こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2003年6月13日号二ュース >> VIEW

記事2003年6月13日 1892号 (4面) 
法科大学院の取り組みを聞く (4)
独立自尊、実学の精神貫く
慶應義塾大学 法科専門大学院(仮称)開設準備室長・法学部教授 平良木 登規男氏

平良木 登規男氏

  慶應義塾大学は創立者、福沢諭吉の「独立自尊」「実学」の精神を受け継ぎ、社会の発展に寄与することを目的とする法科大学院を創設する。同大学の法科大学院は新司法試験受験のために必要な教育にとどまらず、国際性、学際性、先端性を核として、二十一世紀の法曹界に求められる幅広い人材の育成を目指している。そのためにカリキュラムは基本的な法律知識の修得ばかりでなく、それを先端分野に応用できる柔軟な考察力を鍛え、また将来学生一人ひとりの専門分野を開発する機会を与えることを目的とし、組まれている。ここにも「実学」の精神が反映されており、同大学の法科大学院は、この教育方針に共鳴する学生の入学を歓迎している。法科大学院の授業は三田キャンパスに建設中の「新大学院棟(仮称)」で行われるが、初年度は同キャンパスの東館で行われる。同大学の法科大学院についての取り組みを、法科専門大学院開設準備室長の平良木登規男・法学部教授に伺った。


国際性、学際性など柱に
ロー・アンド・ビジネスを


 ――慶応義塾大学が目指す法科大学院の基本的な考え方を教えてください。
 平良木開設準備室長
 本学は一八五八年に「独立自尊」の精神にのっとり、 「実学」を学ぶ学塾として、福沢諭吉によって創設され、これまでに多くの法曹を輩出してきました。ここで「実学」とは、独立した一個人が身につけた科学的、合理的に考えながら必要な知識を社会に役立て活用するという意味です。この伝統と実績を継承し、本学の法科大学院では@国際的なビジネスに対応できること(国際性)A例えば、理工学部との連携による知的財産法分野、医学部との共同による医事法分野など学際性に対応できること(学際性)Bさまざまな先端的分野に対応できること(先端性)――この三本を柱に、ロー・アンド・ビジネスを全面的に考えていこうと思っています。
 ――法学部の改革はどのように進んでいますか。
 平良木開設準備室長
 多くの大学は、法科大学院へ教員を配置する必要上、大学学部の定員を減らす傾向にありますが、本学では大学学部の定員を減らさない方向で考えています。
 そして、@法学部と法科大学院との連携をどうするかA)法科大学院は法曹養成に特化させるが、法学部の場合は学部に対する社会的ニーズを見極める必要があります。リベラルアーツの方向を目指すというのも一つの考えですが、そこまで徹底するのは難しいかもしれません。また、後継者の養成という観点から従前の大学院研究科と、法科大学院とのあり方を検討しなければなりません。法学部の改革は学部にとどまらず、全学部的な問題として、現在検討しています。
 ――法学部での語学教育についてはどのようにお考えですか。
 平良木開設準備室長
 法科大学院の方針の一つに「国際性」を挙げていますが、語学教育は一層重視しなければなりません。後ほど述べますが、法科大学院で行われるワークショップのうち一つはすべて英語で行われます。したがって、語学はそれまでにできあがっていることが望ましいのであり、一貫教育校を含めて語学教育を考えていかなければならないと思います。

実務との架橋図る教育
ワークショップ・プログラム中心で


 ――法科大学院でのカリキュラムは。
 平良木開設準備室長
 法曹実務をはじめ、広く企業活動や行政活動をも視野に入れ、各方面で活躍できる多様な人材を養成することを目的としたカリキュラムを考えています。「実務との架橋」を図る教育を行い、問題解決型の法曹の養成を目指します。二学期制とし、特に法律基礎科目は補講・補習の時間を多く設けるつもりです。
 このうち、「法律基礎科目」は必須科目五十八単位で、公法系科目十単位、民事系科目三十六単位、刑事系十二単位です。「実務基礎科目群」は必修十単位で、内訳は法曹倫理(二)、民事実務の基礎(二)、模擬裁判・民事(一)、刑事実務の基礎(二)、模擬裁判・刑事(一)、要件事実論(二)となっています。選択科目は、ワークショップ・プログラムを中心に、展開・先端科目群および基礎法学・隣接科目群(四単位以上)を合わせて三十単位以上を履修する必要があります。
 ――カリキュラムについて、特徴的なことはどこに出ていますか。
 平良木開設準備室長
 選択科目について、ベーシック・プログラムとワークショップ・プログラムを中心にカリキュラムを編成しているのが特徴です。このプログラムは、@企業法務A渉外法務B金融法務C知的財産法務の四つに分類し、それぞれ連動した科目を選択させ、これによって社会における法のあり方を総合的に理解させ、現実志向の学識が得られるように工夫します。このプログラムはいまのところ、学生のニーズに合わせて流動的に考えています。クラスは二十〜三十人を考えています。二〇〇四年度は八クラスですが、二〇〇五年度はその倍にしていこうと思っています。

適性試験のほか学部成績、外国語能力
標準型は小論文で、短縮型は六科目で選抜

 ――法科大学院の入学選抜試験はどのようなものになりますか。
 平良木開設準備室長
 標準型三年制コースと短縮型二年制コースの双方について、次のような書類に基づく審査を予定しています。
 LAST(法科大学院適性試験)の成績、学部成績証明書、外国語能力証明書(TOEICやTOEFLなどのような公的試験のスコア証明書など)、志願者報告書(志願動機、自己評価、学業以外の活動実績など)、第三者評価書(志願者の能力、適性、経験、実績などを、志願者を知る第三者が客観的に記載)、そのほか参考事項(専門的な資格や学術上の著作等がある場合、それを証する資料)。
 これに加えて、標準型三年制コースは小論文、短縮型二年制コースは法律科目の試験を実施します。法律科目は基本的には憲法・民法・刑法・商法・刑事訴訟法・民事訴訟法の六科目について論文試験を課し、民法および刑法については短答式試験を課します。
 いままでに法科大学院説明会を五回ほど実施しましたが、法律未修者、社会人、他学部出身者などが予想以上に参加し、五百人入ることができる教室に入りきれないほどになり、希望者が多いのに驚きました。中には、医者や企業法務を担当している方などもいらっしゃいました。社会人に関しては、基本的には三年コースで試験を受けていただくことになると思いますが、能力と意欲があれば、二年コースでもかまいません。
 ――定員および社会人・法学部以外の学生・他大学出身者の割合はどうなりますか。
 平良木開設準備室長
 定員は二百六十人です。法律未修者が八十人、法律既修者が百八十人です。三年後には定員を含めて見直しをする予定です。
 ――専任教員・実務教員の割合は。
 平良木開設準備室長
 専任教員は五十人強程度で、そのうち実務家教員は三割強です。研究者は十七〜十八人です。本学での授業は実務家と研究者がペアになって行う科目もあります。補充的にゲストスピーカーに手伝ってもらいます。実務家教員については、本学出身者約千人で構成されている三田法曹会の協力を全面的に得ることができました。
 ――授業料はどのくらいになりますか。
 平良木開設準備室長
 二百万円程度で検討中です。単位を取る量によって授業料を変える「単位従量制」を現在検討しています。また奨学ローン制度の利用も考えています。
記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