、教育現場での映像活用は大学教育の活性化として重要な役割を担うのではないかと思います。
 小野沢 大学教育の活性化という問題では現在、大学の第三者評価が重要になっています。しかし、第三者評価の時代を迎えているにもかかわらず、大学の講義で教員が使っているツールは相変わらず旧態依然としています。学生はすでにデジタル映像の世界にいるのに、教員の方はせいぜい静止画像を扱えるかどうかといったところです。例えば、エンジンがどう動くのかを知るには映像であればすぐ分かる。目に見えないものでも工夫して見えるようにできる。説得力がまったく違うわけですね。映像を使えば、次は学生がその映像の良しあしをチェックしてくれる。お互いに評価しあうことで、お互いがレベルアップできます。特に工学的な世界ではリアリティーが必要で、その意味において映像の力というものは大きなものがあると考えています。




イメージを画像に
スタジオが教室に


【スタジオは教室に変わる】 
 松原 今の時代は小学生がコンピュータを使って、ハードとソフトを融合させながら、自身の能力を飛躍的に発達させています。こうした子どもたちが大学に入ってくるのですから、今から準備しておかなければなりません。
 小野沢 今、大学は新しい時代に向けてさまざまなことをしています。そのひとつが学生にどうモチベーションを与えるかということがあります。終身雇用を背景とした単なる就社のための教育は限界にきています。
 先ほど松原社長からもお話があったように企業も即戦力を必要としています。学生自らが自分を保証することが必要なのです。本学が推進しているPEとFEは学内ニーズだけでなく、例えばゼネコンの社員など企業社会からニーズもあるはずです。そうしたことから高品質の映像を盛り込んだ教材をネットで発信することにしたのです。
 これまでの授業は教科書がベースで、機器を使うといってもせいぜいOHPしかありませんでした。しかし、現在では本学のスタジオにある機材を使えば教員がイメージする画像を簡単に作ることができます。
 本学のスタジオは池上通信機さんのご提案もあって、被写体の背景を自由に表現できる、いわゆるバーチャルスタジオというものになっていますが、初めて見たときはカルチャーショックを受けました。十年前はスタジオを作るといっても、だれも取りあわなかったのが実際に使ってみると教員側の発想も変わってきました。今ではスタジオは教室だと思っています。当校のスタジオが、これからスタジオ製作を検討している方の参考になればよいと考えています。



デジタルネットワークソリューション時代
オーダーメード教育


【教育の未来像求めて更に発展】
 松原 昨今はデジタル化された映像を加工・保存した上でネットワークに載せて利用する、デジタル・ネットワーク・ソリューションの時代になっています。
 当社ではこのような時代性を踏まえて、ハードだけを提供するのではなく、デジタル技術とネットワーク技術が融合したソリューションを個別の大学の実情に合う形で提供していきたいと考えています。
 いわばオーダーメードの技術ですね。
 小野沢 教育の場でもオーダーメード教育を考えています。オーダーメードは医療の世界ではすでに研究が進められていることで、個人のDNA情報をもとに、対象者の状態に合致した薬品の開発や医療を行うものです。教育もこれと同じではないかと思うのです。つまり、自分探しのオーダーメード教育です。ニーズにあった教育が必要です。特に、映像技術は社会人を対象に展開できる点も大きなメリットです。
 松原 今後は遠隔授業もよりスムーズになっていくのではないかと思いますが、当社がもつ「ハイビジョン技術」「インタラクティブ伝送技術」等を積極的に活用することによって、学生が在宅でも単位を取れるようになったり、海外にいても大学の授業が受けられるようなソリューションを提供したいと考えています。
 また、最新の映像技術を取り入れて、生涯教育でのキャリア・アップを支援できるような製品の開発も視野に入れておきたいと思います。
 小野沢 敵とは争わない日本人がどうしたら世界を相手に戦っていけるのか。そのためには、従来型の教員だけではだめで、外国人教師も必要です。
 そして、実務経験者、民間人を連れてくることも必要です。そして即戦力の人材を育成することが大事です。大学はいろいろあっていいと思っています。
 これからは特色ある教育、GP(グッドプラクティス)が重要視されるでしょう。日本大学は十四の学部を持つ総合大学ですが、現状ではその総合性がいまひとつ発揮されていない。学生が総合大学という恩恵を享受していないのが現状です。
 この部分を改革していく方法として生涯学習というタテの時間軸のなかで付属の中学、高校を含めて総合的な戦略を考えていこうとしています。高大一貫教育も未来戦略の一つです。


スタジオが設置されている50周年記念館


プロ仕様のバーチャルスタジオ

記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