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記事2003年7月23日 1899号 (8面) 
トップインタビュー 教育はこれでよいのか
東京大学名誉教授 石井 威望氏
教育の原点は感動
パラレルリアリティが相乗効果を 若いうちに古典を多く読むことが大切


 「現在、ブロードバンド、ユビキタス環境(あらゆるものにコンピュータチップを埋め込み、それぞれが互いに通信する未来型コンピュータ技術社会)が若い世代を中心に進んでいるが、最大の問題は、二十世紀の常識で分からなかったこのような予期せぬ環境に置かれたときに、人間がどのような影響を受けて変わるか、どのような心理状況になるかということだったと思います」
 石井威望名誉教授は、こう語り、このような心理状況を「未来心理」と呼んでいる。
 例えば、今三十歳前後の、大学で初めてコンピュータ・リテラシーを学び、インターネットを使うことを覚えた世代では、いまの中学生がインターネットを使える環境で自由にコンピュータを使いこなせることを想像できなかったはずだ。それぞれ置かれている環境の前提が違うのだ。「この想像できなかったことを理解することが、教育の原点として最も重要ではないでしょうか」と提言する。
 「二十一世紀のIT(情報技術)を考える場合に、二十世紀には予測できなかった状況にわれわれが置かれた時、その心理状況や感覚を抜きにした議論が従来多かった」
 石井名誉教授は、このような心理状況や感覚を直接経験することの重要性を指摘し、その一つの例として、日本が世界の最先端をリードしている第三世代携帯電話を挙げる。
 第三世代携帯電話は、テレビ電話や動画コンテンツ(情報の内容)配信ができるようになる携帯電話の高速通信サービス。これによって今まで難しかった動画の送受信や配信などのサービスができるようになった。一部の企業がすでに採り入れているが、将来は全面的にこれに移行すると言われている。
 石井名誉教授がこの日、披露してくれた携帯電話を使ったシミュレーションでは、四カ所の異なった場所が常時接続されていて、中継できるので、同時に四カ所の映像をそれぞれが見て会話することができるもの。石井名誉教授はこれを「パラレルリアリティ」と呼んでいる。大掛かりな機材を室内に持ち込んで、相手とテレビ中継するのではなく、それぞれが携帯電話を持ってさえいれば複数の場所を並行して見ることができ、同時にコミュニケーションができるのだ。
 この「パラレルリアリティ」の、さまざな相乗効果によって新しい「場」の雰囲気が生まれる。
 ライブで送られてくる映像や会話を記憶させること(アーカイブ)もできる。しかも携帯電話でのコミュニケーションなので、高度な操作は必要ない。何よりも重要なことはライブの効果として予想もしなかった出来事も起こることだ。
 「今まで会議などでは、あらかじめ想定されたシナリオで進められていたが、ライブで起こるハプニングの重要性が認識されていなかったのです。パラレルリアリティの世界では、ライブでしか味わえない感動が生まれてきます。教育の原点は結局感動だと思います。ライブの映像以外ならウェブで十分見ることができるのです」
 この感動が引き金となって、しっかり自学自習を重ねていくには、石井名誉教授は歴史が好きで、若いうちに古典を多く読むことを推奨する。
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