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記事2003年8月13日 1901号 (10面) 
図書館統合知識情報サービス 国士舘大学
「Kiss」でサイバーキャンパス実現へ
  情報技術の急速な進歩によってさまざまな資料の電子化が可能となり、いわゆる図書館の電子化やサイバーキャンパスへの試みが加速している。国士舘大学(三浦信行学長、東京都世田谷区)では、平成十年に実施した附属図書館の新築を機に図書館管理システムを導入するとともに、学園全体の情報化の核施設としての図書館を目指し、整備を進めてきた。本年度には同図書館が目指す「統合学習環境」の一つの到達点として、高速の自製マルチメディアデータベースと豊富な学外データベースとの横断検索機能を併せ持つ図書館統合知識情報サービス「Kiss」の開発を完了し、本格的なサイバーキャンパスを担う大学図書館として稼働を開始した。


情報化時代の図書館 資料をスピーディーに提供
【統合学習環境としての図書館】

 全国の大学図書館では情報化時代を迎えて資料をデジタル化し、インターネットや学内のネットワークを活用した照会サービスなどに取り組んでいるが、国士舘大学においても平成十二年より学内ネットワークの高速化やサーバーの拡充などを実施し、情報化時代の大学図書館にふさわしいインフラ整備を行っている。
 このような動きは他の大学でも同様だが、同図書館のユニークな点は、図書館の役割を、デジタル化された資料のオンラインサービス、学内外の学術情報の検索や図書館資料の利用などによる学習支援にとどまらず、授業のデジタルコンテンツ化とオンデマンド配信の統括や教職員全体へのIT活用環境の提供、情報活用能力の支援までをも視野に入れていることだ。同図書館ではこのような概念を「統合学習環境」と表現し、いわゆるメディアセンター的な機能と図書館としての機能を併せ持つ施設を目指している。
 前述の構想に基づいて環境整備を継続するなかで課題となったのが、拡大し続ける情報の量と質の問題だ。
 図書館の機能を考える場合、当然のことながら「データの種類や存在する場所、形態に制限されることなく」大学の所有する「知の集積」をより豊富に準備し、「なるべく使いやすく、かつ速やかな方法」で検索できて、いかに「学生・教職員が活用しやすい形」で提供するかが問われている。
 さらに、ブロードバンド時代を迎え、動画や音声を含む資料や教材が増加してくると、これらをより広範にスピーディーに提供する必要が生じる。
 こうしたニーズに、現在の大学図書館は明確な答えを見いだせないでいるが、同図書館の統合知識情報サービス「Kiss」の開発により初めて解決可能な方法が出現したと言えそうだ。


知的資産を統合管理 高速な横断検索も可能に
【「Kiss」の仕組みと技術的側面】

 「Kiss」とはKnowledge Integration Service Systemの略で大学の持つ知的資産を統合管理し、提供するサービスを指す。その基本的な機能をシンプルに述べれば、図書館に所蔵されている図書や文献の情報、大学の学部紀要・研究所報等の学術情報紙誌、学内サイト情報などいわゆる学内情報および市販電子辞書や各種データベースなどの学外のソースを合わせた資料・学術情報の集積部分と、これらの情報をランダムに高速で検索する検索エンジンとを組み合わせたものといってよいが、存在する場所もデータの形式、形態も多岐にわたる学術情報を高速で、しかもソースの条件にかかわりなく検索し、即時ユーザーに提供できるシステムはこれまで存在していなかったという。
 この難しい課題を解決した「Kiss」のコアテクノロジーが、富士通株式会社(本社=東京都港区)が開発した「フルサーチ瞬索」(以下「瞬索」)という検索エンジンだ。「瞬索」は従来の検索エンジンの概念を打ち破った理論として著名な九州大学の有川教授らが開発した超高速パターンマッチングエンジン「SIGMA」を実装したものだが、その特長は従来の検索エンジンが必ず必要としていたインデックスを不要にしている点だ。このため対象データの全文を超高速で検索するだけでなく、データ構造が単純になり負荷が少ないので大量のアクセスに低スペックのマシンでも対応できるなど、ブロードバンド時代にふさわしい高い実用性を有している。「Kiss」はこれをベースに、富士通株式会社と関連企業の株式会社トーコン・システムサービス(本社=東京都文京区)が国士舘大学附属図書館の発注したシステム仕様に沿って開発・納入したものだ。


