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全私学新聞

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記事2003年2月3日 1879号 (5面) 
情報教育の現状と課題 座談会
加速するIT化の中での情報教育
  本年度四月から新学習指導要領が実施され、平成の教育改革が大きく動き出した。平成十五年度からは高等学校で新教科「情報」が開始される。社会全体のIT化が加速するなかで学校現場の情報教育に対する取り組みも待ったなしの情勢だ。このような情勢を踏まえて全私学新聞では、株式会社オデッセイコミュニケーションズの協力を得て、昨年十一月に全国の大学、短期大学、高等学校、中学校を対象として「コンピュータ教育に関するアンケート」を実施したが、今回、高等学校の現場を預かる先生方とオデッセイコミュニケーションズ代表取締役社長の出張勝也氏にお願いして「情報教育の現状と課題」をテーマに座談会を開いた。


新しい教科「情報」の準備状況
生徒の意欲は高い

出張 弊社では、昨年の十一月より、コンピュータとインターネットの基礎知識に関する認定試験「IC3」(※)を開始し、「IT教育」推進のためのお手伝いをしていきたいと考えています。そこでまず、この四月から始まる教科「情報」についての準備の状況についてお聞かせいただけますか。

杉山 「情報」の教科書のサンプルがいろいろ出てきています。実際の授業はこれらの教科書に沿って進められていくわけですが、これまでは一般の教科の中で、どう効率的に授業を展開できるかという方法の一つとしてコンピュータを考えていました。今度はその考え方とはまったく違う方向でコンピュータのリテラシーやネチケットなどの話がでてきますので、「情報」に関する考えをまとめなければいけないと思っています。それをもとに授業をどう展開していくか。

 当校では高校三年生の選択科目として情報の授業を先取りして進めてきました。現在、高校三年生では選択科目として実施していますが、生徒の半数近くが選択していて生徒の意欲はかなり高いです。必修になるときには「情報C」を予定していますが、テキストの中身はかなり広範でとらえにくい部分もあるように感じます。

コンピュータ活用授業を模索
基礎原理は必要

出張 学校全体の取り組みとしてはどうでしょうか。

杉山 コンピュータを使うということに関しては学内でもいろいろな使い方を試みていますので、大分興味をもって、自分も使ってみようという先生も増えています。コンピュータを使うことに消極的ではない。ただ、具体的な利用方法をイメージするのが難しいようで、使い方の事例が積み重なってそのなかに自分が使いたいものとマッチするものがあれば、先に進んでいくような状況です。

出張 いわば、現状はコンピュータを使った授業を模索しながら試みている段階にあって、そこには情報教育に対する考え方はまだ確立されていないようですね。

 一般的に情報教育はパソコンのソフトの使い方ととらえられることが多いようです。ワープロが自由に使える、エクセルで表を自由に作れるといったことです。これを情報教育ととらえている人も多いようですが、実際には、情報の教科書でも、ソフトの習熟を最大の目標にはしていません。

出張 現状は、「情報教育とは何か」ということのとらえ方の違いもあるかとは思いますが、私はそのこと以前に、「コンピュータとは何か」というようなコンピュータのとらえ方に対するコンセンサスがとれていないのではないかと感じています。
 例えば、コンピュータの歴史的な経過についてだとか、パソコンはどうして動くのか、CPUとは何か、ソフトウエアとはどのようなものなのか、そしてさらには技術革新によってどうしてこのような変化が起こってくるのかなどというような、コンピュータについての基礎原理は教える必要があると考えているんです。もちろん、中学生や高校生に教えられるものと大学生に教えるものとの違いはあるでしょうし、ソフトの習熟というようなオペレーション的なことを中心にとらえてしまう傾向もよく分かりますが、教科書にもあるように、そのことは教育の主目的とはしていないわけですからね。

便利に使うことが先走る
犯罪に巻き込まれる可能性も

 必要はあると思いますが、例えば、数学や理科や社会などを小・中・高校では基礎的なものとして、全員にかなり細かく教えますが、それが大人になって自分のやりたいことを選んだときの基礎になります。
 大学で専門的にコンピュータをやりたいと思ったとき、大学に入ってから基礎を教わるのでは遅い。そういう意味でコンピュータの基礎的な部分を教える意味は他の科目と同じではないかと思います。
 ただ、情報機器が道具としてどのようなメリットがあるかというようなことを教える必要はあまりないと思います。
 例えば、携帯電話の使い方は今の子どもたちには教えなくてもできる。使うなといっても使っていますからね。コンピュータにしても、それがなければ生活ができない状況になれば、教えなくても使えるようにはなる。
 しかし、携帯電話もそうですが、コンピュータの場合も社会と簡単につながる機能を持っているだけに、便利に使うことだけが先走ってしまうことで、犯罪に巻き込まれたりする可能性があります。また、自分が使いたいことだけは習熟しますが、基本的なことで身についていない部分もできてしまいます。大人から見るとパソコンを使いこなしているように見えても、レポートの書き方は教わっていないからできない。個条書きで報告書も書けない。
 例えば、パワーポイントの使い方はすぐに覚えてしまいますが、調べた内容を一枚のスライドの中に個条書きで要点を書き入れなさいといってもできないというようなことが現実に起こっています。

