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記事2004年11月23日 1960号 (1面) 
論壇 ――― 三位一体改革による国庫補助廃止について
私学への国庫補助こそが学校選択権実現
 今月五日、日本武道館において私立学校の父母を中心とした一万二千人の集会が開かれた。これは高等学校から幼稚園にいたる父母が、三位一体改革に伴う義務教育費の国庫負担廃止と性格を同じくすると考えられる私立校に対する国庫負担を廃止しようとする動きに反対の意見表明と、その重要性をアッピールしようというものである。
 大会では中山文部科学大臣、前文部科学大臣で自民党の河村政調副会長をはじめ本問題に強い関心をもっている衆参両院議員、教育に強い問題意識を抱いている石原東京都知事も意見表明されたが、なかでも異色は、静岡県にある「ねむの木学園」の宮城まり子氏のご挨拶であった。ご承知の通り「ねむの木学園」は、舞台、テレビ等で活躍された宮城まり子氏が、心身に障害がある子どもを預り、一身をなげうって教育にあたっている特色のある学校である。
 「ねむの木学園」の子どもたちは全国から集まっている。行政単位の限られた地域の子どもではない。然し三位一体の改革をそのまま当てはめると、「ねむの木学園」は静岡県にあるのだから静岡県の裁量に一任するということになり、いわば全国規模の問題を一地方自治体に委ねることとなる。私立校というのは公立校とは異なり、県を越えて生徒が集まっているケースが常であって、「ねむの木学園」の例でわかるように、学校を行政単位、県で区分して補助することになると、いろいろ問題が生じてくる。
 ここはやはり国に委ねるべきであろう。中曽根元総理はある対談の中で、「私立校の制度は国がやるべきことを民間がやっている。そのために補助金がでている。私立校が勝手にやっている、そういうことではない」と述べている。まさにその通りである。国庫補助制度の廃止は、他の問題にも波及する。補助が維持されるかどうかは、自治体の判断に委ねられ、いずれは地域格差だけでなく、公立、私立の格差拡大のおそれが考えられる。また国公立と私立とでは教育費の負担に大きな差がある。高校でいえば国公立と私立の学費の差は五倍から六倍になっている。それでも、この程度でとどまっているのは格差を縮小する役割がこの補助金制度にあるからである。負担の格差がでればでるほど教育の選択権が行使できなくなる。すなわち教育の良しあしで選択するのではなく、保護者の経済力の差によって学校がえらばれることになる。私立学校が特色のある教育を展開しても、教育費の格差のあることで、保護者が自由な選択ができなくなるようでは、子どもに保障されなければならない「機会均等」は、ますます遠のいていくのではないか。三位一体の趣旨は、「民間の力を活用する」「中央から地方へ」を実現し、「競争」と「選択」を通して日本社会の改革を図り、再生することにある。そうであれば、私立校への国による補助制度こそ教育界の多様性の確保や実質的な選択権の実現のために維持されるべき制度ではなかろうか。
 国は、国民の教育条件の水準確保について最終責任を負うべきである。
 私立学校教育の振興は公教育の多様性と健全性を維持するためにも重要であり、国民の期待に応えることでもある。以上のことは補助金制度があってはじめてなりたつのであって、国の補助金制度の堅持こそほど、今日強くもとめられているものはない。
(渋谷教育学園幕張中学高校理事長・校長)

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