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記事2004年3月3日 1926号 (3面) 
新世紀拓く教育 (17) ―― 京北学園白山高等学校
プロジェクト学習で意欲
大学教授の出前授業卒論発表会も
 京北学園白山高等学校(川合正校長、東京・文京区、男子校)は、米国のミネソタ・ニューカントリー・スクール(チャータースクール)で行われている学習プログラム「プロジェクト学習」を平成十四年度から導入した。同校は平成十三年四月、京北商業高等学校から京北学園白山高等学校に名称を変更。文系大学進学を目指す商業課程のある進学校として進学実績を上げてきたが、大学教授の出前授業や大学の卒論発表会を行うなど新しい教育にも取り組んでいる。プロジェクト学習を導入するきっかけとなったのは、千葉大学教育学研究科の上杉賢士教授が「プロジェクト学習」の実験校を探していると聞き、川合校長が名乗りを上げたことだった。
 実際にこの学習に取り組んだのは高校一年生全員、百七人である。
 プロジェクト学習は、平成十四年九月九日、上杉教授による二時間の授業で始まった。一時間目、最初にアメリカの学校の取り組みについての説明が行われた。次にレイフ・クリスチャンソンの詩「しあわせ」を読み、書かれている幸せの形について話し合いをさせた。幸せはみなそれぞれ違うこと、またそれぞれの考えを受け入れてもらえることの心地よさを生徒たちに認識させた。
 二時間目は「プロジェクト学習」の企画書の記入に取り組んだ。企画書には、プロジェクト名、プロジェクト完成のためにするべきこと、実在の人へ話を聞くこと、このプロジェクトが自分の人生や社会にどう役立つか、などといった項目が立てられていた。学習テーマについては自分の関心があるものなら何でもいい、というのがこのプロジェクト学習の最大の特徴である。ただ一つの制約は社会に役立つものであることだ。とはいえ、あまり大きなテーマでは生徒の手に余ってしまうため例を示しながら、身近なテーマに絞り込むことという指導がなされた。
 生徒の中には、ほんとうにテーマは何でもいいのかと聞きにきた子がいて、何でもいいよ、と当時一年生を担任していた杉原米和教頭が答えた時、その子の目が「キラッと光ったんです。それが忘れられません」。「子供たちにモチベーションがないとよく言われるけれども、好きなことをやるときは一生懸命やるんですよ」(杉原教頭)
 企画書づくりは生徒にとっては難しく、九月十一日の商業の時間に、同校の生徒が「二○○○年度第一回日経ストックリーグ(株式学習プログラム)」で最優秀賞を受賞したときの取り組み内容について紹介し、企画を立ててどんなふうに学習していったらよいかを話した。また、同月二十五日には、上杉教授を招いて、放課後、希望する生徒たちが企画書作成の指導を受けた。さらに上杉教授と学年教員との検討会も行った。
 生徒たちから出てきたプロジェクト学習のテーマは、HP作成・対貧血・水で走る自動車・町の美化・サッカーの歴史を調べる・フルマラソンを完走するには・北海道自転車旅行の準備・パソコンの未来について・携帯電話について・簿記三級合格準備・部屋の害虫駆除・医者になるための準備プロジェクトなど。
 十月から十二月にかけて、生徒たちはインターネットや図書館を使って調べたり、実在の人物に話を聞きに行ったり、商業の情報処理の時間にはプレゼンテーションのためのパワーポイントの使い方を勉強した。プロジェクト学習に取り組むのが初めてなのは教員も同じ。チャータースクールに関する本を読み、講習会にも行った。
 こうして教師と生徒が一緒になって夢中で初めてのプログラム学習を進めていった。
 平成十五年二月二十八日、プロジェクト学習の最終ステージ、プレゼンテーションが行われた。発表したのは全員の中から選ばれた五組。グループを代表して誰が発表するかも生徒たちに任せた。教員から言うと、思いもかけない生徒が堂々と発表した。それぞれのテーマは、「害虫ライフ〜害虫駆除計画」「ドラえもん研究」「対貧血プロジェクト」「水で走る自動車を創る」「銃犯罪〜銃社会の実態について」。当日招待された上杉教授も「ここまでやるとは思わなかった」と感動していたという。
 プロジェクト学習に振り向けることのできた総時間は、国語・社会・商業から捻出した十数時間のみ。少ない時間でプレゼンテーションまでこぎつけた裏には、徹夜で頑張った生徒たちがいた。
 平成十五年の夏休み、その生徒たちのうち二年生になった皆川博昭さんが、ひそかに、鳥取県三刀屋町永井隆平和賞高校生の部の作文募集に「僕の平和理想論」と題して応募し佳作に入賞していた。これに触発された同じ二年生の鈴木邦弘さんが、二学期の始まった九月、「僕は、豆腐屋になる。」という題で東京都教育庁・東京都産業教育振興会主催作文コンクールに応募、見事入選を果たした。「僕の平和理想論」の中で平和ボケ日本がいいと言う皆川さん、「豆腐屋になる」と言う鈴木さん、「害虫駆除計画」でゴキブリに詳しくなった小原隆弘さん、「対貧血プロジェクト」で男性養護教諭を目指すという小島邦明さんなど、個性的な発想はプロジェクト学習によって自己を肯定することを学んだことが大きい。そしてそのことが、生徒たちの心に夢の種をまいているようにも見える。
 平成十五年度の一年生も、二学期からプロジェクト学習に取り組んでいる。いまのところプロジェクト学習は一年生のみだが、二・三年生には「課題研究」があり、プロジェクト学習と課題研究をいかに結び付けていくか、また各教科とどう結び付けていくかが今後の課題だという。
 杉原教頭はプロジェクト学習を通して「日本型チャータースクールに育てたい。すべてが自発的なこの学習形態によって、将来、これまで日本にはなかった職種が生まれてくるかもしれない」と語る。


上杉教授の授業で取り組みたいテーマを話し合う生徒たち

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