こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2003年4月13日号二ュース >> VIEW

記事2003年4月13日 1886号 (8面) 
鎌倉女子大学、創立60周年迎え更に躍進
高邁な教育理想を大船キャンパスへ

理事長・学長
松本紀子氏


副理事長・副学長
福井一光氏

  「感謝と奉仕に生きる」人づくりを教育理念に掲げ、社会のさまざまな分野で活躍する女性を輩出してきた鎌倉女子大学(松本紀子理事長・学長)が今月、創立六十周年を迎える。時を同じくして、鎌倉・大船の地に待望の新キャンパスが完成した。古都・鎌倉が持つ静謐な文化的環境と湘南の明るい現代性とを併せ持った、緑あふれる大船キャンパスの誕生で、鎌倉女子大学は更なる教育研究の充実に努めていく。更に平成十五年度には岩瀬キャンパスにおいて幼・小・中・高の教育施設の充実も予定されており、鎌倉女子大学はいま新たな飛躍の時を迎えている。

大切な人・時・みどり 自然と共生、緑を生活空間に

 大船キャンパスは、松竹株式会社から譲り受けた旧大船撮影所・シネマワールド跡地(五万八一八〇・四八平方メートル)に開設された。従来の岩瀬キャンパス(鎌倉市岩瀬)から大学(家政学部・児童学部)、短期大学部(初等教育科)が全面的に移転した。
 鎌倉女子大学では昨年四月、わが国初の児童学部(児童学科、子ども心理学科)を開設し、今年四月からはこれまで家政学科一学科体制であった家政学部を家政学科と管理栄養学科に改組・拡充した。いずれも鎌倉女子大学の伝統とこれまで培ってきた知的基盤の上に、新しい時代のニーズに対応して、教育内容の充実を図ろうとしたものだ。「新しい葡萄酒には、新しい革袋を」(新約聖書)の言葉通り、こうした新しい教育研究を展開するためにふさわしい場として大船キャンパスが開設されたのである。
 新キャンパスの開設に当たっては、鎌倉女子大学の建学の精神、教育理念を新しい形で具現化するものでなければならない、との哲学が一貫して貫かれた。キャンパス構想の基本的コンセプトとして打ち出されたのが「人・時・みどりを大切に」。これは教える者も教えられる者も互いに持つべき教育の姿勢として、学父・松本尚氏(第二代理事長)が口にされ、鎌倉女子大学の教育理念ともなっている「人・物・時を大切に」を範にしたものだ。このコンセプトを文字通り体現したのが大船キャンパスである。これからの時代を担うしなやかな知性が集うにふさわしい空間、新しい時代にふさわしい施設・設備・機能を備えた学び舎、自然と共生し、緑を学生たちの生活空間に取り込んだ環境大船キャンパスはこれらが理想的な形で実現している。新しい施設建設が単にそれのみにとどまっている学校法人が少なくない中で、これは希有なことである。
 キャンパスはJR「大船」駅から徒歩約七、八分。駅前は商店が連なる大船の中心地区である。ここを通り抜けてしばらくすると、大船キャンパスに通じるメインアプローチと図書館、その背後に横たわる東山という小高い山が目に入る。

