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記事2003年5月23日 1889号 (5面) 
新世紀拓く教育 (2) ―― 清明学園幼・初・中等部
小中一貫で個別指導
発達段階別に3つの教育期

「初等教育」の改善はあらゆる改善に優る
濱野氏が澤柳博士の信条貫く


 清明学園を昭和五年に創立したのは、当時二十九歳の青年教師、濱野重郎だった。子どもの自発活動を尊重する新教育運動の中心、澤柳政太郎博士から招かれて成城小学校に奉職し、「初等教育の改善はあらゆる改善にまさる」という博士の言葉に心酔し、それを信条としてその後の教育者生涯を貫いた。成城では若くして評議員に選ばれたが、組織の拡大とともに教師も多くなると、リストラの言い渡し役を務めなければならないことがたびたび起こった。「お互い、ここに骨を埋めよう」と誓い合った友にその宣告をしなければならない立場に立った時、「君は首の座に載っているから自ら辞めたまえ。僕も辞める」と言い、澤柳博士の命日にお墓まいりをしたのち辞表を出した。
 その友と二人で「貸家でもいいから、澤柳博士の精神を汲んだ学校をつくろう」と話していると、担任学級の父母など校内外から多くの協力者が現われた。資金づくりに借金を申し込んだら「教育事業で借金を返すのは困難だ」と貸さないで寄付してくれた友人、「いま病院を立てたばかりで金がないが、学校を建てられるように応援しよう」と即座に材木問屋を呼んで材木を運ばせ、自分は保証人になった医師。大減収にもかかわらず勤務先を辞職して合流した教師。「人生、意気に感ず」をそのまま実行したような人々の集まりが清明学園を生んだ。「子供とともに生き、子供を生かし、子供を通して生きる」という創立者の精神を心魂に刻んで教育に当たるよう、職員朝会は創立者の言葉を全教員で唱えて始まる。
 昭和五年に小学校(初等部)、同八年に幼稚園、同二十六年に中学校(中等部)を開設した。
 義務教育の小中学校は心身の発達状況などを考えると教科指導や生活指導に一貫性を持たせる必要があり、昭和三十二年に初中等部九年間一貫した連携教育を開始、学年の呼び名も第一〜九学年と通し番号にした。昭和三十五年から第五、六学年の算数・国語・理科・社会四教科については教科担任制を始めた。昭和四十一年に幼稚園と初等部の連携を考えようと幼少年部をつくるとともに、初等部六年生を中等部へ組み込んだ。
 昭和五十五年、初等部低学年に総合学習を取り入れた。公立校に生活科が導入される十二年前に先取りしていた。
 平成八年から心身発達状況に共通性のある段階の学年をまとめて次のように三つの教育期という区切り方をし、それに合った教育を進めている。
 第一教育期=幼稚園から初等部第二学年まで。
 乳歯の生えかわりを成長の一つの節目と考えている。初等部低学年は幼稚園の延長であると考え、自然と触れ合うこと、社会性を育てることに主眼を置く。幼稚園の子と小学校のギャップが小さくなるように、知識を注入することはせず、夢を持ったまま伸ばす。
 総合学習は五本柱から成る。学校周辺を散歩してさまざまな発見をする「散歩の時間」、先生に本を読み聞かせてもらい感性や好奇心が育つ中で本の世界に親しむ「文学の時間」、身近な材料を使って工作を楽しむ「手作り遊びの時間」、心あたたまる映画をみる「映画の時間」、友達と自由に遊ぶ「遊びの時間」である。最近は兄弟が少なくて遊び方を知らない子もいるので、休憩時間以外に「遊びの時間」の授業の中でも、先生が手伝って跳び箱で遊ぶことや、平均台でドンジャンケンして遊ぶことも勉強の一つである。
 四年前からは木工あそび、表現あそび、実験あそびを自由選択できる「そうごう」の時間も週一回設けた。低学年教育は音楽・美術・体育の専科教師も担当している。
 教科学習では始期をいつにするかをよく研究し、算数は二学期から始めている。
 国語は入門期に自作教科書でひらがな学習「あいうえおのうた」を通して準備したのち教科書に入る。朝は詩を朗読して暗記する。大脳の発達に応じての言語獲得が大切だが、体験したことを言葉でつないでいくために、日記をつけるよう指導する。書いた日記は皆の前で読んだり励ましたりする。
 第二教育期=第三〜七学年。
 このうち三〜五年生を前期、六〜七年生を後期としてかかわる。自分らしさがハッキリ見えてくるので、個性重視教育の比重が大きくなってくる。望ましい生活習慣やがまんする力などの社会性、意思力を育て、拡散思考を経験させていく。三〜四年生に中間反抗期が一回あり、第二の反抗期は六〜七年生ごろに訪れるが、これは自己主張期ととらえ、成長のリズムとして大切にしている。三、四年生には「劇の時間」が特設され、劇作りをしたり、学校農園で作物を育てる労作を実践し、子どもたちも楽しみにしている。
 教科学習は基礎学力の充実・定着に重点を置く。一人ひとりの個別指導で表現力向上をめざす。算数は三年生からは基本練習だけでなく、力試しの応用問題にも取り組ませ、習熟度別に三人の先生が個別指導する時間も設けている。小中学校にまたがる第六、七学年の教科には、日本史や算数のようにだぶる内容やとぎれたりする内容もあるので系統化して効率化を図っている。六年生の三学期ごろには自然に第七学年(中一)の数学に入っていく。英数国理社は六〜九年生を指導する先生が五年生まで指導してきた先生と連絡をとりながら教科指導に当たる。
 英語教育では、朝授業の前に英語を二年生では毎日五分、三年生からは授業時間内の初めに組み込み十分、四、五年生では二十分行っている(残り時間は国語や算数に使う)。例えば「タッチユアヘッド」というとパッと頭に手を乗せる英語のゲームを通じて、英語に親しみを感じながら慣れるように仕向ける。
 教育期を縦断して設定される項目もある。異年齢の友達関係が大切なので、木曜日の「縦割りの時間」に一〜五年生が十五カ所の掃除を一緒に担当する。生徒の下校方向はまちまちなので同じ方向でグループを組んで一緒に帰るようにさせたことも効果を生んでいる。
 読書については幼稚園から低学年までは毎日読み聞かせをしている。二〜五年生は十分間読書の時間を設け、昨年から中等部も朝の十分間読書を取り入れて読書力の向上を図っている。
 第三教育期=第八、九学年。
 この期間は思春期でもあり、高校受験準備期でもある。全員の志望校合格をめざして個別指導と授業で勝負する。放課後、生徒は五教科のうち自分で学びたいと思う先生のところへ質問を持っていく。逆に先生から呼ばれる場合もある。一対一で午後三時半から六時まで個別指導が行われる。


