こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2003年6月23日号二ュース >> VIEW

記事2003年6月23日 1893号 (3面) 
大学の「知」ビジネス化 (6)
東京農業大学の総合研究所
産学公で生ごみ処理
肥料は農地へ、野菜は学校給食に
  東京農業大学は世田谷、厚木、オホーツクの三キャンパスに六学部があり、学部ごとに研究所を持っているが、これらの異なる領域の研究所を縦糸でつなぐ組織として総合研究所(牧恒雄所長)がある。もとは農学部所属の研究所だったが、平成十三年に全学的な組織に改編されて、大学全体の研究窓口として各学部間の調整を図り、異領域の研究所やセンターを結ぶプロジェクトチームの編成や産学の連携研究を立案・推進する機関となった。

 産学連携のための組織として、この総合研究所の中に総研研究会(会長=金田幸三・ニチレイ相談役)が設けられ、現在民間企業約百二十社が法人会員(年会費三万円)として加入し、大学教員と研究交流を行っている。この総研研究会には次の二十部会があり、会員は希望する部会に所属して教員スタッフと情報交換を行える。
 (1)総合食品・栄養(2)水環境技術(3)砂漠緑化(4)ビオトープ(5)環境緑化(6)建築物緑化技術(7)芝草(8)園芸福祉(9)都市農学(10)農村計画(11)森林文化(12)生命科学(13)農薬(14)生物的防除(15)昆虫バイテク(16)ロボット農業(17)自然エネルギー(18)有機物リサイクル(19)バイオビジネス(20)榎本・横井研究
 総合研究所は年四回程度のフォーラムを開催して研究成果を公表しており、一般には有料だが、総研研究会の会員や学生は無料で参加できる。改組前からの通算で二十一年も続き、今年三月には百五回目のフォーラムを「農学を基盤とする“食と健康”科学の課題」というテーマで行った。
 産学連携ですでに効果をあげている事業としては、平成十四年四月、世田谷キャンパス内にリサイクル研究センターが開設され、廃棄物の再資源化のために(1)生ごみの迅速肥料化システム開発(2)生ごみのメタン発酵(はっこう)効率化(3)樹木ごみを舗装材に利用しながら土に還すシステム開発という三つのプロジェクト事業を成功させた。
 生ごみの処理には堆(たい)肥(ひ)にする方法もあるが、処理に広い用地と長時間がかかり、処理過程で悪臭が出る問題点があった。農大では生ごみを短時間に乾燥させ、少量の尿素を添加する方法を応用生物科学部の後藤逸男教授が開発して二〜三時間での処理を可能にした。毎日、世田谷区の学校給食センターの調理ゴミ四百キロcと農大キャンパスの食堂残(ざん)滓(し)百キロcが搬入され、その日のうちに五十キロcの肥料に加工、できた肥料は「みどりくん」と命名され、世田谷区内の百六十ヘクタールの農地への利用に提供し、その農地でできた野菜は学校給食に還元されるシステムの構築をめざしている。このためには常時、一定量のゴミを確保しなければならないため、学校が休みの時には、スーパーの調理ゴミを処理する契約も結んである。肥料は農地の土壌や作物に合った使用法が大切だが、その点については農大の懇切な指導つきという点も利用者からありがたがられている。「みどりくん」は農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」の会員五十人による試用試験が東京、埼玉、新潟、茨城、静岡などの都県で行われ、窒(ちっ)素(そ)がゆっくり分解して環境負荷を軽減し、野菜の品質を向上させる優れた効果があることが確認された。

剪定樹木は道路舗装
断熱効果と癒し効果も


 生ごみの有効利用のもう一つの方法として、メタン発酵のシステムがあるが、農大では応用生物科学部の鈴木昌治教授と民間企業などとのプロジェクト研究チームによって、処理期間が短くガス発生量が多く、余剰汚泥や残滓の発生量が少ないという「好気性可溶化式メタン発酵システム」を開発した。この方法によれば三八度で発酵し、生ゴミ一キロc当たり五十gのメタンガスを回収できる。処理施設の構造が簡素化され、維持管理も容易であるという利点もある。
 野菜などの生ごみと違って樹木の剪定(せんてい)ごみはリグニンを含んで腐りにくいための扱いにくさがあり、以前は燃やして処理していたが、大気汚染を伴う焼却はできなくなり、これも資源化が求められるようになった。公園や街路樹の枝は「伐(き)るな」という意見もあるが、電線に触れたりすれば危険なので、世田谷区では三年に一回は剪定することにしている。この樹木ごみの処理方法として、地域環境科学部の牧恒雄教授プロジェクトチームは小動力型二次粉砕機を開発し、まず分解しやすいように二度粉砕する。枝と葉は分解速度が違うのでフルイにかけて分別する。葉は堆肥にしてそのまま花壇などで用いる。枝は繊維状にほぐしてウレタン樹脂で固め、表面に紫外線を当てるとウレタンが硬くなり、これで舗装した道路は歩きやすいので舗装材に用いる。ただし水分のある土に接触する下の部分は徐々に腐っていき、三年で土に還る。その次の剪定が三年後に行われる時に樹木ごみが腐ってちょうど土に還ってくれるので都合がいい。農大キャンパスや世田谷区内の一部の公園では街路樹をこうした方法で処理している。
 総研プロジェクトの三つの研究はプロジェクト研究費のほかに私学事業団の学術研究振興資金、共同研究した企業の寄付金などにも支えられ、産学公の連携によって地域の環境保全に役立っている。上記三事業のほかに、四月には間伐材を使って屋上を舗装した痴(ち)呆(ほう)老人グループホームの開所式が行われた。木材による断熱効果とともに癒(いや)しの効果も図ろうというねらいで、総研がビオトープや環境緑化の教授陣と共同で開発した研究の成果である。
 総研のスタッフは牧所長のほかに事務職員が二人。研究成果を事業に結びつける時は、関係教授陣を集めたプロジェクトチームをコーディネートする。TLO研究会には農芸化学菌株保存室の岡田早苗教授をチーフに特許取得や起業化についてのTLO勉強会を開いている。また特許の専門家二人を客員研究員に招き、非常勤で講義を担当してもらいながら、個々の研究成果について特許がとれるかどうかの見通しも立ててもらう。
 そして企業から相談があると、学内にインターネットで知らせて、関連のありそうな研究者に引き合わせ、牧所長の立ち会いでお見合いを設定する。二〜三回会えば本音を出し合うようになり、シーズとニーズがマッチすればそれでよし。合わなければ別の先生を紹介する。こういう方法で食品廃棄物の燃料化研究などが進展している。

NPO含めネット形成へ
せたがやスタンダード・ネットワーク


 これらの実績の上に立って、世田谷区では平成十四年八月二十九日に産学公連携フォーラム検討会議を開き、産学公連携の仕組み「せたがやスタンダード・ネットワーク」を発足させる方向に動きだした。
 会議に参加したメンバーは、大学は国士舘、昭和女子、成城、多摩美術、東京農業、日本体育、日本女子体育、日本、武蔵工業の九大学、行政は世田谷区、産業団体は世田谷工業振興協会、世田谷商店街連合会、東京商工会議所、農業青壮年連絡協議会、ほかにNPOとして、せたがや町並み保存再生の会など三団体。
 このネットワークの特徴は、だれでもアイデアや提案を自由に発言・相談できて、寄せられたアイデアや提案には学識者や適任者のアドバイスが提供され、産学公連携の具体的内容を検討する場とするといった基本方針で一致する組織を目指している。

間伐材で舗装した老人グループホームの屋上

記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