東山で環境教育展開 人に優しいバリアフリー設計

 大船キャンパスを語るうえで最も重要な存在がこの東山である。大船キャンパスのキーワードである「緑」はこの東山そのものと言っても過言ではない。東山という名称は昭和初期、この地で田園都市構想が展開されたころに使われていた。ここには山桜、ナラ、エノキの大木やクマザサなどの多彩な植物が密生しており、自然を満喫することができる。山の中腹辺りまでは散策路が伸びており、眼下に鎌倉の市街を一望できる。山すそにはビオトープが設けられ、鎌倉女子大学の教員と大船キャンパスの設計・建設に当たった清水建設株式会社とのコラボレーションで環境教育に活用するための準備が進んでいる。今後、大学・短期大学部のみならず、中・高等部の理科の生態観察や総合学習への活用も期待されるところである。都市部にキャンパスを持ちながら、これだけの豊かな自然を残している大学は、ほかにはまず見当たらないと言ってよいのではないか。東山は自然との共生を標榜する大船キャンパスにとってまさに象徴的な存在であると言え、教室棟などの建物はすべてこの山を取り囲むように配置されている。教室棟と東山との間は「東山庭園」と名づけられた芝生の広場となっており、開放感あふれるスペースとなっている。
 大船キャンパスで東山と並ぶ印象的な存在がメインアプローチである。大学のメインゲート(正門)から約百五十メートル先にある図書館を正面に見て歩く石畳の道の両わきには菩提樹の並木が続き、その背後にはクマザサが生い茂っている。さながら鶴岡八幡宮前の段葛を彷彿とさせるこの通りは、並木にちなみ「菩提樹の道」と名づけられた。アカデミックな雰囲気が漂い、歩きながら思索にふけるにふさわしいこの並木道がキャンパスへと人を優しく誘う。大船キャンパスを第一に印象づける存在となっている。
 大船キャンパス内の建物は、奇をてらった人目を引くものではないが、鎌倉らしい落ち着いた雰囲気と女子大学としての優しさを表現しており、鎌倉女子大学にふさわしい建物となった。時が経つにつれて独特の趣を醸し出してくることだろう。また、学生の生活を中心にゾーニングと動線計画が行われ、学生、教員、父母、社会人などがさまざまな形で学習、研究、交流できる場所が設けられているのが特徴である。建物は教室棟、実習棟、音楽棟、アリーナ棟、食堂棟、そして図書館棟から構成されているが、すべてバリアフリーに配慮した、人に優しい設計となっている。
 教室棟一階は学生のホームベースとなるコミュニティーモール、マルチメディアラウンジ。ここにはパソコンも設置されており、学生が多様なコミュニケーションを図ることができる空間となっている。ホームベースという発想は、現代の日本の学生の多くが学内に落ち着く場所を持たず、教室から教室へと渡り歩いているという落ち着きのなさを松本理事長・学長が指摘されたことによるもので、学生への配慮がうかがえる。教室棟の中心はアトリウム(吹き抜け)となっており、トップライトからの自然光によって、明るくすがすがしい気分を味わうことができる。アトリウムを囲む両側の廊下の壁や手すり、床には木が使われており、温かい雰囲気を醸し出している。
 二階から四階までは講義室、ゼミ室、情報処理演習室がある。
 特に情報処理演習室は二室あり、教員と受講者双方向のモニタリングシステムを備え、六十人までのグループ学習を可能にするLL機能も内蔵している。

各学科の機能に合わせ 利用しやすい実習棟

 実習棟の各階は各学科の機能に合わせた環境になっており、ここも学生が利用しやすいように配慮された。一階は美術工作室、住居デザイン、被服・衣料の実習室などで、中央に学生の作品を展示するギャラリーが設けられ、主として家政学科が使用する。二階には保健系多目的実習室、保育演習室などがあり、児童学科、子ども心理学科、初等教育科が使用。三、四階には管理栄養学科が使用する実習食堂や各種実験・実習室が並んでいる。
 実習棟の東側には「グリーンスクエア」と名付けられた、縦五十メートル×横四十メートルの中庭を囲むように、音楽棟、アリーナ棟、食堂棟が配置されている。

