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記事2003年8月13日 1901号 (3面) 
中央教育審議会の審議動向
創意工夫生かせるよう指導要領改訂へ
  中央教育審議会の大学分科会では大学入学資格の緩和を検討、朝鮮人学校卒業者にも大学の判断で入学資格を付与する方針を決め、留学生部会では今後の留学生政策の検討を続けている。初等中等教育分科会の教育課程部会では各校がより創意工夫を発揮できるよう学習指導要領の改訂方針を固め、教育行財政部会では設置主体の多様化等を審議した。


【留学生部会】
新政策で自由討議 大学入学前の「就学生」に支援
日本人の海外留学推進


 中央教育審議会の留学生部会(木村孟部会長=大学評価・学位授与機構長)は七月三十一日、東京・霞が関の文部科学省別館で第十一回部会を開き、前回に引き続き中間報告案「新たな留学生政策の基本的方向について交流の拡大と質の向上を目指して(仮)」をもとに自由討議した。
 同案ではこれまでの留学生政策とは異なり、大学入学前の「就学生」や、日本人の海外留学への支援を重視した内容も含まれている。
 このうち、「就学」とは、専修学校専門課程などを除いた日本語教育機関の学生の在留資格で、大学に通う「留学」とは異なる。在留期間など扱いが違うことから、これまで同部会では就学生への支援や、留学生と同様の対応を求める意見が出ている。
 同日も、委員からは「大学に入学してからの『留学生』だけでなく、日本語教育機関の『就学生』についても議論が必要だ。アメリカや中国では大学留学と、長期の語学留学の学生は同じ扱いだ」とする意見があった。
 平成十四年現在、高等教育機関に入学する留学生数は、短期留学を除いた推計で三万四千七百七十六人。このうち、日本語教育機関を卒業してから高等教育機関に進学した留学生は一万六千二百十七人で、全体の四六・六%。留学生数の約半数を日本語学校の卒業生が占めるなど、多くの留学生にとって日本語教育機関が、留学生活の第一段階となっている。
 このほか、留学生への支援については医療などへの対応のほか「結婚や出産など、女性留学生への支援が必要だ」とする意見があった。
 一方、日本人の海外留学を推進するための施策についても討議した。大学生レベルと比べて規模の小さい高校生留学に対しては「留学後に大学入試が控えているため、高校生留学が伸びない」「大学の秋季入学を検討すべきだ」という指摘があった。
 受け入れがアジア中心で、派遣が欧米中心である点については、「技術系の研究の場合、留学先にアジアを希望する人は少ないが、逆に文化を学びに行きたい人はいる。分野ごとでなく国全体での双方向システムにしてはどうか」とする案があった。
 十六年四月に設立する独立行政法人日本学生支援機構には「留学経験のある若い人を要所にすえてほしい」という提案や、同案の留学生交流の項目について「『地方自治体や民間団体と協力』と加えてほしい」とする意見があった。
 このほか、海外事務所の設置や、省庁間の縦割り行政を超えた対応、具体的な数値目標の設定などを求める意見があった。


【大学分科会】
大学入学資格を緩和
朝鮮人学校卒業者も大学の審査で


 文部科学省は八月六日、大学入学資格を外国人学校卒業者や高校中退者などにも認める方針を明らかにした。同日、東京・三田の三田共用会議所で開いた中央教育審議会の大学分科会(佐々木毅分科会長=東京大学長)の第二十三回分科会で提案し、了承された。これまで大学入学資格検定(大検)を必要とした朝鮮人学校卒業者も、大学の審査で入学資格を得ることができるようになる。
 教育の国際化や生涯学習などの観点から、大学入学資格を見直すこととした。一般の高校と同様に卒業生が入学資格を得る場合と、個人が大学の個別審査を受けて入学資格を得る場合に分かれる。一般の高校と同様に大学を受験できるのは、一定の基準を満たした外国人学校の場合で▽国際的な評価団体(WASC、ECIS、ACSI)の評価を受けている▽外国の正規課程(十二年)と同等として位置づけられ、各国の大使館などを通じて公的に確認できるが該当する。主に欧米系のインターナショナルスクールがこの場合にあたり、評価を受けている学校は七月十五日現在、国内に十六校ある。
 朝鮮人学校卒業者は大学の個別審査が必要で、高校中退者や不登校者も各大学の審査となる。高校卒業と同等以上の学力があると認める者に、各大学が入学資格を与える。各種学校での学習歴や社会での実務経験、大学の科目など履修生としての実績などから判断する。
 七月十五日現在、朝鮮人学校など本国での公的な確認をされていない学校は二十五校。
 このほか、修業年限が十二年未満の外国人学校も、ブラジル人学校を中心に二十六校あり、今後、対応を検討する。

