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記事2004年5月23日 1933号 (3面) 
イコールフッティング考 (1)
機会均等等研究所代表筑波大学大学研究センター客員研究員 日塔 喜一
公財政支出は国私立公平に
学生一人当たり国立は328万円、私学15万円 公財政支出は私大の21・8倍にも
 今号から国立大学と私立大学の間にある極めて大きな較差とその是正方法について考える。
 これからの大学は、画一的でない、多彩な人間を育てる必要があるが、私学は教育研究面で、この社会の要請に十二分に応えていくポテンシャリティーをもっている。ドイツやスウェーデンでも、新しい時代を先取りした私立が誕生し、これまでの国立を圧倒していると聞いている。私学が主流のアメリカを含め自然な流れといえよう。
 私が三十六年間勤めた日本私立大学連盟の定款の目的には、「大学の使命達成に寄与する」とあり、いかにも気宇壮大だ。
 連盟創立に深くかかわられた故大泉孝会長にうかがうと、この「大学」とは加盟校に限らず、世界のどの大学でもいいという。この心意気が文教政策の基本でなければならない。
 ところが、わが日本ではなぜか良くわかりませんが、私学と国立の差別待遇をしている。しかも、国立周辺の人々の口から「私学が存亡の危機にあるのに、われわれだけが優遇され過ぎている。これはおかしい。世界の先進諸国にならって、一日も早く公平にすべきだ」という言葉を聞いたためしがない。
 この点文部科学省も絶望しているのだろうか。この現状を直そうという意欲がまったく見えないのだ。
 ある課長は「国立なるがゆえに手厚く補助する」「私立なるがゆえに補助を少なく」といっていた。またある課長は「国立大学の予算の伸びが大きいのに、私学予算はちょぼちょぼですね。国の予算が緊縮財政だから」と言葉を濁す。
 有馬朗人元文部大臣もかつて「国の予算が伸びれば私学にも回せるのだが」とおっしゃっておられた。本気だろうか。
 大学審議会のいくつかの答申でも、臨教審の答申でも「私学助成」にはまったく力が入っていなかった。中教審でも話題にもなっていないようである。わずかに、総合規制改革会議が、一昨年暮れに「国立大学を私学法人化すべきである」とその答申原案に盛り込んだが、文部科学省の必死の抵抗で日の目を見なかった。なんとも残念だ。
 今回の法人化も、国民や私学人の期待をものの見事に裏切ったものになってしまった。最初は、国の歳出カットを考えて、国立大学の教職員の人員整理を考慮していたはずである。少しは国民や私学人の痛みを分かち合ってもらえそうだったのだ。
 平成十六年度の国立大学の予算は総額二兆三千五百七十一億円におよぶ。そしてこれをさらに増額する仕組みを考えている。
 たとえば、「新たな教育研究ニーズに対応し、各大学の努力に応じ増額できる仕組み」を考え、「特別教育研究経費」等により、各大学の取り組みを幅広く支援(例=教育研究施設の新設、教育研究事業費、教育研究設備費など)するとしている。
 また、「附属病院の経営努力とインセンティブ付与の仕組み」を考え、「教育研究と診療を区分、診療経費を上回る増収は大学で自由に使用」できるとしているのだ。付属病院は、これまで三十年以上にわたって大赤字であった。その本であった「教育研究の分」を「区分」し、丸々国が交付すればその分赤字は当然減ることになる。
 診療経費予算を上回る増収分、すなわちがんばって自己努力で稼いだ分は自由に使用できますよ、国に返さなくてもいいですよ、というのだ。
 さらに、「自己収入の増加努力が報われる仕組み」を考え、「受託研究収入、寄付金等の外部資金増があっても交付金の減額なし」となんともすごい措置である。寄付の税制については、国立の場合まったくの無税である。
 ほかに一兆三千億円以上の、国の研究費がある。「科学技術創造立国」ということで予算はこのところ順調に伸びている。この金額の九割以上は国立に流れている。
 授業料等学生納付金は約五十二万円で、総額は三千四百八十億円となっている。この金額の約八%が学費減免措置に充てられる。これについては、今回から大科目の「教育研究費」に含められているようだ。
 以上から、学生一人当たりの公財政支出教育費を算定してみると、およそ三百八十万円となる。授業料分を差し引くと三百二十八万円(増額措置分は除く)。研究費を考慮に入れると、五百十七万円に跳ね上がる。ちなみに私学の学生一人当たり公財政支出は十五万円。研究費を考慮に入れても十八万円ほど。格差は研究費をはずしても二一・八倍になる。
 その他に学費、日本学生支援機構奨学金(無利子貸与)の較差などがある。

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