3階建て図書館に 生涯学習センターも 視聴覚ホール

 「鎌倉芸術館」側のアプローチに面する図書館は外装、内装ともに多治見産のレンガタイルで装飾された三階建て。一階には二百一人を収容できる視聴覚ホールが設けられている。その横には展示ホールがあり、往年の「大船調」と呼ばれた松竹の名画や名優の写真パネルの展示なども予定されている。このほか、一階には生涯学習センターや学術研究所も設けられ、今後、大学と地域の市民との接点として、また、大学の情報発信の中核としての役割を果たすことになるだろう。図書館の内部は吹き抜けの天井から柔らかな光が降り注ぎ、明るく落ち着いた雰囲気を醸し出している。
 二、三階には閲覧室や検索コーナーがある。蔵書は開架式書庫に約九万六千冊、閉架書庫に約六万二千冊の規模を誇る。閲覧室は眺望がよく、特に三階からは右手に東山、左手に教室棟、さらに東山庭園、ビオトープを隔てた先にはカフェテリアと、キャンパス全体を俯瞰できるロケーションのよさは学内一といえるだろう。
 こうして大船キャンパスを仔細に観察してみると、まさに「人・時・みどりを大切に」のコンセプトを体現しており、隅々にまで学生への配慮が行き届いていることがよく分かる。今後、長く学生や教職員、そして市民たちに愛されることによって、なお一層鎌倉女子大学らしい趣を加えていくことだろう。

教育研究に目覚ましい改革 家政、児童両学部にメジャー制

 既述したように、大船キャンパスの開設に先行して、鎌倉女子大学では教育研究面で目覚ましい改革を実現させ、いま新たな飛躍の時を迎えている。昨年四月には児童学部を新設。それまでは家政学部の中の児童学科という位置づけで、設置以来、「すべての児童は健やかに生まれ、育まれなければならない」という、いつの時代にも不変の児童学の課題に取り組んできた。新たに児童学科と子ども心理学科とからなる児童学部が開設されたのは、今日、社会的間題ともなっている児童の問題症候・行動という新たな課題にも対応するためであり、まさに時代のニーズに応えたものだ。この後、全国の大学で児童や子どもを専門的に研究しようとする学部学科の開設が見られるが、「児童学部」として名乗りを上げた大学は鎌倉女子大学が初である。また、子ども心理学科もわが国で初めて創設された、十八歳以下の子どもを主題とした学科となっており、他の大学とは一線を画している。今後、児童に関する総合的な研究のメッカとして大いに発展が期待されるところだ。
 また、今年四月からは家政学部が家政学科と管理栄養学科の二学科に改組・拡充され、教育研究の一層の充実が図られることとなった。創立以来六十年の伝統を持つ家政学部が、ここに来て改組されることになった背景には、ファミリー・アイデンティティーの喪失などわれわれを取り巻く生活世界が大きく変貌したこと、栄養士法の改正によって管理栄養士に期待される役割が大きくなったことがある。家政学部もこうした時代のニーズを受けて、二十一世紀にふさわしい家政学部として生まれ変わったわけである。両学部の改革が木に竹を接いだ改革ではないことがよく分かる。
 教育システムにも改革は反映されている。両学部に共通して採り入られているメジャー制である。これは学生一人ひとりが明確な目的意識を持って効率的に学習できるよう導くための学習システムである。例えば家政学科には生活環境デザイン、生活経営情報、教育福祉サポートの三つのメジャーが設けられているが、このうち生活環境デザインのメジャーでは、ファッション、食と文化、住居デザインの三つのキーワードを柱に科目が構成されている。学生は生活者としての観点からこれらの分野を統合的に理解したうえで、学際的な分析・調査・研究を行うことが可能となり、ここで得た知見は卒業後、企業での商品開発などに生かされることになるだろう。
 鎌倉女子大学の教育の理念は「人・物・時を大切に」し、「感謝と奉仕に生きる人づくり」を行うというものである。これからも鎌倉女子大学は、この変わることのない教育のテーマを追い続けながら、しかし、その時代が求めるものを採り入れて、しなやかに変わっていくに違いない。

自然との共生を掲げ、完成した鎌倉女子大学大船キャンパス


図書館の背後には緑豊かな東山が広がる


中央にアトリウムが設けられた教室棟


観客席200席が設けられた多目的ホール

記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