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記事2004年1月23日 1922号 (1面) 
中央教育審議会の審議動向 特色ある大学教育支援
運動場、空き地要件の弾力化
課題別の取り組みを公募
【大学分科会】
 中央教育審議会の大学分科会(分科会長=佐々木毅・東京大学長)は一月十四日、東京・霞が関の経済産業省別館で第三十一回の部会を開いた。
 構造改革特別区域での大学設置基準について、四月から運動場の設置と空き地確保を弾力化する答申案を了承した。平成十六年度の予算案については、「特色ある大学教育等支援プログラム」として新たに「現代的教育ニーズ取り組み支援プログラム」を設けるなどの説明があった。
 このうち、特区については「教育上支障がなく、運動場を有することと同等の機能を果たすことができる」「学生が休息その他に利用するのに適当な場所等を有している」場合に限り運動場の設置や、空き地を確保することなく大学が設置できるとした。具体的には、公共の運動場や体育館の借用、スポーツ・クラブとの提携などにより運動場の機能を利用できる場合や、校舎内等に学生が休息できる場所がある場合に適用される。
 現行でも「やむを得ない場合には、適当な位置に運動場を設ける」などの内容となっており、それほど大幅な変更とはならない。今後は三月までに関係法令を整備し、四月から特区申請の受け付けを開始する。
 十六年度予算案は「国公私立大学を通じた大学教育改革の支援」として、特色ある大学教育改革の支援(新規六十八億円)、法科大学院等専門職大学院の形成支援(新規十五億円)、二十一世紀COEプログラム(三百六十七億円、前年度比三十三億円増)について説明した。
 来年度の「特色ある大学教育支援プログラム」は二月後半に公募要領を通知し、四月前半に受け付け、七月後半に選定結果を発表する。
 また、新しく「現代的教育ニーズ取り組み支援プログラム」を設け、各審議会からの提言や社会的要請の強い政策課題などに対応した取り組みを支援するとした。
 課題案としては▽学部レベルにおける知的財産教育▽仕事で英語が使える日本人の育成▽他大学との統合・連携による教育研究機能の強化▽長期的インターンシップ導入などの産学連携教育▽ITを活用した実践的遠隔教育(eラーニング)――などを予定している。六月から七月ごろに公募要領等を通知し、公募を受け付け、九月ごろに選定結果を発表する。
 このほか、法科大学院等専門職大学院の形成支援では、法科大学をはじめとする、各種の専門職大学院での特色ある教育内容・方法の開発・充実等に取り組む優れた教育プロジェクトを支援する。法科大学院の約二十プロジェクト、ビジネススクール等専門職大学院の約十プロジェクトを対象とする。
 プロジェクトの内容例としては▽理論と実務の架橋を目指した実践的教育内容・方法の開発▽社会人の受け入れ体制の整備と地域の連携促進▽海外のプロフェッショナルスクールとの教育研究交流▽判例・文献等のデータシステム整備などによる学習支援体制の高度化――などが挙がっている。
高卒資格付与に傾斜か
新試験の基本的性格で論議

【大学入学資格検定部会】

 中央教育審議会教育制度分科会の大学入学資格検定部会(部会長=田村哲夫・渋谷教育学園理事長)は、一月十五日、東京・千代田区のグランドアーク半蔵門で第四回会合を開き、四人の委員が意見発表し、その後、自由討議を行い現在の大検に代わる新しい試験の基本的性格について検討した。この日の議論では、新しい試験を高卒程度の学力認定試験とするのか、あるいは高卒資格を付与する試験とするのかが焦点となった。
 高校長や県教育長らの委員が「高卒資格の付与には慎重であるべきだ」と主張したのに対して、大学教授らの委員は高校中退者らの救済の重要性を挙げ、高卒資格付与の必要性を強調した。結論を出すまでに至らなかったが、高卒資格を付与するべきだとの委員が、高卒程度の学力認定にとどめるべきだとの意見の委員を上回った印象で、新試験の性格としては高卒資格を付与する方向に傾いた印象を与えた。
 いわゆるこれまでの「大検」は、大学入学(受験)資格を付与するものだったが、昨年九月、大学入学資格に関しては各大学が個別審査により付与できるようになり、高卒程度の学力を認定する試験との性格をより鮮明にし、各種職業資格の受験資格として広く活用される方策の検討が文部科学大臣から求められていた。高校関係者は高卒資格を付与できるようにすると、高校に在籍しないで試験によって高校卒業資格を得ようとする若者が増加することなどを懸念している。
 この日、出された高卒資格付与を求める意見としては、「新しい試験ができても高校教育は影響受けない」「高卒程度の学力認定ということはわかりにくい。不登校や中退者の親は、せめて高校は出てほしいという気持ちが大きい。学力がチェックできるなら高卒資格を与えてもいい」など。
 一方、高卒程度の学力認定にとどめるべきだとの意見としては、「新しい試験が教育産業に利用される。高校教員の士気にも関係してこないか心配だ」「高校卒業資格ということなら(学力試験で測れない)教科以外のことを軽視できない」「高卒資格を学力だけでみるのなら学習指導要領を変えるべきだ」など。このほか「高卒資格ではなく、別の名称にするべきだ」「試験に一級、二級といったランクがあってもいい」「学位授与機構のような組織を作って高校の卒業認証はそこでやってもいい」「認証機関ができると、高校がなくなる可能性もある」などの意見が聞かれた。
1月27日 私学団体が意見発表

