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記事2003年4月23日 1887号 (3面) 
大学の「知」ビジネス化 (2)
日本医科大学知的財産・ベンチャー育成センター
大学の研究成果を保護しながら社会への還元を推進
  日本医大TLOセンターと通称で呼ばれる組織は、日本医大と日本獣医畜産大学との二大学を持つ「学校法人日本医科大学」の中に設置され、正式には「学校法人日本医科大学知的財産・ベンチャー育成(TLO)センター」と呼ばれる。
 従来型の産学連携では、大学研究者と一般企業が共同研究その他の形でタイアップして進めることが多く、その際の研究成果の特許出願は企業主導で行われてきた。この場合、特許出願人は企業であり、大学研究者は発明者の一人に過ぎず何の権利もないという問題点があった。
 政府は科学技術や文化などの研究成果を産業発展などにつなげていく目的で「知的財産戦略大綱」を発表した。これを受けて、文部科学省は教育・研究に次いで「研究成果の社会還元」を大学の使命として掲げ、経済産業省とともに、大学の研究成果を知的財産として保護しながら社会への還元を進めるTLO組織を設立することを奨励している。
 それを呼び水として、両大学の内部研究者からも「研究成果を知的財産化する機関を学内に設けたらどうか」という声が起こってきたのが設立のきっかけだった。法人側も研究の全体状況を把握するために、研究者個人に発明の権利化を任せるよりは、TLOによる一般企業との仲介が望ましいと判断して、理事会でTLOセンター設置を決定。平成十三年十二月一日に設立され、十四年四月から本格的に整備、十五年二月十九日に文部科学、経済産業両省合同の認証を受けた。
 この時いっしょに承認された鹿児島大学を母体とする株式会社鹿児島TLO、電気通信大学を母体とする株式会社キャンパスクリエイトなどと合わせて承認TLOはこれで三十一機関となった。
 日本医大TLOセンターの場合、大学研究者の研究成果については、学校法人が権利の譲渡を受け、権利の承継者として権利化し、実用化まで結びつける。共同研究の場合は初めから民間企業と組んでいるため、共同出願することが多いが、ここでも大学研究者の権利の持ち分は大学が継承する。
 知的財産権の使用料(ロイヤリティー)の発明者への還元は各大学によってまちまちだが、日本医大TLOセンターでは(1)ロイヤリティー二百万円以下の場合には発明者(先生)にフィードバックするのは七〇%(2)二百〜一千万円では五〇%(3)一千万円超の場合には四〇%としている。
 日本医大TLOセンターによる特許出願は平成十四年度には二件だったが、これからは獣医畜産大の研究も含めて年間十五件くらいにはなろうと見ている。
 知的財産関連組織としては、学校法人内に知的財産審議委員会とTLOセンターがある。知的財産審議委員会は特許を法人が承継することの是非、特許出願の可否などを審議するもので、日本医大、獣医畜産大の代表や外部の学識経験者を含め常務理事以下七人で構成されている。
 TLOセンターの下には教授陣で構成する運営委員会と事務室がある。運営委員会は教員への啓蒙(けいもう)や技術移転のやり方・方針などを審議するが、実務作業は事務室が担当する。TLOセンター事務室は現在、室長とアソシエートと呼ばれる専任室員一人および数人の兼務者により運営されている。

知的財産の権利化で問題 事前に論文発表すると特許認められず

 TLOセンターのホームページには、自分の発明を「特許出願しようかどうか」と思う研究者が、直接発明概要を記載してメールで送ることができるシステムがある。TLOセンターではこのメールを受け、アソシエートがヒアリングに出かけ、発明評価資料を作成し、知的財産審議委員会で検討している。
 TLOセンターでは今後知的財産の保護と活用のために大学がどう関与し、特許化していくかを学内研究者に認識してもらう啓発活動を行うと同時に、研究者の研究シーズを調査することにしている。知的財産の実用化に関しては、一般企業と研究者の従来の付き合いを活用して開拓していくことを、研究者に期待している。
 知的財産の権利化に関してはいくつか悩みがある。一つは論文発表。特許出願前に学会や論文で発表していると「新規性がない」として特許が認められない。
 しかし、大学の先生にとって研究発表は学者生命に関わる重大事である。特許のために研究しているわけではないのに「論文を出す前に特許に出願してほしい」とか「特許のために発表を遅らせてください」とは強制できない。研究者としてもジレンマだ。
 悩みその二は、知的財産や法律に関する知識のある人間がいないこと。両大学から多くの発明が出てきても、それを活用できる環境が整ってきていない。研究者に知的財産の啓蒙活動を行っていく上でも人材を育てて少しずつでも前進しようと努力している。
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