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記事2003年9月23日 1904号 (6面) 
法科大学院の取り組みを聞く (6)
法政大学法学部教授法科大学院設置準備委員会委員長 野中 俊彦氏
市民のための法曹育成

野中 俊彦氏

  法政大学(武藤博己法学部長、東京都千代田区)の歴史は明治十三年の東京法学社の設立にさかのぼる。明治十六年には政府の法律顧問としてフランスから招かれたパリ大学教授ボアソナード博士が教頭に就任し、大正九年に私立大学としての設置が認可された。現在では法律学科が「企業・経営と法コース」「裁判と法コース」「行政・公共政策と法コース」「国際社会と法コース」および「文化・社会と法コース」を中心に法の基本原理を修得し、現代社会への対応をはぐくむ。政治学科には「都市・行政学コース」「理論・思想コース」「情報・文化コース」および「国際・地域コース」がある。法科大学院では二十一世紀を担う多くの創造的法曹を養成し社会の要請に応える。同大学の法科大学院の取り組みを野中俊彦法学部教授・法科大学院設置準備委員会委員長と、浜川清法学部教授・法科大学院設置準備委員会副委員長に伺った。


柔軟な思考力高め
法学の基礎的素養を養成


 ――法政大学の目指す法科大学院の基本的な考え方を教えてください。

 浜川副委員長 本学の法学部は非常に高い研究能力を有していると自負しています。この研究能力の高さを法科大学院設立に向かって最大限発揮しようと考えています。法科大学院では、司法試験予備校の受験勉強では得られない、深い知識や応用力、それに各分野の先端的な研究を理解できる能力を身につけることが必要です。
 私どもが目指す法科大学院は、まず市民のために、市民生活の中で働くことができる法曹の育成です。例えば、福祉関係、家庭の問題などの分野で活躍する場合が考えられます。また、商事法関係の教員が充実しているので、企業法務、国際取引関係に強い法曹を育てようと思っています。そして、伝統的に公法関係、政治学も研究実績が充実しているので、将来的には国家公務員への道に進む卒業生にも対応できるように考えています。
 野中委員長 市民に密着した法律相談業務を担う市民法曹の養成を大きな柱としています。同時に、ますます複雑化する企業活動、企業間関係、国際取引などに対応できる法律家を育てるということです。

 ――法学部の改革はどのように進めていますか。

 浜川副委員長 たいへん難しい問題ですが、法科大学院設置の準備と併行して学部改革を考えてきました。問題はスタッフが法科大学院に割かれるので、人事で難しい面があることは否定できませんが、なによりも法学部の位置付けを明確にする必要性があります。法学部の定員を少なくする大学もありますが、法学部は司法試験のための学部ではないのですから、幅広く法的な知識やものの考え方を修得し、これがさまざまな分野で生かされることには変わりありません。
 法学部については、基本的には二つの方向で変えていかなければということです。一つは法科大学院への進学につながるようなコースを整備することです。今後は知識の詰め込みではなく、柔軟な思考力を高めていくような方向が期待されているのですから、司法試験の受験勉強という位置付けではありません。もう一つは、法学の基礎的な素養を身につけ多方面で活躍する人材を養成することであり、さらに新しい科目を充実し、環境問題、知的財産問題などのコースを整備しようと考えております。

1クラス25人の少人数制
リーガルクリニックで実習


 ――法科大学院のカリキュラムの特徴はどこに表れていますか。

 浜川副委員長 いくつか申し上げます。
 基本科目では、まず公法系の授業で、未修者(三年制)向けの授業を少し厚めにしております。民法という実体法と、民事訴訟法という手続法との連携と融合を深めたカリキュラムを考えています。
 授業形態について他の大学院では一クラス五十人というところが多いようですが、本学は一クラス二十五人を原則としており、少人数教育で効果を上げようとしています。
 実務基礎科目群では、クリニック、ローヤリング(面接交渉)、国際経済紛争処理など独自の科目を置き、英文契約文書作成ではアメリカの弁護士資格を持った教員にお願いしています。特にクリニックに関して、弁護士資格を持った専任教員を三人配置しています。希望者をグループに分けて、学内のリーガルクリニック(法律事務所)で実習するほか、外部の法律事務所にも支援していただきます。全国的にみてかなり進んだものができるのではないでしょうか。
 展開・先端科目群は企業法務、公共部門関係の法律科目を充実させております。

法学未修者を30人
法学既修者は70人


 ――入学者選抜方法はどのようなものになりますか。

 浜川副委員長 本学は定員を法学未修者三十人、法学既修者七十人、合計百人と予定していますが、両者とも法科大学院適性試験を受験することが必要です。未修者は書類選考と面接で行い、筆記試験は行いません。学部の成績も選考対象です。
 既修者については、法学の試験を実施しますが、決して司法試験の択一試験的なものではなく、法学を二年間勉強して法科大学院を卒業できる程度の学力を身につけているかどうかを判定します。まず、憲法、民法、刑法の三科目を必修とし、行政法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法のなかから二科目を選択して、マークシート方式の試験を行います。さらに、憲法・民法・刑法のなかから一科目選択の論文式の試験を予定しています。社会人については、特別の専門的な資格や企業での活動なども選考の対象にします。
 野中委員長 但し、未修者枠に対して、法学部の政治学科を勉強したものを拒むことができませんが、文部科学省の二割という枠は守るように努力します。

 ――専任教員・実務家教員の割合はどうですか。

 浜川副委員長 専任教員二十一人のうち、実務家教員は八人です。裁判官、検察官、弁護士、国家公務員などの実務家が含まれています。実績のある優れた実務家が多いことも本学の特徴だと思います。この中には、公務員でWTO(世界貿易機関)の専門家もいます。
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