9月までに省令改正
16年入学者から対応


 委員からは、「日本のあるべき将来像を見通している。大学がいかにボーダーレスになり国際競争力を得るかという点から見ると、資格もボーダーレスにしたほうがよい」と全面的に賛成とする意見がある一方、「十二年の課程を踏まなくてよいとなると、高校の制度が崩壊する。行きたくない高校には行かなくてもよいという誤解を招く」という意見もあった。
 また個別審査については「多くの審査が集中した場合、処理しきれないことも考えられる。また、A大学では資格を与えて、B大学では与えないということもある。個別審査はあくまでも例外で、大検をしっかり残してほしい」「『高校卒業と同等の学力』と言っても、高校の教育自体が多様化している。審査の具体的なマニュアルを明確にしてほしい」などの指摘があった。
 文科省では九月までに省令や告示を改正し、平成十六年四月の入学者から対応する。併せて、大検は高校卒業レベルの認定試験との性格に転換する方向で検討する。


【教育課程部会】
分かる授業など目指し
指導要領改訂へ「中間まとめ」


 中央教育審議会初等中等教育分科会の教育課程部会は八月四日、東京・千代田区の如水会館で第七回会合を開き、五月に諮問のあった「今後の初等中等教育改革の推進方策」に関して、学習指導要領の「基準性」の一層の明確化、「個に応じた指導」や「総合的な学習の時間」の一層の充実などの在り方などを示した「審議の中間まとめ」をほぼ決定した。この日の部会では中間まとめ案に関して文言や表現の修正など様々な意見が出されたことから、最終的な修正に関しては木村孟部会長に一任となった。その後、八月七日に修正された「審議の中間まとめ」が同省から公表された。
 今回の「審議の中間まとめ」は、現行学習指導要領のねらいとする「生きる力」の育成を一層推進するため、「生きる力」を知の側面からとらえた「確かな学力」をはぐくむため、各学校の取り組みの充実を目指したもの。各学校で個に応じた指導などの工夫を通じて分かる授業を一層推進するとともに、総合的な学習を通じて体験的・問題解決的な学習活動の展開がしやすくなるよう、「〜は扱わないものとする」といった“はどめ規定”の記述を見直し、創意工夫あふれる教育がさらに充実するよう学習指導要領の「基準性」(すべての児童生徒に指導すべき内容等を示したもののほか、児童生徒の実態に応じて示されていない内容の指導も可能ということ)をより明確にし、周知する。また指導時間の確保に関しては、形式的に年間授業時数の標準を確保するのではなく、各学校や教育委員会が実質的に指導に必要な時間や教育効果等を勘案して判断し、工夫することなどを求めている。総合的な学習の時間に関しては、取り組みが依然低調で教育効果も上がっていない状況も見られることから、各学校で「学校としての全体計画」の作成を促すなど一層の充実策を提言している。今後は八月下旬にも予定されている初等中等教育分科会、九月上旬にも予定されている総会に報告、今秋にも答申をまとめることにしている。答申に沿って学習指導要領が改訂される予定で、平成十六年度から実施されることになっている。個に応じた指導などで児童生徒によって学ぶ内容に違いが生じるが、入学者選抜では学習指導要領がすべての児童生徒に共通して指導する内容ということを踏まえ、小・中・高校の教育に与える影響等に配慮して選抜することなどを求めている。八月四日の教育課程部会では、まとめの文言の修正等を求める意見のほか、度重なる改革で教育現場は疲労困ぱい、時間的にも余裕がない状態にあることなどが複数の委員から指摘された。


