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記事2003年4月13日 1886号 (4面) 
大学の「知」ビジネス化 (1)
日本大学国際産業技術・ビジネス育成センター
日本のTLOの草分け
14学部と18大学院研究科 特許総数438件 知的財産情報開示177件 
  日本大学国際産業技術・ビジネス育成センター(NUBIC)は大学等技術移転促進法に基づき、大学での技術に関する研究成果を民間事業者への移転を推進する機関(TLO)として、平成十年十二月に現在の文部科学省・経済産業省から承認された。東京大学など他の三機関とともに技術移転事業者承認第一号として日本のTLOの草分けに位置づけられている。

 日本大学には十四学部と十八の大学院研究科があり、三千人の研究者を擁している。博士号取得者は約九千人で私立大学の中では圧倒的多数を誇る。卒業生数は八十八万六千人、そのうち社長が二万九千人いるのも日本で最多数である。研究者および研究成果を事業に結びつける企業側の人材にも不自由しないのは、TLOを推進するうえで恵まれた環境といえる。
 平成十五年三月七日までの特許出願件数は国内三百七十九件、国際五十九件の合計四百三十八件、そのうち企業との共同出願で未開示のものを除いた百七十七件が知的財産情報として開示されている。NUBICは、ベンチャー企業の育成をめざす立場から、産業界との連携を促進するためのNUBICベンチャークラブを設けて会員を募っており、現在二百八十四人を数える会員には情報を優先的に開示している。企業などの事業体は五万円の会費を払って特別会員に、個人は一万円の会費で一般会員になれる。特許出願手続をとった知的情報の開示に当たっては、まず特別会員に開示され、その二週間後に一般会員、その二週間後に一般の人に開示される。いずれも情報提供は無料。
 知的財産として開示される各情報は表題・技術分野・適応製品・目的・技術概要が要約して記載されており、それを読んだ人が「さらに詳しく知りたい」と望む場合には秘密保持契約を結んだうえで詳報を提供する。その技術情報を製品に応用できるかどうかについては、細部にわたる相談が必要なことも多いため、コーディネーターが発明者(大学の研究者)と企業との間を仲立ちする。法的な手続きを含め発明特許をうまく作動させるための管理運営役であるコーディネーターは、NUBICに現在七人配置されており、このエキスパートの活躍が技術移転の成否のカギを握っている。コーディネーターと発明者との協議から共同研究契約などへ発展することも少なくない。製品化に向けて合意すれば技術移転契約の締結へと進む。この段階でNUBICは一時金を受領する。その金額は企業がその情報にどれだけの価値を認め、どれだけ収益を見込むかという内容判断によっても異なる。いままでに技術移転契約したものは、小さい実験動物から研究用の母乳を搾乳する装置、歯科のX線撮影で歯が重なったりしてうまく写せない場合でも正確な位置がつかめる三次元画像診断装置、軟らかい物の固さを超音波の振動で測定する触覚センサー装置、入れ歯の削りかすの飛散を防ぐ集(しゅう)塵(じん)ケースなど三十二件で特許の技術移転件数は四十七件であり、特許出願件数四百三十八件に対する技術移転件数の割合は一〇・七%である。ベンチャービジネスの世界では、技術移転契約にいたる比率が七〜一〇%程度なら国際レベルといわれており、一〇%を超えているNUBICの数字は日本大学TLOの確かな歩みを示している。

NUBICが仲立ち発明を事業化
売れればランニングロイヤリティが支払われる


 NUBICが仲立ちを務めた発明が事業化されて製品が売れれば一定比率のランニング・ロイヤリティが企業側から支払われる。その比率は売り上げの三〜七%の間であり平均四%を大学側が受け取り、その中から半分を発明者の研究資金に還元する仕組みとなっている。
 日本大学では、平成十年九月NUBIC開設に呼応し、国際的に活躍できるビジネスマンの養成をめざすビジネススクール「大学院グローバル・ビジネス研究科」(NBS)を開講した。TLOとビジネススクールが別々ではパワーを発揮できないとの総合的な教学戦略を具体化したものであり、ベンチャー企業を立ち上げる起業家を育てるのが目的である。
 この研究科でテクノロジー・マネジメント・コースの学生を指導する菅沢喜男教授は自らも昨年、米国で起業やビジネス支援サービスを行う会社をつくった。菅沢教授は「日本の中堅・中小企業は海外の研究者が注目する優れた技術特許を数多く保有している。しかし、こうした優れた技術をビジネスに生かすノウハウや海外展開のためのネットワークが不足している。日本企業が開発した製品・技術の海外市場への売り込みをサポートし、ベンチャー企業の成長に必要な環境を提供したい」と話している。
 日本の技術移転の先頭を切って新天地を開拓していく日本大学の海外を見据えた取り組みは、今後のモデルケースになることが期待されている。
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