こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2003年2月13日号二ュース >> VIEW

記事2003年2月13日 1880号 (2面) 
インタビュー 文部科学省・新私学部長 加茂川 幸夫氏
国民の信頼が私学助成左右
信頼回復が最重要
経営の健全化、経営基盤の強化


  文部科学省の一月十日付人事異動で加茂川幸夫・大臣官房審議官(初等中等教育局担当)が高等教育局私学部長に就任した。そこで一月二十七日、新私学部長に当面する課題に対する考えなどを伺った。(編集部)


 ―今後、重点的に取り組みたい課題は。
 加茂川私学部長 国民の信頼を回復するため、前任の玉井私学部長(現大臣官房総括審議官)が取り組んでいた経営の健全化、経営基盤の強化等の課題を着実に形にしていきたい。今、公教育制度に対する国民の信頼が揺らいでいる。昨年も一部の私学で不祥事、違法行為等があって、国民の不信が増大していることは否定できない事実だと思う。国民の信頼を確保する政策を打ち出していく必要がある。具体的には経営の適正化、中長期的には経営基盤の強化を図るためのガバナンス機能の強化など、学校法人制度の見直しが避けて通れない部分については、積極果敢に取り組んでいきたい。
 そうしたことは私学だけの問題ではない。公立学校では硬直化している学校経営は教育委員会が原因と非難されている。しかしその点については見直しも進んでいるし、関係の法律も改正した。私学の場合、制度内での改善努力はしてきたが、学校法人制度の根幹にかかわるような見直しは余りしてこなかった。法律改正が必要なら逃げることなく取り組みたい。

 ―そうした文部科学省の取り組みとは別に、株式会社の教育参入という問題がでていますが。
 私学部長 現在、可能性について検討している。制度設計まで含めて具体的な結論が出るにはもう一カ月程度かかる(※インタビューの四日後、文部科学省は株式会社の教育参入容認の方針を表明)。ただ基本として押さえなくてはいけないのは、本来、学校経営というのは非営利でなくてはならないこと。仮に利益が上がった場合、教育研究条件の改善の形で学生や保護者に還元する、もしくは法人内部の教職員の処遇改善、財政基盤の強化等に用いるというのが学校法人制度。学校法人はもともと財産の寄付から始まるもので、もうけとは相容れない制度。本当は教育論、制度論からきちんと反論し、「株式会社参入論」の是非を国民の前に明らかにして議論を展開すべきだと思っている。しかし全体の流れからいうとそうではなくて、大学法人の不祥事が背景となり、株式会社の方がもっと社会的な責務をきちんと果たせるぞ、という乱暴な議論に巻き込まれている。正直なところ株式会社はすべてだめだという物言いはしづらい状況で、どういう可能性があるのかを検討しなくてはいけない。
 そのポイントは、百八十度方針転換して学校経営に営利性を認めるというのではない。学校法人を中心に非営利という基本は変えてはいけない。もし利潤が出れば教育研究条件、経営の健全化に充当されるべきもので、株主に配当されるようなものであってはならない。
 学校法人制度が株式会社、営利主体に取って変わられるということはありえない。今の学校法人に欠けている部分があるとすれば、あるいは株式会社等の手法で見習うべき部分があるならばそれは何か。その実験をするのが教育特区で、混乱や過当競争をもたらすのではなく、教育界全体の活性化に役立つ、しかも新規参入者が提供する教育サービスが国民にとってメリットがある、ということが大切だ。最先端の国際ビジネス界の人材養成など、限定的に株式会社のような経営主体が参入してきて刺激を与え合う、競い合う、結果として国民が利益を受けるという形態があるのなら、それはどういう要件、どういう事後チェックの下でできるのかということを検討している。

