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記事2004年2月3日 1923号 (7面) 
新世紀拓く教育 (15) ―― 追手門学院大手前中学・高校
多彩なインターンシッププログラム
理想のコンビニ経営等で起業家育成も
 中学校ではあまり例のないインターンシップ制度とベンチャープログラムを実践しているのが、追手門学院大手前中学校・高等学校(亀井哲夫校長、大阪市中央区)である。
 中高一貫教育を行う同校は「二十一世紀型新教育システム」を提案し、先進的知性を育てるとともに、グローバルな視野を持った多彩な能力の発見と育成を目指してカリキュラム改革を行い、平成十三年度にInternationalコース、Bio−IE Scienceコース、Exceedコースの三つのコースを創設。中学校から順次導入している。
 インターンシップ制度やベンチャープログラムを実施しているのは、このうちのExceedコースで、中学二年次にはさらにインターンシップ講座のある文系のリベラルコースとベンチャープログラムのある起業家育成コースに分かれる。
 リベラルコースは、海外や日本の文化を学びながら自分のやりたいことを見つけることを目標とする。
 さまざまな海外留学や、高校に進むと追手門学院大学との接合プログラム「教養セミナー(心理学・社会学・法学等)」も用意されている。
 このコースでインターンシップを中学二年次から実施するのは、単に社会体験をさせるというだけでなく、学習の動機付けを行い、教科学習だけでは見えてこない個性や可能性を早い段階で見つけ、それを磨いていこうという意図があるからだ。
 インターンシップ講座に開講されているのは、弁護士や公認会計士といった各種国家資格につながるもの、ITソリューション・商社・物流などの各種企業、作曲・ヘアーメイク・植物栽培・日本伝統工芸・保育士等のアート系や専門職などで、多彩なものが用意されている。
 受け入れ先は主に社会で活躍する同校のOBである。弁護士から芸術家まで、百十五年の歴史を誇る同校ならではの人脈の豊かさがこの講座を支えている。
 中学生にとっては先輩にあたるため、安心だということもあるが、厳しく指導してもらうためだという。
 生徒たちは、基本的には月に一回、年間で十回ほど、一年間を通して同じ所に行く。このインターンシップ講座はリベラルコースのだれでも選択授業として取ることができるようになっている。
 また、大阪・なにわの歴史と文化の中で息づく伝統芸能や伝統工芸を、後進に伝えたいという申し出もあり、興味のある生徒にはそこにも行かせる。特異なものでは漫才師を希望した生徒、文楽をやっている祖父に弟子入りして修行中の生徒もいる。
 学校側の基本姿勢は、生徒が「これをやってみたい」と望めば、どんな職業でも探してやるつもりだという。
 「個性を見つけて、送り込んで、育てる。それが教育の面白さ、醍(だい)醐(ご)味(み)やないですか」と言う亀井校長。「リベラルコースでは、大阪の歴史・文化・経済の学習からスタートしてアイデンティティーをしっかり持たせ、世界的な視野で、特に環太平洋文化圏を学び、アジアを大事にした学習の核をつくりたい」と話す。
 一方、起業家育成コースは、起業家や企業社会のリーダーの育成を目的としている。
 チャレンジ精神をはぐくみ、コミュニケーション能力を高め、自分の人生を自分で設計してみるといった精神の育成に主眼を置く。また、社会の中で主体的に生きるために不可欠な「財務(簿記)」「IT(コンピュータ)」「語学(英語)」を学ばせる。
 このコースには中学二年次からベンチャープログラムとして企画書を作成する授業を設けており、高校三年次にはビジネスプランを作成することが最終目標である。
 平成十五年度の中学二年生のベンチャープログラムのテーマは「大阪の起業家を知る」実際に起業した人たちのことや当時の社会背景などを調べて発表する。
 中学三年生のテーマは「中高生向きのコンビニエンスストアをつくる」。生徒が利用しているコンビニごとに班を分け、ローソン一、ファミリーマート二、セブンイレブン一、その他一と五グループができた。生徒たちにはまずそのコンビニエンスストアに就職すると想定して履歴書を書かせた。
 今後は、実際にそれぞれの担当する店へ行って、市場調査を行う。校内調査も行い、どのコンビニエンスストアに週に何回行くか、どんなものを買っているかなど、アンケートを取る。そのあと、自分たちにとっての理想のコンビニエンスストアの素案づくりに取りかかり、検証を加えて、最終的にパワーポイントでプレゼンテーションを視聴覚教室で行う予定だ。良い企画があれば、コンビニエンス店の経営者や企業に対してもプレゼンテーションを行い、企画の採用を働きかけたいと考えている。企画が採用されてもされなくても、ポスターづくりなど、販促活動までやる予定だ。
 授業時数は週一時間、土曜日を使い、一学期に一つのプログラムを実施する。
 ベンチャープログラムの導入はまだ中学三年生までだが、生徒たちの評判は「しんどいけど面白い」とのことだ。
 高校段階になれば、同校は日経新聞教育提携校であるため、日経新聞から提供される企業からの「ミッション」を教材としていく。
 同時に追手門学院大学と協議して、大学レベルの「経営学」を学ばせる。高校二年次にはアメリカのホーキアムハイスクール、アバディーンハイスクールへのベンチャー留学プログラムも予定している。できれば実際の店舗経営も体験させたい考えだ。
 今後、ベンチャープログラムによる六年間の取り組みが生徒の中に積み上がったとき、「起業します」という生徒が出てくる可能性は高い。その時に備えて、資金の準備が話題に上りはじめた。もちろん進学についても、ビジネスプランを携えてのAO入試を考えているだけでなく、ワシントン大学やユタ大学、スタンフォード大学への進学も視野に入れている。


天神橋筋商店街で「たこ焼き」の手伝いをする中学2年生

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