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記事2003年8月13日 1901号 (4面) 
大学の「知」ビジネス化 (7)
TAMA−TLO株式会社設立
産学連携地域型TLOで活性化へ
協力連携大学は国公私立21校

 個別大学が学内の知的シーズ活用のためにTLO(技術移転機関)をつくる例のほかに、いくつかの大学が共同してTLOを設立する例もかなり多くなった。その一例として、東京、神奈川、埼玉の一都二県にまたがる広域多摩地域には大学群・企業群・自治体をまとめて、大学の知的資源と企業のニーズを結びつけるTAMA−TLO株式会社が設立され、JR八王子駅前に本社を構えて活躍している。


 この地域は戦争中は中島飛行機などを中心とした軍需工業地帯だったが、その素地の上に戦後はハイテク産業が育ち、エレクトロニクス、メカトロニクス、計測・制御装置の部品供給源となった。
 さらに都内の大学が広い敷地を求めて移動してきたため、この地域の大学数は八十六校、シリコンバレー以上の頭脳の集積地帯となった。TAMAというのはテクノロジー・アドバンスド・メトロポリタン・エリア(技術先進首都圏地域)の略称である。平成十年、産学連携で地域を活性化しようとTAMA産業活性化協議会が設立され、その活動の中から地域型TLOが十二年七月に株式会社として設立され、同十二月に承認TLOになった。
 現在、協力連携関係にある大学は工学院、東洋、創価、尚美学園、東京都立、東京都立科学技術、青山学院、多摩美術、法政、成蹊、東京工科、神奈川工科、関東学院、湘南工科、お茶の水女子、東京医科歯科など二十一大学だが、幹事校なしで運営されている。


発明考案を特許化
産学官連携の共同研究を組織化


 活動内容は発明考案の特許化、特許活用の技術移転、産学官連携の共同研究組織化などが主なものである。大学のTLOでは「黒字になるまであと十年」など希望をこめた話がよく出るが、実際に大学の発明が特許化され、さらに企業に技術移転して製品となり、ロイヤルティーを生むのは容易なことではない。TAMA−TLOの井深丹社長も「特許はそう技術移転して売れるものではありません。うちの会社も本業は平成十四年度には三百万円の赤字です」という。
 特許をとり技術移転するという本業の手順は、まずTLOの発明考案提案書所定用紙に会員研究者が記入して提出する。審査した上で「見込みあり」と判断すると、TLOで特許提案書をつくって特許庁へ申請する。
 審査するには研究内容の分かる機械、電機、化学、薬学などの分野別の大学の先生、新事業創出経験のある企業経営者とTAMA−TLO社員から成る評価委員会がある。
 承認TLOが受けられる公的支援として@技術移転活動にかかる事業に対しては補助率三分の二以内で年間三千万円を上限とし五年間補助を受けられるA特許の審査請求費用は減免してもらえるB技術移転の専門家(特許アドバイザー)派遣等についての支援−などがある。しかし@の技術移転活動への補助のうちでも、例えば国内での特許出願経費は除外され国の補助金は出ない。特許をとる出願経費は印紙代や弁理士事務所への支払いなどで一件当たり三十万円、出願五十件なら千五百万円となり、これは自前で払わなければならない。特許をとって売るといっても、経費がかかり、売れる確率が低ければ利益は上がらない。
 赤字続きの株式会社は持続できないが、赤字の本業の方は実はスケールが小さい。大きいのは、日本に新しいベンチャー事業を育てる目的で大学の発明を企業と共同で開発するため、国が補助金を出す「大学発事業創出実用化研究開発事業等」である。共同開発のプロジェクトは八件進行しているが、数億円の委託金・補助金を扱っており、全社の一般管理費の黒字化ができるのである。


「ゴミ処理システム開発」実用化へ
特許をベースに会社と提携


 例えば、いま進められている研究開発事業の一例、ゴミ処理システムの開発は創価大学の戸田龍樹教授の特許をベースに、豊島区の有限会社シーウェルが提携・実用化をめざして共同研究を進めている。ここでのTLOの仕事はまず産学の橋渡しをして、こうした共同研究を創出することであり、よく相談して研究開発提案書を国に提出する。採択されると、国は直接大学や企業に補助金を出さず、TLOが元請の形をとる。また補助金は後払いだから、TLOが資金を銀行などから先に調達して用立て、払わなければならない。その資金調達も大切な仕事である。
 共同開発事業は期限が一年から三年あるが、その間きちんとまじめに共同開発事業と取り組んで成果が出るようTLOは研究管理を行う。まじめに研究開発に取り組んだが、思わしい結果が出なかったとしても、それは仕方がなく、返済責任などは生じない。この手の共同開発事業を十件も担当すればTLOを運営して特許による製品化の確率は高くなる。
 会員にはだれでも自由になれるが、多いのは出資者としての大学法人や大学教授の個人会員、中小企業経営者である。年会費は大学法人が十万円〜四十万円、中小企業が三万五千円、大学教授などの個人は一万円。大学法人が学内研究者を例えば十人とりまとめて無記名会員として登録すると、一年の提案十人以内なら顔ぶれが変わってもOKというゴルフ場方式。
 大学の先生は個人で加入しても一万円の年会費だが、自分の発明の権利をTLOに譲渡して実用化する企業を探してもらい、公的資金を活用して実用化研究できるとなれば安いもので、そういうメリットがあるから会員が増えるわけである。
 平成十二年十二月以来、発明考案提案受理百五件、特許出願九十一件、外国出願六件、TLOと企業の共同出願十八件、技術移転件数六件、技術移転に使われた出願済み発明十六件である。(数字は経済産業省「TLOのご案内」二〇〇三年度版による)

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