【教育行財政部会】
多様な設置主体必要
総合規制改革会議の八代氏と意見交換


 中央教育審議会初等中等教育分科会の教育行財政部会(木村孟部会長=大学評価・学位授与機構長)は八月五日、東京・虎ノ門の霞が関東京曾舘で第四回会合を開き、株式会社等の教育参入や公立学校の管理運営の民間への包括的委託など学校教育における大幅な規制改革を求めている総合規制改革会議(小泉首相の諮問機関)の八代尚宏委員(日本経済研究センター理事長)を招き、教育分野における規制改革の意見を聴取したほか、意見交換を行った。
 この中で八代氏は、個人的な見解と断ったうえで、教育は公共性が高いものの、消費者へのサービスのひとつであること、政府管理の教育から、事業者間の競争へ、消費者選択主体の方向に移行すべきで、教育内容、財務状況、外部評価を徹底的に公表し、消費者に選択の余地を与えること、そのためには多様な設置主体が必要だとした。また国公立学校と私立学校の競争条件の同一化が必要で、私立学校にも公立校の授業料相当分は出すべきで、それを上回る場合は(保護者は)実費負担とすべきだとした。さらに学校教育に関しては、私学審議会の在り方、学校法人設立の際の“不動産規定”が問題と指摘。そのほか責任の所在を明確にするため学校長に十分な権限を与えるべきで、また少人数教育に関しては、教員の稼働率をもっと上げることが必要で、教えていない教員が多すぎる、もっと管理的な仕事を減らすこと、行事の精選、アウトソーシングの検討の必要性を強調した。
 こうした意見に中教審委員からは、「マーケットメカニズムを学校の中に入れるには一定の社会的条件が必要だ。いつつぶれるか分からない学校にはよい先生は集まらない」との意見が出されたが、八代氏は、「学校がつぶれることに関しては、複数の学校でつぶれた学校の生徒を受け入れるといったセーフティーネットを作るべきだ」とした。
 また中教審委員からは、「義務教育はどこに住んでいても一定レベル以上の教育を提供することにある。(学校によって)教育水準に差が出ることは国策としてはいかがなものか」と質問をぶつけたが、八代氏は「文部科学省が教えるべき教育内容を提示、それを多様な教育で実現すればいい。一時期差が出るのはやむを得ない」とした。
 さらに「貧富の差で受ける教育が変わってくる」「安心して信頼できる一番近い学校に行くことがいい。学校法人制度は世界的にも稀(け)有(う)なシステムで、かなり多様なことができる。アメリカ型システムよりもっといいものになる」との意見が出されたが、八代氏は、「あくまで今の資金の中で効率的に使う仕組みが必要で、無駄に使っていたら淘(とう)汰(た)される。私立学校にも公立学校と同じ公費を出せば、普通の人でも高いサービスが受けられる。今の義務教育を否定していない。学校長にもっと裁量権を与えるべきだ。もっと改革のスピードを上げるべきだ」などと述べた。

公設民営方式など多様な義務教育を

 中教審委員からは、「義務教育がうまくいっていない原因は何か」などの質問もあり、それに対して八代氏は「日本のあらゆる制度がうまくいっていない。今後は試行錯誤、つまり特区でやっていかないとだめだ。少しでもうまくいっている学校のまねをするべきだ。義務教育は無償だが、保護者が納得すれば付加サービスに関しては学校長の権限で費用を徴収できるようにすべきだ。公設民営方式で私学の経営者に公立の学校運営を委ねれば、多様な義務教育ができる。公的責任とは公務員でやることなのか。内容を明確にすれば、もっと多様なやり方でやっていい」などと指摘した。この日は意見聴取と意見交換で時間切れとなったため、公立学校の管理運営の在り方等に関する審議はなかった。
 このほか最後に木村部会長の提案で、義務教育国庫負担制度や教育条件整備の在り方に関しては新たにワーキンググループを設けて専門的に検討することになった。
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