【初中分科会・教育行財政部会】

 中央教育審議会の初等中等教育分科会と教育行財政部会は、一月十五日、東京・千代田区の如水会館で合同会を開き、今後の学校の管理運営の在り方に関する審議を再開した。今後の学校の管理運営の在り方については十二月十日の合同会で中間報告案が決まり、同十六日の総会で「中間報告」が河村建夫・文部科学大臣に提出されている。
 この日は、中間報告が公表されて以降、国民から寄せられた意見が紹介されたほか中間報告の段階で検討課題となっていた点などが審議された。
 同部会は、今後、初等中等教育分科会と合同で一週間に一度のペースで会合を開き、両制度の実施に向け細かな点の詰めを行っていく。一月二十一日と一月二十七日の会議では教育、経済団体など十六の団体から中間報告に対する意見を聴取する。私学関係では日本私立中学高等学校連合会、日本私立小学校連合会、全日本私立幼稚園連合会が一月二十七日に意見発表する。
 中間報告では、公立学校の管理運営に保護者や地域住民が参画する「地域運営学校」と、公立学校の管理運営を民間(学校法人等)に包括的に委託する制度の実施を提言している。一月十五日の会議で委員からは答申に向け更に精ちな検討の必要性が指摘された。
幼児教育の在り方で意見聴取
人とのかかわりが脳の発達に

【幼児教育部会】

 中央教育審議会初等中等教育分科会の幼児教育部会(部会長=田村哲夫・渋谷教育学園理事長)は一月十三日、東京都千代田区の大手町サンケイプラザで第五回部会を開いた。幼児教育の在り方について有識者からの意見を聴取し、意見を交換した。社会学や精神医学、保育の視点から幼児教育についての研究発表があり、子どもの発達に理解を深めた。
 有識者として、門脇厚司・筑波大学大学院教育学系教授と、服部祥子・大阪人間科学大学人間科学部教授、猪股祥・平塚保育園長を招き、意見を聞いた。
 門脇教授は、子どもの社会力について発表。若い世代の社会力の衰弱が著しく、いじめや不登校、引きこもりなどの「非社会化」ともいうべき病理的な事態や現象を増幅し、若い世代の脳機能を劣化させているとした。また、社会力とは▽人とつながり社会をつくる力▽よりよい社会をつくろうとする意欲と、実現できる構想力、実行力▽他者への関心や愛着、信頼感のような資質能力で「先天的に備えている高度な能力を“解発”し十分稼働させることや、多様な他者との相互行為を重ねることで、社会力は培われ、育(はぐく)まれ、強化される」と述べた。
 委員からは「子供だけでなく保護者に対しても、非社会化を感じる」「テレビやゲームなど、一方的な関係も、発達に悪い影響があるのではないか」などの意見があり、門脇教授は「人とのかかわりは脳の機能を高める重要な役割がある。“遊び”も子どもにとっては、新しい体験の積み重ねであり、脳に情報が投入され、処理機能が増えていく」などと答えた。
 服部教授は、精神医学の視点から幼児教育について述べた。思春期は人生の嵐の時期であり、乳幼児期の体験が思春期に試されると指摘した。乳幼児期や思春期など、年齢によってふさわしい課題があり、危機を乗り越えることで人格が鍛錬されるとし、「ポジティブな体験とネガティブな体験の両方を知ることが大切であり、失敗や過ちを自律心が凌駕(りようが)して成長する」などとした。
 猪股園長は「保育所における幼児教育の意義」について発表した。
 三氏に対しては、委員から「子どもを預かる機関では、問題が起きて責任を追及されるのを避けるため過保護になる。ゼロ歳児保育は子どもにとって、いい経験とならないのではないか」などの質問があり、「幼児教育を徹底的にやるなら、むしろゼロ歳から始めなければいけない。長く取り組んでいるイタリアのある都市では、よい成果を挙げている」「社会のニーズが増えている。育児休業などの制度は整ったが、親は使える環境にない。やらざるを得ない状況だ」と答えていた。
 同部会では今後、委員からの意見をまとめ、二月以降は具体的な課題への検討を始める。

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