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記事2003年5月3日 1888号 (5面) 
国家的プロジェクト 法科大学院制度
法科大学院設立に向けた 国立大学とのイコールフッティング実現の要望書 私大団体連
司法制度改革の一環
人間性豊かな 能力、技量備えた法律家養成
【法科大学院に対する国の強力な支援の必要性】

(1)「法科大学院」制度の創設は、国家的プロジェクトである。


 平成十六年度に創設される法科大学院制度は、わが国の司法制度改革の一環として、社会が求める優れた能力と技量を備えた人間性豊かな法律家を養成し、今日の司法制度を支えるだけの法曹人口を拡充・確保していくことを企図する国家的プロジェクトである。
 この法科大学院制度は、法曹養成のあり方として、法曹志望者個人がそれぞれの努力で司法試験という難関試験に挑戦するという形から、すべての法曹志望者に、(1)法科大学院という整備された教育機関で、(2)新しい時代を担うに相応しい法曹育成プログラムを、(3)時間をかけて確実に履践させるという形へ、いわば「点=難関試験」から「線=教育プロセス」への制度的な大転換をめざすものである。
 法科大学院制度は、このように、法曹養成システムの改革をめざすとともに、司法制度を支える法曹人口の大幅な増加を企図するものであり、「二〇一〇年ころには新司法試験の合格者数の年間三千人達成を目指すべきである」とされている(平成十三年六月十二日、司法制度改革審議会意見書)。

(2)「法科大学院」の設置には、強力な人的・物的資源の投入が必要である。

 法科大学院の設置を準備しているいずれの大学にとっても、このようなプロセス重視の、すなわち、理論と実務を架橋する対話型教育システムを構築することは、そのかなりの部分が新たな経験である。たとえば、教員の構成、授業の規模、授業の方法、授業補助者の機能、教室・情報ライブラリ・自習室等に求められる規模ないし機能等そのいずれをとっても、これまでの講義、実験、実習という授業形態とは大幅に異なり、また、他の専門職育成の方法とも異なる、新しいさまざまな仕掛けを講ずることが必要となる。
 この国家的プロジェクトである法科大学院制度の成否は、それを担う各大学がこのような周到な準備が求められる新たな教育システムの構築のために、いかに思い切って人的・物的資源を投入できるかにかかっている。しかし、このような法科大学院の設置・運営のための経費負担を、受益者負担の論理だけで、これをそのまま授業料等の学費として法科大学院の学生側に転嫁することは、教育の機会均等の観点からみても、また、国公私立大学のイコール・フッティングの観点からみても好ましくないというべきである(多くの大学は、現段階では授業料年額およそ二百万円〜二百五十万円を想定)。

(3)公正な競争環境形成のため、国立大学に相当する支援が必要である。

 法科大学院制度の創設は、さきに述べたように、プロフェッションとしての法曹の質と量を大幅に拡充する国家的プロジェクトである。したがって、このプロジェクトを設計し推進していこうとする国は、それを実際に担うことになる法科大学院に対して、設置経費および経常費の負担については、これを支援する新たな財政的な枠組みを設定し、その設置主体が国公私立大学のいずれであれ同様に、強力にサポートしていく責務があるといえる。
 司法制度改革審議会においても、法科大学院の制度設計にあたり、「大学院レベルの少人数教育であることから、法科大学院の人的・物的諸条件を基準に合わせて整備するためには、その設立・運営に多額の費用を要することが予測される。司法の人的基盤の整備の一翼を担うという法科大学院の役割にかんがみれば、厳しい財政的事情の中においても、国公私立を問わず、適切な評価の結果を踏まえつつ、公的資金による財政的支援が不可欠である」という明確な認識が示されている(平成十二年十一月二十日、同審議会中間報告)。
 もっとも、国立大学の場合は、独立行政法人となってもなお運営費交付金等各種の国による財政的な支援を受けることができ、それによって、法科大学院学生側からみてある程度許容できる額の学費設定を行いうる。それに対して、私立大学の場合は、授業料の額を国立大学と実質的に競争できる程度に抑制するとすれば、経営努力でそれを吸収しなければならないことになるが、それは、経営上の合理的な負担の限度を超えるものである。
 法科大学院制度では、それぞれの法科大学院が、認証機関による第三者評価を受けて信頼性の高い情報を開示し、競争環境のなかでその質の維持と向上を図ることが企図されている。
 とすれば、その前提条件として、公正な競争環境を形成することは、この国家的プロジェクトである法科大学院制度創設の成否を決するものである。
 したがって、法科大学院を設置する私立大学に対しては、この公正な競争環境を形成するために、国立大学と同等の学費設定を行いうる程度までの国の強力な支援が必要である。


【法科大学院設置に係る国に対する要望事項】

経費の1/2補助 借入金充当措置も
教員、学生経費も理工系に準じ補助


 法科大学院の創設というこの新たな国家的プロジェクトの立ち上げに際して、既設の法学部を有する多くの私立大学にとって、今日の社会が求める優れた質を保持する法科大学院を設置することは、社会的使命であり、かつ法学の高等教育機関としての存立をかけた死活の問題である(平成十四年度司法試験第二次試験合格者の出身大学別構成比は、私立大学五二%、国立大学四七%、公立大学一%)。
 上記の理由から、次に掲げる事項について、国に対して、早急にその措置を講じられるよう強く要望する。

(1)設置経費に係る事項

(1)法科大学院の設置経費について、その二分の一程度の国庫補助を図ること。
(2)法科大学院の設置経費について、少なくとも校地、校舎の取得に関しては、その二分の一程度につき借入金による充当を認める措置を講ずること。

(2)経常費補助に係る事項

(1)法科大学院に係る経常費補助のうち、一般補助の「教育研究経常費」の積算において、その必要経費の実態に即して、教員経費および学生経費の単価を理工系ないし実験系に準ずる金額として、その増額を図ること。
(2)法科大学院に係る経常費補助のうち特別補助である「大学院拠点整備経費」の積算において、その必要経費の実態に即して、教員経費および学生経費の単価を実験系に準ずる金額として、その増額を図ること。
(3)法科大学院に係る経常費補助のうちの特別補助として、現行の「専門職大学院支援経費」とは別に、新規に「法科大学院支援経費」の費目を設けて、格別の支援策を講ずること。
 あるいは、「専門大学院等支援経費」(平成十五年度からは「専門職大学院等支援経費」)の積算において、法科大学院については、とくに、その調整項目にその整備・充実に有用な固有の項目のいくつかを追加し、かつその調整率(現行〇〜五〇%)を、当分の間、〇〜二〇〇%として、大幅な増額を図ること。

(3)大学院学生に対する支援に係る事項

(1)授業料等納付金に係る補助制度――私立大学の法科大学院の学生を対象として、授業料等の納付金につき、一定額(たとえば、国立大学の納付金平均額との差額を基礎として計算した一定額)の減免措置に対して機関補助を行う制度の創設を図ること。
(2)貸与奨学金制度――法科大学院の学生を対象として、特別の予約型の貸与奨学金制度の創設を図ること。たとえば、月額二十万円(三年間で七百二十万円程度)を無利息で貸与し、三年間据え置いて十年〜二十年間で返済する。あるいは、同等程度の民間ローン制度の新設および債務保証につき国が支援を図ること。
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