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記事2003年7月23日 1899号 (3面) 
新世紀拓く教育 (7) ―― 橘女子中学・高校(体験学習)
大地といのちの教育展開

 生徒たちが学ぶ意味と楽しさを実感し、自主的な学びを積み上げていく体験学習「創造」を二十七年間実践してきた橘女子中学校・高等学校(松村順子校長、神奈川県横浜市)は、平成十六年度に校名を橘学苑中学校・橘学苑高等学校と改称し、男女共学となる。教育内容も、中学校では主要三教科を充実させ、第二外国語の授業導入や海外研修を実施する。高等学校はコース制を取り入れ、普通科に国際コース、デザイン美術コース、普通コースの三コースを設置する。国際コースでは一年間のニュージーランド留学が実施される。男女共学の導入も、付属小学校の新設構想があるため、先行して中学・高校で共学化を図ることとなった。またこれまでの週五日制から六日制に変わり、土曜日に「創造」学習の三時間を充てる。こうした改革について松村校長は、「『創造』では、国際交流や農作、陶芸、織物、美術やデザインなど多彩なことに取り組んできましたが、『創造』から教科へ、教科から進路へとたどる道筋の中で、美術デザインや留学といった進路をとる生徒が増えるなど専門化されてきましたので、コースを設けてより積極的に生徒たちの進路をサポートしていこうということです」と言う。
 同校の「創造」学習には教科書がない。いのちの大切さ、かけがえのない自分、共に生きる力を培う体験学習である。入学したばかりの中学一年次は、一つのテーマのもとでクラス全員で活動する。これまで「麦」「綿」「豆」といったテーマで学苑農場で畑作を行ってきた。種をまき、育て、収穫し、収穫した作物は校舎内の調理室で生徒たちが調理し、学年全員で昼食として食べる。さらにテーマについて、各教科と連携した学習を行い、ダンスや絵や詩などで表現するという活動を行っている。

「創造」から教科へ教科から進路へ

 例えば、中学一年で「麦」をテーマに学習した生徒たちは、麦を刈り入れる六月が「麦秋」であることを知ったり、刈り入れた麦を手作業で脱穀したら大変だったこと、石うすを回して小麦粉にしたら量が少しになってしまったこと、色も市販のものより薄い茶色だったこと、自然農法で作ったから香りもよく味もよかったこと、パンにして食べたらみんなの目が輝いて「おいしいね」という声で部屋が埋まったこと、そういう感動とともに、農薬や環境、輸入小麦や食料自給率について知り、それらの問題に危機感を持つ。さらにこの体験をもとに、理科で野生の麦やイースト菌について勉強し、音楽では麦のストローで麦笛を作って吹いてみる、英語では「麦畑」を英語で歌い、国語では「麦の芽のうた」を群読したり、保健体育で麦の様子をダンスにして表現している。こうした教科と連動した学習によって、生徒たちは学ぶ楽しさを知り、知識と視野を広げ、学ぶ意味を少しずつ深めていく。
 中学二年になると、自分の学習したいテーマを決めて学ぶ“テーマ学習”に入る。例えば、グループでエアロビクスやお菓子作りをしたり、人形劇や手話を学習する一方、個人では絶滅動物について調べたり、陶芸・絵本・お弁当調査などをしている。
 中学三年生では、二年生のときのテーマをさらに深めたり、新たなテーマを学習するなかで、自分の世界を開発し表現していく。
 高校生になると長野自然研修センターで稲作を体験するほか、湯のみや竹ばしなど身の回りのものを自分でつくる。長野自然研修センターは、今年完成したばかりの施設である。中央アルプスと南アルプスに囲まれた長野県伊那にあり、「土と水と光の郷」として宿泊施設も備えている。広さは四万二千平方メートル、水田や畑のある農園の里、アニマルセラピーや乗馬が体験できる馬の里、ホタルの里、冒険の里、創造の里に分かれており、今後は同研修センターでさまざまな活動を行う。今年は高校二年生が同センターへ四月と七月に宿泊学習に出かけた。田植えや草取りなどの農作業をしたり、地域文化を学んだり、環境学習をしたりする。高校一年生は群馬県の赤城で電気もガスもない創造キャンプを行った。
 高校二年次後半から三年次の「創造」学習は各自の問題意識を深め卒業制作に入る。これまでの学習の中で、生徒たちはいのちを支える自然と出会い、さまざまな人々と出会ってきたが、それは同時にさまざまな価値との出会いであり、一人ひとりが自分なりの価値観を築き上げていく過程でもある。そうした学習や体験の中で、生徒たちそれぞれがこだわり続けてきたことや深めたいテーマについて、自分で計画を立て一年間をかけて学習し論文や作品に仕上げる。この卒業制作を行う中で、生徒たちのほとんどは進路が定まっていくという。例えば、「福祉」の授業を選択して、障害者の乗馬インストラクターになりたいとイギリスに留学した生徒や先進的な福祉が学びたいとスウェーデンに行った生徒、農業がやりたいと専門学校へ進学した生徒もいる。また、「創造」学習が大切にしてきた表現活動によって、デザイン美術分野の大学に進路を取る生徒も増えている。
 松村校長は「来年度から導入されるさまざまな事柄は、改革というよりこれまでの教育の継承と発展です」と言う。「『創造』学習で農作をやることによって子供たちは地球の共通の問題に気づきます。同時代を生きている世界の人々の暮らしと深くかかわっているわけですから、そういう問題をきちんと考えられる人材の育成がもっともっと望まれている。今だからこそ大地に足をつけ、世界につながる創造的な人間を育てていくことが必要だと考えています。小学校の新設がなれば、橘学苑として、幼稚園から高校まで一貫してこうした人間教育を行っていこうと考えています」。
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