出張 情報を集めてきて、それを整理して、分類して、発信するというのはコンピュータの技能とは違う能力ですからね。

 情報の授業の中で求められていることとして、他の科目では断片的に行っていることを集大成することも大切ではないかと思います。情報教育というのは非常に学際的な要素があると思います。

情報教育の定義づけを
位置づけも明確に

出張 私は、情報教育の定義づけがうまくできない大きな理由として、「何を全体としてとらえて、そのなかで何を教えていくべきなのか」といった定義づけが、過去のものをそのまま引きずって考えているからではないかと思っています。
 そこでの見直しがないままに新たに情報科目が入ってきたため、それをどう位置づけていくかとか、既存科目との関連のなかでどのようにとらえるべきなのかというような作業を行ってしまっている。コンピュータの出現をどうとらえるのか、それが社会にどれだけ多くの変化をもたらしつつあるのかという認識をより高めて、そのことを全体の科目のなかで考えていけば、情報科目や情報教育の位置づけがもっと明確になっていくのではないかと感じているんです。
 
 それはあります。今の情報の科目A、B、Cの内容が、小・中学校の情報教育とどのように関連づけられるのかよく分からない部分があります。

出張 つまり、小学校でいう「総合的な学習の時間」のなかにおける情報や、中学校の技術家庭科との関連ですね。また、次年度から高校で開始する情報A、B、C、さらには短大や大学で行っている情報教育の連携についても、もっと考えていく必要があるでしょうし、このことは今後の情報教育をとらえていくためのとても重要な課題だと思います。

出張 ところで、このような状況のなか、生徒と先生の関係のあり方も変わってくるように思いますが、情報教育についての先生の役割についてはどのようにお考えになっていらっしゃいますか。

杉山 確かに、生徒の方がよく知っているという要素もあります。ソフトの使い方一つをとってもそうだと思います。使い方はいろいろありますから、先生が教壇にたって教える内容が流れていくだけということはなくなると思います。
 
 教員の役割は大変難しいものがありますが、例えば、数学でいえばすでに確立された教える内容があります。情報教育に関しては、これだけ教えればいいという内容がとらえられていない。逆に、とらえられないというのが情報教育ではないかと思います。操作に関してはパソコンが進化するほど、どんどんやさしくなります。そうすると具体的にこれだけ教えればいいということはないので、作業する上で一番の基本となることを押さえておく必要があります。教える範囲をどうやって決めるのかというのは教科書には載っていないので、サブテキストなど補助教材が必要です。より上級の操作方法に関しては、生徒のだれかが便利な機能を知っていると、そこから他の生徒に広がっていきます。先生が教える必要はないほどです。たまたまリードする生徒がいないクラスは、他のクラスの様子を伝え操作方法を説明すると、対抗意識が出るのか、力のある生徒が軸となって広がっていきます。
 教員の役割として、一番基本のところを押さえておくことと、常に生徒の状況や技術に関する情報を集め、必要に応じて伝えていくことが重要だと思います。

難しい情報授業の評価
相互評価と筆記試験で

出張 評価の問題についてはいかがでしょうか。

杉山 情報の授業を受けた生徒をどのように評価するかは大変難しいと思います。自主選択講座で情報処理という授業がありますが、パワーポイントで自分のクラブ活動や自己紹介のスライドを作って、最後の授業で発表するということをやっていました。そこでは先生と受講生による相互評価を行っていました。

 最終的には数字にせざるを得ないので、一番大事なのはその生徒自身がその評価を妥当だと思うかどうかではないかと思います。そのためには、相互評価と筆記試験をやっています。情報というひとつの科目の中での対応なので、いくらキーボードを早く打てても、情報に関する基本的な用語さえきちんと覚えていないのでは困る。発表の相互評価で高得点をとれても、基礎的な知識がなければだめだということを本人が納得できるようにと思い、相互評価を含む実技と知識の両方で評価をしています。

出張 Aという学校とBという学校では評価の仕方が違う。何か統一した評価軸はなくてもよいのでしょうか。例えば、その方法として何かの資格ということは考えられますか。

杉山 実用英語技能検定(英検)とか、いろいろな検定制度はありますが。

 英検のように世間一般に知られたものであれば、それなりに評価を得られるものになると思います。

杉山 大学入学の際にも技能として記載できるようなものであればいいのですが。

 基本的な技能や知識であれば、ある一定の評価はできるのではないかと思います。英検にしても全部の中学生が受験しているわけではありませんから。ただ、多くの生徒が受験している英検の何級といえば、それなりの評価はあると思います。

