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記事2004年4月3日 1929号 (4面) 
新世紀拓く教育 (20) ―― 明治大学付属明治中学・高校
ジグソー法による授業で
子供たちの居場所づくり
 ジグソー法とは、人間関係改善のために考案されたグループエンカウンターのひとつである。そのジグソー法を使った授業を行い、生徒たちの居場所づくりを目指しているのが明治大学付属明治高等学校・中学校(栗田健校長、東京・千代田区、男子校)で社会科を担当する松田孝志教諭である。
 ジグソー法による授業とはどんな授業なのか。松田教諭が「倫理」の授業で行った方法だが、教室には、四十九人の生徒が、縦横七人ずつ、列状に座っているとすると、最初に、縦列七人の生徒を一つのグループとして七つのグループをつくり、グループごとに学習テーマを与える。例えば、アリストテレスとかソクラテス、プラトンなどをテーマとする。グループ内の生徒は各自自分たちのテーマを調べてくる。松田教諭の授業では、この時、教科書や参考書に載っている以外のこと、みんなが知らないおまけの情報も調べるようにとアドバイスする。驚くような情報を発表するという快感を、生徒たちに味わわせたいからだ。各自が調べたことはグループに持ち寄り、まとめてレジュメを作る。
 次に、この縦列のグループを解体し、今度は、横列ごとに七人ずつ、七つのグループを作る。この新グループには、例えばアリストテレスがテーマだった生徒は一人だけというふうに、最初のグループでの学習テーマを持っている生徒は一人だけとなる。
 そして、新グループでは全員が、新しいメンバーに自分の学習テーマについて説明することが課される。
 つまりどの生徒も必ず説明しなければならないが、半面、新メンバーにとっては他のメンバーのテーマは新知識であるため、その説明を必ず聞いてもらえる。もちろん自分もほかの生徒の話に耳を傾けることになる。学習内容の理解を促進するだけでなく、学習の動機付けにもなるという。テーマごとに足りない部分については松田教諭がフォローアップレッスンを行う。「自分の思いを伝える、考えを伝える」ことを仕掛ける、それが松田教諭のジグソー法による授業である。
 十五年度は年金改革、道路公団問題など授業での話題には事欠かなかった。「納税者として私はこうしてもらいたい。おまえはどう思う」と松田教諭が生徒に質問する。しかし生徒は「いや、僕は税金を払ってないから」と他人事のように答える。すかさずやんわりと「おまえねえ、消費税払っているじゃないの」と切り返す。問題を生徒自身のこととしてとらえるように促す。そこで大切なのは、どの生徒がどんな顔つきで話したのか、同じことを言ったとしても、意を決して言ったのなら、さりげなくフォローしてあげることだという。
 ジグソー法による授業は、年に一回、多いときは二回行っている。一回の授業時数は八時間ほど。最近ではグループ分けも、最初にテーマを設定して希望をとって分けたり、仲の良い者同士でグループをつくったりして、次に知らない人たちのグループへ入っていくという方法をとったりしている。
 授業の狙いは、知識の習得や事象の理解はもちろんのことだが、生徒たちの居場所づくりだ。居場所とは、リラックスする場所であり、安全と感じられる場所のことであり、同時に自分の存在意義が感じられる場所、やりがいが感じられることでもある。「生徒たちはグループワークを最初はすごく嫌がる。でも、だんだん団結心といったものが出てきて、最終的には自分を大事な存在だと認識するようになる」(松田教諭)。
 二回目のジグソー法による授業は三学期に行うことが多い。一回目の授業で生徒たちは人との距離の取り方を学ぶ。二回目の時は、それぞれの生徒の個性が出るような内容にする。例えば、四、五人のグループを作って、松田教諭がタイマーを持ち、生徒一人ずつに「私は私のことが好きです。なぜならば……」と自分について三分間ずつ話をさせる。これは順に回していくため、一人が四回程度、話をすることになる。ここでは、人とのかかわり、自分を好きになること、自分が自分を好きなのだから相手もできるだけ大切にする、ということを経験させるのである。
 授業中の、自分はこう思う、といった雑談はオーケー。だから教室内は生徒の声がにぎやかに飛び交う。
 9・11の同時多発テロ事件の直後、松田教諭の最初の社会科の授業は高校二年生のクラスだったが、教室に入るといきなり生徒たちがコメントを求めてきた。そうか、じゃあ、ジグソー法をやろうと松田教諭は提案した。四、五人ずつのグループを作って話し合わせた。この時は教室中、議論が沸騰したという。
 一年間が終わり、生徒たちの感想を見ると「思っていたより僕の父はすごく頑張っていることが分かった」「多くの人たちの協力が必要だと気づいた」「夢の実現のためにやることが整理できた」と書いている。
 松田教諭は、「最終的には、あなたはどう生きるのか、何を大切に生きるのか、という問いを生徒に投げかけているような気がします」。
 文化祭の終了後のことだった。実行委員の生徒たちだけが体育館に残って最後の反省会を開いていた。たまたま校庭にいた松田教諭は、開いた窓から漏れてくる話し声を聞くともなく聞いた。実行委員の生徒たちは、一人一人、お前はこうだった、自分はこういうふうにやったと話したあと、全員が拍手して讃えあい、胴上げをしている様子だった。松田教諭はそれがとてもうれしかった。「それぞれが持ち味を発揮して生きていければいい。スクラムトライが明治の良さ。愚直でもいいから前へ、が明治らしさです。それを大切にしていきたい」。


ジグソー法による授業を行う松田教諭

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