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記事2004年12月3日 1962号 (3面) 
新世紀拓く教育 (30) ―― 玉川学園中・高等部
玉川アドベンチャープ ログラム
冒険通じ達成感など共有
 生徒たちが「玉川の丘」と呼ぶ広大なキャンパスのほぼ中央部にある経塚山の斜面に、一見アスレチックのような施設、ロープスコースがある。そこが玉川学園(小原芳明学園長、東京都町田市)のtap(玉川アドベンチャープログラム)のフィールドである。
 秋晴れのその日、中学一年生がtapに挑戦していた。指導にあたるのは玉川大学学術研究所・心の教育実践センターの若いスタッフたち。
 ロープや丸太で作られたローチャレンジコースの一つ、「Nitoro crossing」で行われたのは島のゾウ救出作戦=B棒で仕切られたこちら側陸地≠ゥら、五メートルほど離れた約一メートル四方の板ゾウのいる島≠ワで、ターザンのようにロープにつかまって飛び移るというもの。ロープは陸と島の真ん中、手を伸ばしても届かない位置にぶら下がっている。
 まず、スタッフがルールを説明する。全員が島へ渡らないとゾウは救出できないこと、ロープにつかまって島へ飛ぶこと、そのロープは今持っている物を使って工夫して手繰り寄せること。海(地面)に体の一部が触れたらやり直し。
 スタッフの説明と質問の後は、子供たちだけで、三分間の作戦会議が始まった。三分たたないうちに、数人の子供が上着を脱ぎ、そのうちの一人が脱いだ上着を手に持って、ロープへ向かって振り回すが、残念ながら届かない。別の子が自分の上着をその子に渡すと、その子は二つの上着を結び合わせて振り回し、今度は無事ロープに引っ掛け、手繰り寄せた。
 次に一人ずつ、ロープの反動で、島へ飛び移って行く。「ロープの輪に足を入れない方がいいよ。降りる時、引っかかるから」、島に着いた子が後の子に声をかける。
 半数以上の子供が島へ移ると、小さな島は満杯状態。そこで、子供たちは、端に寄って互いに体を支えあい、場所を空けて次の子を待つ。最後の子が飛んでくると、島側の子供が最後の子を助け降ろして、無事、作戦終了。この間、スタッフは声をかけるだけ。指示や命令はしない。
 そして、必ず「振り返り」を全員で行う。
 こうしたプログラムがたくさん用意されているtapは、玉川学園の二十一世紀プロジェクトの一つとして平成十二年春から導入された。基になったのは欧米やオセアニアで効果を上げているプロジェクト・アドベンチャーやオレゴンアドベンチャーという体験型教育プログラム。それを「行動する全人教育」として独自のプログラムに作り上げた。
 大きな特徴は、遊びながらやること、心理学やグループカウンセリングの手法を取り入れていることだ。それぞれのプログラムは、例えば問題解決、協調、信頼、決断力、チームワークといったテーマを持っている。
 プログラムの種類は、大きく分けて、五つ。「協力ゲーム」では、比較的簡単に協力しあうことの重要性を体験できる。「イニシアチブ」は、簡単な道具を使って、問題解決を求める活動。「トラスト」は、身体的・心理的リスクのある活動を通して仲間との信頼関係を築くもの。「ローチャレンジコース」は地上三十センチから一メートルくらいの高さに張られたロープや丸太を使い、活動の到達目標を決めて行う。「ハイチャレンジコース」は、地上七メートルから十一メートルの高さのロープや丸太等を使うもので、達成感や協力、共感、コミュニケーションなどを体験する。
 いずれも、十人から十四人くらいのグループで行う。この人数だと、中に一人くらいは必ず異なる意見や反対意見を言う者がいる。誰かがイニシアチブをとって全員の合意をとらないとうまくまとまらない。そういうことが大事なのだ。
 玉川学園中学部・高等部の授業としては、中学一・二年(年に四回)と高等部二年(同十回)で取り入れている。このほか長期休暇中に特別プログラムも実施する。
 担当する石塚清章教諭は「中学一年生のこの時期には、まず楽しくやりましょう、安全にやりましょう、積極的にやりましょう、否定的な言葉を使わないでやりましょう、友達の言葉にはあいづちを打ちながら話を進めましょう、という五つの約束を与えます。遊びを通して、それらをトレーニングしながら、そこの意識を子供の中に植えつける。これは、生徒たちが仲間意識を持つための、そして自分たちの意思で共同作業をするということを認識させるための重要な導入部分です」と話す。
 中学二年生になると、どうやって仲間の意見を拾いあげるか、どうやって協力するか、グループの人材をいかに活用するか、といったことをテーマにする。
 高等部二年生ではより難度の高いハイチャレンジコースを使ったプログラムを行う。高所での活動となるため、チャレンジする子供の中には不安にかられて泣きだす者もいる。支援するメンバーは、命綱をしっかり支える、声をかける、安全について陰で支援するなど、具体的な行動で共にプロジョクトを達成していく。仲間が共有するのは達成感と感動だ。
 「教室で道徳の本を開いても、やはり行き詰まりがあります。tapはそれを、体を通して知ることができる。いままでの道徳のやり方とは違う、ソーシャルスキルの育て方がここにあると思います」と石塚教諭。
 従来、子供たちは子供同士のさまざまな遊びの中から、社会性や人関係を学んでいた。そういう遊びをなくしてしまった現代っ子に、複雑化・国際化する二十一世紀に挑戦していく勇気、生きていく<Xキルを育てようとしている。


体験を通して生徒間の仲間意識も育つ

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