資料等を即座に表示 利便性が飛躍的に向上
【「Kiss」が提供するサービス】

 図書館統合知識情報サービス「Kiss」を利用する場合は、まずポータルページから入る。ポータルページは三つのフレームから成っていて最上部は図書館のホームページ用フレーム。ここには施設の利用案内や各種のサービス、大学のホームページへのリンクなどのメニューと並んで、検索用入力枠が二つ表示されている。一つは、学内のサイト検索で、もうひとつは事典や関連サイトを含む複数の電子辞書横断検索となっている。二つ目のフレームは画面の左側に位置する対象データベースのメニューで、学術資料の根幹を成すものだ。こちらは学内・学外のデータベース、および国外のデータベースの三つのカテゴリーに分かれていて、学内の項目にはOPAC、kiss-WIN、kiss-DB、kiss-DIC、kiss-MAの五項目があり、学外の項目には国会図書館、NACSIS、Book Plus、雑誌記事検索の四項目、国外にはOCLC、BLの二項目が列挙されている。三つ目のフレームは画面の中央に位置する、入力や検索結果を表示するワークエリアだ。
 各項目を簡単に紹介すると、Kiss-WINは図書館のレファレンスおよび学習のQ&Aの履歴をストックするデータベースで、利用者のヘルプデスクとして機能する。Kiss-DBは論文集や学部紀要等学内デジタル出版物のデータベース。登録情報は詳細表示のレベルで、公開を学内のみに限定することもできる。Kiss-DICは「Kiss」利用者が体験的に収集したり作成した学術情報、教育素材、用語詳説、学習教材やそれらを構成する部品であるテキスト、図表、映像、音声、関連サイトのURLなどのデータベースで、利用者が目的と用途に合わせて引用できる共有情報だ。
 これらのコンテンツは、投稿方式によってリファインされる。Kiss-MAはストリーミング、商用e-ーニングパッケージや自製の授業・学習コンテンツ、同大学が主催する講演会や行事、広報等の記録映像コンテンツ等のデータベースで、本格的なマルチメディア・アーカイビング・サービスだ。これらは、東通産業株式会社(本社=東京都港区)がサポートする最新のストリーミング配信関連機器・技術により、全学的にストレスのないコンテンツ視聴環境を整えている。
 国会図書館の所蔵資料のOPAC、NACSISは国立情報学研究所による国公私立大学図書館所蔵資料の総合目録データベース検索、BookPlusは国内ベンダーが提供する商用データベースによるOPACだが、有料サイトなので学外からのアクセスは不可となっている。雑誌記事検索も同じベンダーが提供するもので、雑誌の記事カタログを検索することができる。OCLCは米国OCLCのFirst Searchという洋書カタログ検索に連動している。BLは英国British Libraryの洋雑誌記事カタログ検索に連動する(OCLC、BLとも有料サイト。BLは同館で記事のデリバリーサービスも発注できる)。