株式会社の教育参入
学校経営の基本は非営利 セーフティーネット必要


 ―株式会社の教育参入を懸念する私学関係者は少なくないのですが。
 私学部長 私立学校側に無用の混乱を招かないようきちんと整理したうえで検討することが必要。例えば私立学校ゆえに認められる経常費助成、税法上の優遇措置については、今度入ってくる株式会社は対象外となる。学校は非営利であるべきだという原則からいっても、また特別な助成措置は講じないという特区の大前提からいって助成等はありえないと考える。
 また設置主体の多様性について検討しよう、株式会社が設置主体として入ってくる可能性について検討しようということで、それが可能性ありの場合でも、学校設置の審査は当然必要。大学なら文部科学大臣、高校以下に及ぶかどうかも大きな課題だが、及ぶとすれば、都道府県知事の学校設置認可があるので、その設置審査基準についていうと私立学校と同程度のものを求めなくてはいけない。また万一の場合に、修学機会を確保するための何らかのセーフティーネット(安全装置)が必要。さらに事前チェックとして、自治体は株式会社が学校経営に参加することに責任を持ってもらわなくてはいけない。事後に関しても、もうからないからといって勝手に撤退してもらっては困る。セーフティーネットを張るための責任を参入者のみならず、自治体にも負ってもらうことが必要だ。国と地方とが責任を分担する中で無用な混乱を避け国民にとってプラスになる方法を検討したい。

 ―教育特区を考えたとき文部科学省は初等中等教育、高等教育という区別はしないのですか。
 私学部長 そこは大変難しい点で、これから議論を深めていく中で整理したい。義務教育は特別だという理屈が立てば、それは一つの制度設計だが、ポイントが国民のニーズに応えた教育サービスの多様化、充実ということであれば義務教育段階でも教育特区はあるかもしれない。私学や関係者のご意向も勘案し決めていく。
 
 ―私立学校の設置等を審議する私立学校審議会に関しては十四年度中に見直しの予定ですが。
 私学部長 今のままでは新規参入者を過剰に規制するような委員構成なので、必要な見直しは避けられない。教育界、私学全体が高度化、成長していくための見直しということを理解する必要がある。教育界の全体を見なくてはいけない。開いていくべきところは開き、評価してもらえる取り組みをしているという私学の姿勢をもっと示さなくてはいけない。

学校法人認可基準を弾力化
特区も制度全体の中で議論


 ―学校法人になるためのハードルは全体として今後、下がっていくのですか。NPO法人の学法化などもありますね。
 私学部長 特区以前に、事前チェックから事後チェックへの大きな流れがあり、学校法人の認可基準についても昨年の小中学校設置基準の制定以来、弾力化、規制緩和の方向で検討していくことが求められる。NPO自身は法人格を持っているものの、学校に求められる継続性・安定性の一番重要な要素である資産が認可の際の要件になっていない。このような法人まで学校法人と同じような責任ある設置主体として認めていくことは難しい。しかし教育成果を上げているところもあり、資産がないからだめだというのではなく、そうしたところはどうしたら救えるのか検討の余地はある。大きな流れとしては特区で議論するのではなく、学校制度全体の中で時間をかけて積み上げて議論する必要がある。そうでないとチクハグな制度になってしまう。今度の特区で成果が上がりそうだという時には、必ず全国化の議論が出てくる。そのときは中教審といった大所高所からご議論いただける場所で検討し、当然、法律事項になるだろうから時間をかけ、きちんとした制度設計が必要だ。

 ―平成十五年度の私学助成については厳しい財政事情の中で高校等に関しては一千億円の大台に到達、大学等も増額となりましたが、今後は。
 私学部長 平成十五年度の予算案に関しては、文部科学省全体の予算がへこむ中でできた意義は大変大きい。それは国民や国会議員の私立学校がんばれ、まだ信頼しているぞとの声、後押しがあったから。しかし国民の信頼をきちんと掌握していかないと十六年度以降は難しい。税制も同じ。国の補助負担金を見直そうという、例の三位一体の議論がある中で、信頼の確保に取り組むことが必要だ。

 ―これまで私学行政を担当されたことは。
 私学部長 二十年ほど前に当時の管理局企画調整課法規係長を務めた。全体として私学にとっては良き時代だったが、幼稚園の一〇二条園に関する法律改正(議員立法)やスタートしたばかりの専修学校制度の補助制度づくりなどに取り組んだことが印象に残っている。

 ―休みの日は。
 私学部長 今はガーデニングに凝っている。私が一番失敗するのは、水をやりすぎて枯らしてしまう、直射日光を嫌う植物に日を当ててしまうなど、手をかけすぎてしまうこと。これは仕事にも通じると思う。
記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