 発達時期待ち教科指導 学年超えた成長記録
 全員希望校合格目指す

 読文力は早生まれの子は当然弱い。ポツンポツンと雨垂れ式読み方をする子が一年生全体の三割くらいいるが、その七割は早生まれである。数の概念把握もまだ弱い。その違いを研究して、一年生は幼稚園の延長と考え教科指導の入門期を工夫している。このようにして大脳発達段階の時期を待つと、どの子も飛躍的に力を伸ばしていく。公立小学校で一年生から国語の音読カードなど作っているところもあるが、清明学園では無理に読ませない。
 家族とのかかわりを大切にして学年・学級通信の中でも「子どもの発達段階に配慮してください」と呼びかけ、子育てに関して共に考える場を設けている。第一、三、六、八学年の初めに新クラス編成が行われるが、成長の様子を担任が記録につけて送り、幼稚園から中学まで通してバトンタッチする。六〜七年生を通して持つ担任は小学校と中学校で教える力が必要であるため、小中二枚の免許保持者も六人いる。
 清明学園からは私立進学高への受験希望が多いが、学園では「全員希望校合格」を目指している。最近三年間の卒業生(男子百二十一人、女子九十六人)の高校入試合格状況一覧表はその教育の成果を示している。私立の男・女・共学校と公立校別に合格者数の多い上位十校は次の通り(校名のあとの数字は合格者数)。
 [私立男子校] 慶應義塾17、立教新座13、法政大学第二11、早稲田高等学院10、市川9、成城7、明治大学付属明治7、正則学園5、聖学院4、明治大学付属中野4
 [私立女子校] 法政大学女子10、富士見丘8、豊島岡女子学園8、浦和明の星女子6、慶應義塾女子6、洗足学園第一6、目白学園6、共立女子4、和洋国府台女子4、日本女子大附属4
 [私立共学校] 東海大学付属浦安36、桐蔭学園20、玉川学園高等部18、中央大学杉並17、青山学院高等部14、國學院13、日本大学桜丘11、立正11、明治学院10、駒場学園8
 [都立校] 日比谷4、大崎3、その他八校は各1



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