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記事2003年8月3日 1900号 (10面) 
企業トップインタビュー 教育はこれでよいのか
アサヒビール(株)代表取締役 会長 福地 茂雄氏
プロフェッショナル 育成が大事
物ごとを考える判断基準を 問題の発見能力と解決能力


 「日本は教育についてシステムや制度ばかりにこだわってきたので、この点では随分進んでいたと思います。しかし、教育内容と教育研究の面では、欧米と比べるとかなり弱いのではないか」と、福地茂雄・アサヒビール会長は疑問を投げかける。その例として、毎年、同社に入社希望の多くの大学生の能力について挙げる。同社に入社したいと考えている大学生はエントリーシートを提出しなければならないが、その際に行動特性診断を実施している。「この診断結果で大学生が最も弱点とするところが、問題発見能力と問題解決能力であることが分かった」。
 「これは学生が判断基準、つまり、物事を考える場合の物差しを持たないということだと思います。だから新しい問題にも適応できないのではないでしょうか」
 この判断基準を身につけるための方策として、こう答える。「この判断基準は学校教育、特に大学教育で哲学、論理学、倫理学、西欧思想史、心理学などといった基本的な、いわば物事を考える場合の土台となる勉強をする必要があります。これらを通して基礎を学び、その上に専門的な知識を積み上げていくことができるのだと思います」。
 また、日本の大学入学試験制度についても注文をつける。
 「日本の試験方法はマークシートが多いと思われますが、必ず正解があるのです。これでは正解を作り出す能力がなくなるのではないか。正解がない問題があってもよいと思います。正解が必ずあれば、問題発見能力や問題解決能力が育成されないのは当然ではないかと思うのです」。
 福地会長は、これからの企業が求める人材として、ゼネラリストではなく、プロフェッショナルを挙げる。以前は何でもこなす“ゼネラリスト”が必要だったが、今のような競争社会では自分の仕事は徹底的に熟知していることを前提に、局面の変化に的確に対応できる“プロフェッショナル”の重要性を指摘する。
 「例えば、アメリカンフットボールでは、ディフェンス(守備)とオフェンス(攻撃)に分かれています。ディフェンスのプロフェッショナルは徹底的にディフェンスに集中しているが、局面が変わると的確に対応し、オフェンスになり得ることができるのです」
 同社でもプロフェッショナルを育てるための研修を実施している。階層別の研修ではプロフェッショナルは育たないとし、各々が必要な能力を育てる“選択型研修”を導入している。
 福地会長は人との出会いを非常に大切にする。
 「私は『一(いち)期(ご)一(いち)会(え)』を大事にしています。ここには人間くささや感動が生まれます。感動する心は、研修ではなかなか身につけられません。大学教授との触れ合いも同じで、学生は交流を通してさまざまなことが分かってくると思います」
 福地会長は財団法人アサヒビール芸術文化財団の理事長も務めている。
この財団は美術・音楽を中心に芸術文化活動を助成し、その国際交流を支援するとともに、美術館を運営し、文化の向上発展に寄与するために設立された。平成十五年度は芸術活動と留学活動の二部門で助成する。留学生部門は日本の大学院で美術・音楽を専攻するアジアからの留学生を支援する。こんなところにも人との出会いを大切に、感動する心を育てる環境づくりを重視していることが分かる。
 福地会長の経営哲学は、「企業のトップとしては、変える勇気と、変えない勇気を持つことが必要です。変化の激しい時代ですが、その中でも変えてはいけないものもあります」
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