こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2003年6月23日号二ュース >> VIEW

記事2003年6月23日 1893号 (3面) 
新世紀拓く教育 (5) ―― 芝中学校・高校(中高一貫)
すべてのものと共に生きる
大使、作家など多彩な人材輩出
  芝中学校・高等学校(助川幸彦校長、東京都港区)は、のびやかな校風の男子校である。明治二十年創立で仏教主義(浄土宗)の完全中高一貫校であるが、カリキュラムの中に特に宗教的なものはない。ただ、構内に岳蓮社というお堂があり、毎朝、宗門関係の教員がお経を上げている。学校全体として仏教というものが自然に入ってくれればよいと考えている。校訓は「遵法自治(真理に従って自分を治める)」。また、浄土教の理念である「自利利他(自分を生かし他人を生かす)」をモットーとしている。生徒は一〇〇%進学する。昨年の進学実績を見ると有名国立大学一辺倒というわけではなく、非常にバラエティーに富んでいる。医歯学部への進学者が多いのも特徴である。
 同校には卒業生がよく訪ねてくる。同窓会もよく開かれており、OB同士の付き合いも深い。企業内や大学病院内にも芝学園OBが集まる芝の会がある。法曹界の芝法曹会からは、年一回、四、五人の弁護士さんが来校して、生徒たちに司法試験の受験や勉強方法について話をしてくれる。OBで著名な画家の人たちは、自分の作品の中でも最良のものを情操教育の一助にと寄贈してくれた。これらは後輩の面倒をみようという気持ちが強い芝学園OBの特徴だという。
 後輩の面倒を見るということは学校生活の中でも見られる。例えば、クラブでは上級生が下級生のメニューを考える。学園祭や運動会は、高校二年生を中心に生徒たちで形成される実行委員五、六十人が運営する。彼らが企画から練習、当日の進行まで全部やる。教職員は裏方に回る。
 生徒たちに、様々な分野で活躍するOBと接する機会を与えたいと、毎年一月の大宗祖日には法然上人の法要と同時にその年度に亡くなった芝学園関係者の供養をしているが、その後の講演を同窓生に依頼している。これまで、作家の北方謙三さん、鑑定家の中島誠之助さん、日大芸術学部教授でテノール歌手の丹羽勝海さん、写真家の篠山紀信さんらが講演した。今年は昨年まで国連大使を務めていた佐藤行雄さんだった。
 多彩な人材をはぐくんだ芝学園のカリキュラムの特色は、体験や実習を多く取り入れていることである。例えば理科では化石掘りや水晶採り、真鶴に磯の生物を観察に行く。学校そばの芝公園は元来の植生がよく生きているため、生徒たちの格好の観察場所になっている。地学では、生徒に白地図を渡し、地形図を描かせている。技術や美術の時間には陶器や包丁、指輪や下駄も作らせたことがある。これらは、生徒の能力開発というだけでなく、達成感を持たせることができるため、非常に大事なことと同校では考えている。クラブも、なるべく加入するよう勧めている。一生懸命やれば、自然と持続力や集中力、体力がつき、バランスのとれた人間を育成するのに効果的と考えているからだ。
 一方で、精神的なフォローをするため、二十年前からカウンセラーを置き、生徒や保護者の様々な相談に応じてきた。現在、カウンセラーは常駐で相談室は八時から四時まで、いつでもドアを開けている。
 さらに週二回はスーパーバイザーに来てもらっている。相談件数は年間延べ千二百件。保護者の相談も多いそうだ。
 十数年前に比べると、最近は進学実績が上がる傾向にあるが、二年前、珍しい例があった。一つのクラスから一橋大学に五人が入学したのである。その五人は自分たちが同じ志望大学だと知って、全員が絶対に離脱しないで合格しようと約束し、よい情報はお互いに交換しあい、支えあって、そろって合格を果たしたのだという。
 このところ、生徒が活発化している。このため、芝中学校・高等学校ではシラバスの全面見直しを始めた。
 既に、数年前から中学一年の国語にディベートを取り入れた。年齢的に少し早いかと思われたが、実際にやってみるときちんと議論を戦わせている。それどころか、ディベート効果で物おじしなくなったという。中学英語の副読本も新しくした。この副読本は単語数が三千あるため、生徒には文法のノート、ドリルノート、単語帳の三つを持たせているほか、英語の時間は必ずミニテストをやっている。国語と英語は既に手を着けたが、他の全教科でも新しいシラバスづくりに取り組んでいる。
 しかし、詰め込み授業をやるつもりはない。
 また留学を含めて、生徒に外の世界を見てもらう方策も考えていく。いろいろな価値観を身につけてほしいし、切っかけを与えて、子供たちの中に眠っているものを開花させてやりたいからだ。同校主催の語学研修が切っかけで、友達のいなかった子が、帰ってきたら友達がたくさんできたという例もある。
 ほかの人があまりやらない言葉をやりたいとアルゼンチンに留学した生徒、物を作るのが大好きだから大工になりたいと、ものつくり大学に行った生徒もいる。
 学校説明会で助川校長はいつもこう保護者に言う。「家庭で子供にお手伝いをさせてください。それによって子供たちは家族と結びつき、そこに居場所ができるからです。勉強するのは当たり前、ほかのこともきちんとやること、それが最終的にはきちんと生きていくことであり、社会に貢献することへの第一歩だからです」

都心にあっても豊かな緑に囲まれた芝中高校


同校は新時代に対応した教育施設を誇る

記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