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記事2004年10月13日 1952号 (7面) 
新世紀拓く教育 (28) ―― 千葉明徳高等学校
様々な総合学習を展開
オリジナルプロジェクト「自分を識る」を導入
 千葉明徳高等学校(吉澤肇校長、千葉市中央区)は、一年生と三年生に総合学習をおいている。一年生の総合学習は今年度からオリジナルプロジェクト、総合学習「自分を識(し)る」を導入した。同校が設置している特別進学コース・総合進学コース・スポーツ科学コースのうち、総合進学コース一年次で必修科目である。
 名称を「自分を知る」ではなく、「自分を識る」としたのは、生徒たちが、自分とは何か、なぜ学ぶのか、どう生きたらいいのかといった本質的なことと向き合う授業であるからだ。
 一年生の総合学習「自分を識る」は、昨年から、山田教夫教諭を委員長とする同校の教諭ら六人がプロジェクトチームを組んで開発したもので、今年度の一年生から導入した。
 チームメンバーの一人、鮎川譲教諭の四月からの授業を見ると、最初の授業で、「自分を識る」について説明し、自分に関すること(十五項目ある)を書かせた。
 二回目の授業は『葉っぱのフレディ』を全員で朗読、三回目の授業はBig Rokをビーカーと砂利・石で実演、四・五回目は映画『モリー先生との火曜日』を鑑賞。いずれの授業でも最後に感想文を書かせた。
 新規プログラムに取り組む鮎川教諭は、教科書のない授業に腐心し、予期せぬ反応にとまどいながらも、生徒の書いた感想文に驚きと感動を味わっている。
 総合学習「自分を識る」は、到達目標を設定して、知識を習得させる授業ではない。特に一年生の場合、生徒の意識のレベルで考えさせること、最大の課題は、哲学するようにうながすことなのだ。
 教員は生徒たちに、例えば、こう問いかける、「そこにあるコップの水を飲んで、お腹の中に入ったら、それは自分? それとも水?」。いままで聞いたこともない質問に、驚きながら、生徒たちは考える。クラスのみんなで話し合う。正解はない、だから、間違った答えもない、生徒が自分の考えを述べることが大切なのである。
 同じく一年生の総合学習を担当する西牟田洋教諭は、先祖を二十代までさかのぼって計算させた。生徒の一人は、「先祖が二百九万七千百五十人もいたなんてビックリです。本当に一人でも欠けていたら今の私がいないなんて不思議な感じです。花も人間も一つのつながりがあり、先祖からつながっていて今の私がいるということは奇跡だなと思いました」と感想を書く。
 そうやって生徒たちは、いままでになかった視点から自分を見つめていく。
 一方、三年生の総合学習の選択講座の一つ「科学ふしぎ発見」(担当教諭は園部茂教頭)は、今年度は二グループ計五十六人が受講している。授業の中心に置くのは稲作と野菜栽培だ。
 校地に隣接する畑と田んぼを近所の農家から借り受けて、黒米・赤米・紫米などの古代米とコシヒカリを作っている。稲作は、種まきから・苗づくり、田の水はり、代掻(しろか)き、田植え、草取り、刈り取りまで、農家がやるすべての作業を、この講座を受講する生徒たちが交代で行う。
 畑では、ナス、トマト、ピーマン、スイカ、トウモロコシ、モロヘイヤなど二十五種類に及ぶ野菜を栽培している。
 「科学ふしぎ発見」は、今年度から三年生の総合学習の中に入ったが、もともと選択総合講座の一つとして園部教頭が五年前に始めたものだ。この授業では、稲作や野菜作りのほか、こんにゃく作り、豆腐作り、陶芸もやる。鶏の生の肝臓からDNAを抽出する授業の時は、生徒が「DNAが人の目に見えるなんて、とても楽しかった」と感激する。
 十二月の最終授業はいつもなべパーティー。自分たちでつくった古代米のご飯を食べ、野菜のなべをつつきながら、生徒たちは毎年、「おいしい」と歓声を上げる。
 「科学ふしぎ発見」の授業について園部教頭は、「実学という点もありますが、地球環境を守るために、将来的にどう自然環境とかかわりながら生きていけばいいのか、ということを生徒とともに考えていける授業にしたいと考えています。今や、日本では若者が農業に携わらない。それは農業が滅びていくこと、ひいては自然が滅びること。農業を見直してほしいという思いもこめています」と話す。
 「科学ふしぎ発見」を受講した生徒の一人は「いろいろな不思議を発見できてうれしかった。でもいちばん楽しんでいたの、先生かな?」と感想を書いた。
 三年生の総合講座はいずれも生きかたを高めたり深めたりするものであり、「生きる力」を育てる実践学習である。
 総合進学コースには、総合学習以外にも多種多彩な選択講座がある。ほかにも「楽しいユニークな授業もたくさんあるんですよ」と園部教頭、「『宮沢賢治を読む』『青年と路』『メカニカル・ユニバース』などは、その教員でなければできない授業です。そこには、それぞれの教員が、既成の教科・科目の中では伝えられないことを生徒に伝えたいという思いを託しているのです」という。


稲刈りをする「科学ふしぎ発見」の生徒と園部先生(右端)

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