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記事2004年11月3日 1956号 (3面) 
新世紀拓く教育 (29) ―― 神奈川学園中学校・高等学校
人、社会と出会う新教育プラン展開
総合「現代評論」では分野超えたテーマ
神奈川学園中学校・高等学校(池田征矢雄校長、横浜市神奈川区、女子校)は、新しい時代に向けた教育改革に取り組み、二〇〇一年度から新カリキュラム「21世紀教育プラン」を展開している。きっかけは、週五日制の導入に伴う授業時間数の減少だった。全生徒が進学を希望する同校で、生徒たちの夢をかなえるために、学力を落とさない工夫が必要だったからだ。
 その一つとして設置されたのが選択制の多種多彩な土曜講座である。ステップアップ講座や受験講座、おもしろ講座のほか、今年度は中学三年生のオーストラリア研修の準備講座も設けるなど、全部で百十五講座を設置した。
 「21世紀教育プラン」の二つめの柱となるのは情報教育と国際教育である。情報教育では、操作方法やアプリケーションの使い方だけでなく、プレゼンテーション能力の育成、マナーやモラルなど、「ネット社会の中でどう生きるのか」ということも含めての情報教育を行っている。
 国際教育では、中学三年生全員が参加するオーストラリア研修が大きな位置を占める。春休みの十三日間(現地泊十日間)、一人一家庭にホームステイしながら、午前中は交流校で英会話の授業などを受け、午後は小学校や高齢者施設などを訪問するアクティビティーを体験する。異文化の中で交流できたときの喜び、さまざまな出会いと経験は、どの生徒にも大きな自信をもたらし、自立への大きな節目となっている。
 「21世紀教育プラン」では授業改革にも取り組み、授業の量・質ともに高めるために、毎年、生徒たちの声を聞いてそれを授業に反映させてきた。同時に、生徒自身に問題意識やテーマ性をどう持たせるかは、六年間の学校生活の中でとても大事なことと考え、「人と出会い、社会と出会う」ことを改革のもう一つのテーマに掲げていろいろな人に出会わせてきた。
 中学でもさまざまな人との出会いがあるが、高校になると、一年次には大学訪問を行い、大学の先生と出会い、大学の講義を体験受講する。
 高校二年次には、フィールドワークが課され、生徒たち自身でテーマを設定し、研究し、レポートにまとめる。行き先は希望によって四つに分かれ、戦争と平和を考える沖縄、公害問題と地域の再生を学ぶ水俣、日本のアイデンティティーを問いなおす奈良・京都、環境を考える最後の清流四万十川である。このフィールドワークの中で生徒たちは社会で活躍している人たちに出会い、社会の動きを肌で感じて、感動や痛みや問題意識を抱えて帰ってくる。
 そして高校三年では「現代評論」(三単位)の授業が行われる。一クラス約二十人の進路別選択授業である。
 そこでは、現代社会の抱えるさまざまな問題や課題を取り上げながら、精読、ディベート、小論文など、多様な形態で授業を行う。国語科・社会科・理科・家庭科の八人の教員が交代で担当する。生徒たちから見ると、一年間で四つのテーマを四人の教員と共に学ぶことになる。
 「現代評論」の中心となっている国語科の佐藤道子教諭は、「文章を精読できる力と大学入試の現代文を読み解く力をどうつけるか、両方の統一を目指しています。そのためにまず、生徒の心を動かす授業を行うよう心がけています」と話す。
 佐藤教諭の授業では、テーマは生徒たちへのアンケートを基に決める。
 例えば、今年、取り上げたテーマの一つ「報道の自由と個人のプライバシーについて」の授業では、まず佐藤教諭が、田中眞紀子さんの長女に関することを『週刊文春』が掲載した問題や、松本サリン事件などの事例を挙げ、その概要や報道のされ方について解説し、基本的人権についても説明した後、「報道の自由と個人のプライバシーの問題をどう考えるのか、具体的な事例を挙げてレポートせよ」という課題を提起した。
 例えば『週刊文春』間題に取り組んだ生徒は、図書室やインターネットで、田中さん側のコメント、文春サイドのコメント、裁判の判決などを調べて、それを自分がどう考えるか、レポートにした。少年犯罪についてまとめた生徒もいた。
 生徒のレポートは、クラスの中で発表してもらう。その際、佐藤教諭が、それぞれの事例について、不足しているところ、さらに考えてほしい点について補足説明を行った。また良くできているレポートについては、コピーして全員に配った。
 「全体的な傾向として、プライバシー保護を重視する傾向があり、報道の自由を守ることが、実は私たちの人権を守ることにつながるのだと説明しました。一見、対立しているものをどう止揚するか、二者択一ではないのだということを、現実の事例で示しながら、そうした問題を考えつづけてほしい≠ニいうメッセージを伝えようとしています」と佐藤教諭は言う。とはいえ、レポートを読むと、自分の意見がきちんと述べられているものや考察が深まったものも多く見受けられ、生徒たちが一生懸命、誠実に取り組んだ様子がうかがえたという。
 授業の最後には、「メディア社会の現代」と題する大学入試問題を生徒たちと一緒に解いて、佐藤教諭のこのクラスの授業が終わった。
 湊谷利男教頭は、「生徒たちが、分野を超えて一つのテーマを解明しようとすれば、必然的に専門性が求められる。その専門性を究めようとすれば、基本に立ち返って、単語を一つでも多く学ばなければならなくなる。そういう循環をわれわれは目指しているのです」と話す。


現代評論は精読、ディベートなど多様な形態で授業を行う

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