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記事2004年3月23日 1928号 (3面) 
新世紀拓く教育 (19) ―― 下北沢成徳高等学校
変化に富んだ総合科目「人間学」
生きる力養うきっかけに
 下北沢成徳高等学校(田中暎二校長、東京都世田谷区、女子校)は、平成十五年度、改革の一環として成徳学園高等学校から現校名に名称を変更した。地名を入れて学校のイメージをより明確にしたのだ。
 十四年度からは文理コースと国際理解コースを設置した。その文理コースの生徒が学ぶのが、五年前から実施している総合科目「人間学」である。これは、高度化が進む産業社会、画一化された学校教育のなか、不安定な思春期を過ごす生徒たちが、自分とは何か、どんな才能があるのか、将来何を目指していったらいいのか、どう生きていけばいいのか、といった「生きる力」を養うためのきっかけとなればと設けたものだ。
 「人間学」を受講するのは文理コースの高校一年生、約六十人。授業時数は週二時間、連続して授業を行う。従来は高校二年生を対象にしていたが、十五年度から高校一年生に下ろした。自分の進路を考えさせる上でも、さまざまな動機付けの意味でも、より早い時期に履修する方が効果的だと考えたためである。
 一年間を四期に分け、一期ごとに教師が代わる。つまり、「人間学」は四人の教諭それぞれが、自分のテーマで内容も決めて構成し、順に授業を行う仕組みだ。その結果、生徒たちは変化に富んだ「人間学」を学ぶことになる。ただし、他の担当者との重複を避け、整合性を図り、まとまりのある一貫した授業展開となるよう話し合いながら進めていく。実際の授業では、生徒自身が発言し、考え、話し合うことが主体となる。
 十五年度の担当者は平野昌子教頭、渋谷浩教諭、大越哲夫教諭、川嶋香江教諭で、平野教頭のテーマは「社会と自分とのかかわり」、渋谷教諭は「他者とのよりよいコミュニケーション」、大越教諭は「人間が生きるとは」、川嶋教諭は「自分を知る」であった。
 例えば川嶋教諭のテーマ「自分を知る」では、@他との違いを知るA好き嫌いと価値観Bさまざまな意思決定C自分の感情に目を向けるD自分の性格を分析するE未来のありたい自分を想像する(未来の樹)という内容で合計十二時間の授業が行われた。まず、@他との違いを知るでは、フィクションを話して登場人物に対しての好き嫌いとその理由を書いてもらい、発表する。すると、実にさまざまな意見、意外な意見が出てきて、生徒たちは他者との違いを認識すると同時に、違っていてもいいのだと思うようになる。D自分の性格を知るでは、マイナス的なことは言わないというルールで、生徒たち同士でお互いをどんな人と思うかという発表が行われた。他人に自分がどう映っているか、自分の考える自分とは違うことや新しい自分を発見したという生徒もいた。川嶋教諭が担当した時期に中国人留学生が同校を訪問、授業に参加してもらったが、中国と日本の価値観の違いに生徒たちは驚いていた。その違いの背景にそれぞれの国の文化が存在することを実感した様子だった。
 「人間学」はどの担当教諭もかなり重いテーマを生徒たちに投げかけるため、一期が終わり、教諭が代わる際、インターバルを設けて生徒たちの気持ちの切り替えを図っている。十五年度は一期と二期の間にドキュメンタリー「短い命を刻む少女・アシュリー」を上映し、二期と三期の間には保護者による講演が行われた。四期の後には、ビデオ「NHKスペシャル63億人の地図――寿命」を見せた。
 講演したのは同校の高三生の母親である。保険会社のOLからアナウンサーとなり、結婚、育児、子育てが一段落すると子育て支援ボランティアに参加、現在は地域のFM放送のアナウンサーとして活躍するという、前向き思考の人である。とはいえ、順風満帆であったわけではない。さまざまな壁にぶつかり、悩んだことも話してくれた。講演の後には、ワークショップも行い、生徒が放送用の原稿を読むという楽しい試みもあり、非常に好評だった。
 「人間学」では、開始時と、すべての授業が終了した時に感想文を書いてもらう。それを見ると最初は「自分」を学ぶことが怖くてたまらなかったという生徒が、他人の意見に耳を傾け、深く考え、視野を広げ、自分が成長したと綴っている。「一年間、人間学を学び、今まで知ることのできなかった本当の自分を見つけることができた」「嫌われたらどうしようとか考えて、人と違う意見を言う子が少ないけど、この授業を通してみんなのいろんな意見を聞くことができた」と言う生徒。なかには、自分が大嫌いだと書いた生徒もいて、それでもこれからは、自分という存在、他人というものを受け止めていけるようになりたいと述べている。二年生では同校独自の総合学習「女性学」があり、それが楽しみだと書く生徒も多い。
 「人間学」は成果が手に取って見えるといったものではない。しかし、多様な人がいて多様な生き方があること、前向きに生きることの大切さを生徒たちに知ってもらいたいと考えている。平野教頭は「人間学があるから下北沢成徳に来たという生徒もいて、それがうれしいですね」と語る。この五年間でさまざまな改良を加えてきたが、今後の課題は科目「人間学」をホームルームや進路指導とどうクロスさせていくかだ。
 下北沢成徳高校は今春から、多彩なアイテムのそろった新しい制服を導入する。翌十七年度には新校舎も完成する。
 しかし、今、一番の話題は、三月二十日から東京・代々木の第一体育館で始まる春高バレー(全国高等学校バレーボール選抜優勝大会)だ。下北沢成徳高校自慢のバレーボール部は今年も出場する。インターハイ優勝、春高バレーで二連覇を果たした強豪チームである。メンバーにはワールドカップに出場した木村沙織さん(二年)もいる。監督は二十年がかりで日本一のチームに育てた小川良樹教諭。狙うはむろん三連覇だ。


講演後のワークショップで 放送用原稿を読む練習をする生徒たち

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