杉山 英検は国内標準ですが、国際標準であるTOFELやTOEICなどは高校くらいから受けられます。

「IC3」は世界に通用する資格

出張 資格というのは取ることが目的ではなくて、自分がやってきたことを一つの物差しとして確認する意味での活用性はあると思います。コンピュータ教育でいえば、「IC3」はコンピュータの基礎、エチケットや著作権などの知識にかかわるもの、ワードやエクセルのオペレーションの三本柱からなっています。日本だけでなく世界から認められている資格ですし、今の高校の情報教育にもまんべんなく対応しています。

 学校の中の試験ではなく、学校の外から合格証がもらえるということも大きな喜びになりますね。

出張 しかも、他の国に行っても、認められる資格ですからね。

 中学生が外国をどれだけ意識するかは分かりませんが、高校生ぐらいになると留学を考えていたりしますから、外国で認められる資格はかなり励みになると思います。

出張 学校にかかわる事柄というのは、アメリカでも州ごとに、あるいは町単位で考え方が違っているのが普通で、実は全世界で共通するというものはあまりないのです。例えば、TOFELはアメリカの大学に留学したければ受けざるを得ませんが、世界で認められる資格試験というのは、TOFELも含めて非常に少ないです。いろいろな国の人が集まっているアメリカでも、ITのリテラシー教育や情報教育に悩んでいる人はたくさんいますから、「IC3」のような世界共通の認定試験が求められたのだと思います。

困っている学校同士で相談
情報交換できる環境に

出張 最後に、学校間の情報交流についてお聞かせください。勉強会や研修会というのはいろいろと行われているようですが、個々の学校単位での活動が多いように思います。私学同士というのもあまりないようにお見受けしますが、現在、学校間での情報交換についてどのように取り組まれているのでしょうか。

杉山 情報の交流という意味では、隣近所の学校でも、ネットワーク上でもいいですが、あまり対象を限定しないで、困っている学校があればお互いに何か相談できるような形態がよいと思います。その困っている内容が自分の学校特有なものなのか、共通するものなのかといったことがわかれば、解決策も見つけやすいと思います。

 国の方針である程度一緒に動き始めるので、ひとつの公立の学校の状況は他の公立に応用できるように思いますが、私立の場合は学校間で設備や教員の勤務状況、管理体制、生徒の質などに格差があります。ある学校でうまくいっているとしても、それをそのまま自分の学校には持ってこられない。参考になる学校があったとしてもカリキュラムが違っていたりする。参考になる学校があれば、心強いですが、探すのも難しい。

出張 やはり、新しいものをつくっていくためには、自分たちとは違うバックグラウンドにいる人や違う環境で仕事をしている人との意見交換が大きなきっかけになると思います。本日のような情報交換は一回で終わらせるのではなく、一年、二年と継続していくことで、結果として何かが生まれてくるでしょうし、そのことへの期待も込めて今後は定期的に意見交換できるような場をつくっていきたいですね。

 ※「IC3」とは、コンピュータとインターネットの基礎的な知識とスキルを、適正に測ることのできる世界共通の認定試験。二〇〇二年より米国、イギリスで開始され、ヨーロッパやアジアなど世界各国でも実施されている(二〇〇二年十一月現在)。
http://www.odyssey-com.co.jp/


出席者のプロフィール

堀 恵子氏
 文教大学付属中学・高等学校教諭。ソフトウエアハウスのSEから経営情報専門学校のコンピュータ教育担当教員を経て現在、文教大学付属中学・高等学校の情報教育とコンピュータ教室管理及び文教大学・女子短期大学部でのコンピュータリテラシー教育に従事。

杉山 茂巳氏
 立正中学・高等学校教諭。立正中学・高等学校英語科教諭。デジタル教育研究室室長。学校へのインターネット導入時から運用に携わる。研究室の主な活動として、授業でのコンピュータ利用の研究と推進、インターネットを利用した家庭との情報共有活動(スクールメディア・プロジェクト)の運営及び学内のコンピュータ利用の推進などを担当。

出張 勝也氏
 株式会社オデッセイコミュニケーションズ代表取締役社長。一九八四年、一橋大学法学部、八七年ハーバード・ビジネス・スクール卒業。九六年解オデッセイコミュニケーションズ設立。九七年よりマイクロソフトのオフィス製品のユーザー向け資格制度として広く認知されている「MOUS試験」を全国的に実施・運営する。また、二〇〇二年末からは、コンピュータとインターネットに関する世界的な認定試験「IC3」を新たに開始。

杉山先生


堀先生


出張社長


パソコンを使った講義(立正高校)

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