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記事2004年4月23日 1931号 (6面) 
新世紀拓く教育 (22) ―― 宝仙学園中学・高等学校
21世紀の国際理解教育
「文化の対話」プロジェクト
 「サラマット シアン」(こんにちは)
 平成十六年三月九日午後一時、「文化の対話」プロジェクトの第一回交流プログラム、英語によるテレビ会議「教室から世界へ」がスタートした。
 インドネシア語であいさつしたのは宝仙学園中学・高等学校(砂田芳宏校長、東京都中野区、女子校)の中学生・高校生十人。画面の向こうの相手はインドネシアのデポク第二高校の生徒たち。テレビ会議システムで結んだ場所は、同校に隣接する宝仙寺本堂と、インドネシアの首都ジャカルタにあるJICA(独立行政法人国際協力機構)事務所だ。
 まず最初に日本側から、砂田校長が仏教の精神に基づき、品格と知性を磨く教育を行っていると、同校の教育方針を説明。次に生徒たちが、放送部で制作したビデオを上映しながら学校生活を紹介。華道、茶道、箏〓ルビそう〓曲〓ルビきょく〓、書道、剣道など、日本の伝統的文化のクラブ活動や、日本文化や学校生活、ひな祭りなどの年中行事や日本食、学校行事なども紹介した。
 インドネシア側は、自国の文化や学校生活の様子を英語字幕付きのビデオで紹介。またダンスや日本語の歌などのパフォーマンスも披露してくれた。
 それぞれ紹介が終わった後、質疑応答が行われた。将来の進路のこと、日本料理のことなど、お互いに質問が飛び交った。インドネシア側の生徒たちは非常に熱心に質問してきた。活発な応酬が続いて、一時間の予定が一時間半を超えるという、うれしい誤算も生まれた。最後に、「トゥリマカシ」(ありがとう)と同校の生徒全員であいさつして、この日のプログラムは終了した。
 今回のテレビ会議を行う前に生徒たちは、JTCAへ見学に行ったり、インドネシア料理を食べたり、モスクを訪問したり、インドネシア人アディーさんと昼食会もして、インドネシアについて勉強し、初めての経験もたくさんした。
 しかし、生徒たちにとって一番強烈だったのは、やはり海の向こうの同世代の高校生と英語で、しかもリアルタイムで話したことだった。「本当にすごいです。自分の英語が海を越えて伝わっていると思うと! 外国人とコミュニケーションをとる時に、一番大切なことは何かと聞かれれば、私は『心。フレンドリーな心です』と答えます」(中三生)。「相手の話す英語の発音の良さに胸を打たれた。何を言っているのか理解できず(中略)、この悔しさを次にどう生かせるか。英語の会話力を身につけて腕を上げる。私は肝に銘じた」(高二生)、「お互いに違う文化に関心を持ち、理解しようとすることが大切だと思いました」(高二生)などと感想を述べている。宝仙学園は以前から、「地球市民としての英語教育」を掲げ、中学の総合学習とサタデーゼミナール(サタゼミ)でノンネイティブによる英会話授業を行ってきた。
 もちろんネイティブによる英語の授業やオーストラリアやイギリスへの海外研修も行っている。しかし、世界を見渡せば、英語を母語としているのは少数。世界の三分の二の国・地域の人たちは英語を国際公用語として学び、多少なまりがあっても、堂々と英語で自分の意見を述べる。そうしたノンネイティブの努力、苦楽・経験を、国際公用語としての英語と共に学ぼうというのがサタゼミの英会話授業。だから、当然講師はノンネイティブ。現在、インド、フィリピン、台湾出身の女性講師が授業を担当している。彼女たちは、英語を教えてくれるだけでなく、出身地の文化も伝えてくれる。
 今回のデポク第二高校との交流プログラムでも、発信場所を当初の「教室」から「宝仙寺本堂」に変えたのは、本堂に安置されている御本尊が、国民の九〇%がムスリムというイスラム社会であるインドネシアの高校生たちから見れば偶像崇拝に映るかもしれないが、それも日本の宗教文化だと理解してもらういい機会と考えたからだ。同校の生徒たちにとっても、画面の向こうのインドネシアの女子生徒のうち、頭にスカーフを被っている子もいたことを、イスラムの文化であると認識したことだろう。
 「英語を使って、自分たちとは違う別な文化を受け入れていくこと、それが二十一世紀の国際理解教育ではないか」と富士晴英教頭は言う。
 その二十一世紀の国際理解教育の舞台に生徒たちを引き上げたい、多様な文化を体感してほしい、と強く考えるきっかけとなったのは、富士教頭が十五年の七月末から十三日間、JICAの教師海外研修でガーナに行ったことだった。ガーナでは教育の機会を奪われている子供がたくさんいた。そこで懸命に支援事業をしているJICAスタッフや協力隊員の姿も間近に見た。このガーナ訪問で富士教頭は、「他者を知ることで、自分の役割を認識し、ひいては自分を変える必要があることも理解できるようになる。国際理解教育とは、そういう可能性を持っているのではないか」(ガーナ研修報告)と考えるようになった。
 まずは、相手の立場を理解し、互いの壁を越えること、そのためにはさまざまな外国の人々と英語で話す機会を生徒たちにたくさんつくりたい、そういう思いから生まれたのが「文化の対話」プロジェクトであった。
 やっと第一回を終えたばかりだが、次回以降の「文化の対話」プロジェクトでは、アフリカの国々との交流も考えている。平和で豊かな日本の中で、自分たちの英語が海を越えたと素直に喜んでいる生徒たち、その視野をいかに大きく深く広げていくか、それが今後の課題だと富士教頭は言う。


テレビ会議で日本のさまざまな行事について説明する生徒

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