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記事2004年1月3日 1921号 (3面) 
新世紀拓く教育 (14) ―― 立命館中・高校(スーパーサイエンスプログラム)
高、大、大学院が連携して
最先端科学研究入門開設
 平成十四年度、スーパーサイエンスハイスクールに指定された立命館高等学校(後藤文男校長、京都市伏見区)は、十五年度から高大院連携の「スーパーサイエンスプログラム」をスタートさせた。
 以前から国際化、情報化をキーワードに改革を進めてきた同校は、次の改革に向けた取り組みの中で、「科学する眼」と「数学的解析力」がベースとなるような教育づくりを進めようとしていた。同じ時、国も科学技術創造立国を唱え、平成十二年、スーパーサイエンスハイスクール構想が出てきた。
 このころ、立命館高等学校では、立命館大学びわこ・くさつキャンパスの理工学部のすべての教員に、高校生が最先端の科学技術の研究に触れることについてアンケートを取った。
 当然、高校では基礎学力を付けてほしいという声も強くあったが、授業の素材を提供できると申し出てくれたところがいくつもあり、授業内容の検討のための協議を開始した。
 浮田副校長は、「国際的に高い水準の研究をされている先生方からも積極的に、高校生に学べる内容を考えたいという申し出があった」と話す。
 平成十四年、立命館高等学校は文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールの指定を受けた。授業の内容も出来上がり、十四年度から高校二年生に本格導入した。それがRitsスーパーサイエンス構想の中の高大院連携科目「最先端科学研究入門」の四つの分野「マイクロマシンテクノロジー」「形状モデリング」「マイクロプロセッサの設計」「環境工学入門」である。
 「マイクロマシンテクノロジー」は、二十一世紀COEプログラム(世界的研究教育拠点の形成のための重点的支援・日本学術振興会)として採択された「マイクロ・ナノサイエンス・集積化システム」の拠点リーダーである杉山進教授と鳥山寿之助教授が内容をつくり、講義も担当、大学院生の助手を付けて実施している。高校生は、大きさが一ミリに満たない「くし歯形アクチュエーター」の設計図をCADを使って写し、メカニズムを理解したあと、学部の保有するアクチュエーターに顕微鏡で見ながら配線。さらにそれがきちんと動作するかどうかをクリーンルームで電子顕微鏡を使って観察する。実習自体はメカニズムの一端を見るだけだが、マイクロマシンテクノロジーが、例えば、医療分野やモバイル機器の分野でどのような可能性があるのかといった講義もある。
 「形状モデリング」は、三次元コンピュータグラフィックス(CG)の可能性とメカニズムを学ぶ。やはり二十一世紀COEプログラム「京都アート・エンターテインメント創成研究」の研究メンバーである立命館大学の田中覚教授と木村朝子助教授が担当する。
 この研究は京都に残る京の町並みや無形文化財、能や京舞などをデジタルデータ化して残していく取り組みだ。生徒たちはその基本を勉強する。
 例えば、色の濃さで立体感をつくる、分子のブラウン運動を利用して図形を描く、あるいは物理学的な法則に沿った物の動かし方でアニメーションをつくる。平成十五年十一月十四・十五日に同校で実施した第一回スーパーサイエンスフェアでは、「京都アート・エンターテインメント創成研究」の取り組みの一つ、観世流能楽師の片山清司さんらの舞う能「敦盛」とそのデジタルデータ化が紹介された。
 「マイクロプロセッサの設計」では、びわこ・くさつキャンパスにある「立命館大学ローム記念館」のVLSIデザインルームで、山内寛紀教授の指導のもと生徒たちが簡単なプログラミングの勉強をする。
 今後は、それが実際にLSI(大規模集積回路)として機能するかどうかを電気信号で解析するというところまでいきたいという。
 「環境工学入門」は、立命館大学の四人の教員が一人一テーマで担当する。十五年度は「循環型社会を目指す」(天野耕二教授)、「汚染のメカニズムを探る」(市木敦之助教授)、「浄化対策における新技術」(中島淳教授)、「国際協力と世界への発信」(山田淳教授)が設けられた。高校教科レベルの実験では検出できない汚染物質を検出するなどの高度な実験が行われている。
 いずれも五週間のセット授業となっている。
 科目「最先端科学研究入門」は、高校二年の希望者六十三人全員を受講させた。この生徒が三年生になれば、さらに踏み込んで大学の科目を履修させ、同時に関心のある分野を「卒業研究」としてまとめさせる予定だ。
 授業は立命館大学びわこ・くさつキャンパスで行われるため、高校のある京都・深草キャンパスからバスで移動する。専用施設コラーニングハウスIIも造った。
 生徒の関心も意欲も非常に高いという。学校に泊まり込み、徹夜で数学の難問題を解く企画など、勉強に熱くなる生徒も現れはじめた。
 一方で、生命を大事にすることが欠落しての研究はあり得ないと、独自科目「生命」を必修科目として置き、遺伝子の根源に立ち返って命の大切さを学ばせている。「倫理」も必修である。科学技術に携わる者の使命をしっかりつかませたいからだ。
 科学に突出した教育が、世界中で始まっている。そうした能力を持つ生徒たちをどう育てるのか、まだまだ未踏の分野だ。それだけに、海外の学校と遠隔授業なども行い、各国の同じ環境にある生徒たちと一層交流を深めたいと同校では考えている。すべてが緒についたばかり。課題はたくさんある。
 しかし、「将来への意欲と、自分の生きかたを切り開くという視点で勉強させなければいけない。日本の学校教育システムはこれまでそうしたことに十分に成功してきたとはいえない。大学の附属校である条件のもとでこそ、私たちはそこに挑戦したい」(浮田副校長)という。


クリーンルームで電子顕微鏡を使ってマイクロマシンを観察する生徒

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