 求める資料の検索は、これらの各項目を個別に検索する場合と、複数の項目を横断して検索する場合に分かれるが、個別検索の場合は各項目の右側にある「個別」ボタンをクリックする。すると、それぞれのデータベースの検索画面が表示されるので、必要項目を入力して検索を実行する。また横断検索の場合はまず、キーワードを中央フレームにある入力欄に入力した後に、検索対象に選んだデータベースの左側にあるチェックボックスのみをいくつかクリックし、それから横断検索実行ボタンをクリックする。結果はヒットした各データベースの一覧としてヒット件数が表示されるので、これをクリックしてヒットリストを表示する。「Kiss」の場合は、ヒットリストから任意のタイトル文字列をクリックすることによって当該詳細情報へ移行できる。詳細情報を確認して本文を表示する場合は、本文表示ボタンかタイトル文字列をクリックする。本文はマルチメディア対応なので、PDFでも動画でも、そのデータ作成時の属性に従ってビュアー等を開いて表示される仕組みだ。詳細表示エリアの参考資料および参考URLに項目表示がある場合は、当該項目をクリックすることによって参考資料を表示、ないし関連サイトへのジャンプが可能となる。この参考資料もマルチメディア対応だ。
 このように多彩な項目であっても、その検索に要する時間は驚くほどわずかなもので「Kiss」における「瞬索」の威力が実感できる。また、学内外の豊富なデータベースとストリーミングによる動画配信や各種コンテンツの充実は、ユーザーの利便性を飛躍的に高め、同館のサービス水準の高さをうかがわせるとともに、基本方針である「統合学習環境」の理想実現への徹底が感じられる。


【国士舘大学附属図書館・植田英範 第一司書課課長に聞く】
学内外でナレッジ共有 総合的な情報サービス充実

 これまでの図書館は、本や雑誌など図書館資料をじっくり閲覧し、問題解決やリポート等作成のために必要部分を書き写すなど、いわゆるブッキングが主でした。しかし、情報化の時代を迎えた今日では、図書館に対するニーズが知的生産性向上のための総合的な情報サービスの充実に変化しています。
 本館においても時代のニーズに合致した図書館のありかたを「統合学習環境」の実現という形で追求してきましたが、近年の情報化の流れは速く、「より広範な情報アクセスとユビキタスな利用環境の構築」へと加速しています。まさしく今求められているこのソリューションとして「Kiss」が生まれたのです。
 「Kiss」によって本館からアクセス可能なあらゆるデータが、実用上ストレスを感じさせない超高速検索が可能になりました。そして、「Kiss」の特長であるデータ管理の容易さによって、これまでの学内外の諸機関との学術交流をナレッジ共有に変化させ得る可能性が一段と高まりました。これによって国士舘大学は、サイバーライブラリーという学術情報インフラに支えられた本格的サイバーキャンパス実現への条件がようやく整った最初の大学と言えましょう。
 現在、二次情報すなわち本や記事のカタログ情報生産力では、わが国の大学図書館は欧米諸国に大きく水をあけられています。つまり、出版された雑誌の記事が、翌日には検索できる米国などと、数カ月後でなければ検索できないわが国とで国際競争を行っている。ここでの情報化の遅れは、著作権の保護と一次情報を円滑に流通させるという戦略でのみリベンジが可能ではないか? という“図書館の権威の抵抗”に遭いそうな、情報化の本質に迫る喫緊の課題でもあります。なお、マルチメディアを含む一次情報の流通は、身近で関心の高いものによって促進されるので、大学だけでなく高校・小中学校の児童・生徒の情報リテラシーの高揚にも一役買い、有害情報問題などのインターネットの負の面に対する対策や、さらに積極的には、教育の縦の連携に貢献します。「Kiss」のインパクトが大きい理由は、こうしたさまざまな背景があるからにほかなりません。
 このように「Kiss」は大学図書館だけでなく、あらゆる図書館にとってもパワフルで機能的なプラットフォームとなり得る十分なパフォーマンスを持っています。今後はこの“超便利な「Kiss」”によって本学学生・教職員の情報利用、活用を促進しつつ、社会の円滑な情報流通のためにより高度なプラットフォームを目指し、内外の関連機関、識者・専門家、利用者など幅広い「Kiss フォーラム」を呼びかけて成長させていきたいと考えています。

情報化の核としての図書館づくりを目指している国士舘大学


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