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記事2003年2月13日 1880号 (5面) 
武庫川女子大のIT活用とeメールシステム
教育現場でITを活用
マルチメディア館学内ネットワークの基幹
教育研究と事務管理を連携

濱谷教授

  インターネットの教育的利用などIT(情報技術)が学校現場に大きな変化を与えている。長い伝統に立脚して質の高い女子教育を実践している武庫川女子大学(兵庫県西宮市)では「個性を伸ばし、可能性を育む」という教育を行っている。中でもITを活用した情報教育に積極的に取り組んでいる。本紙では武庫川女子大学情報教育研究センター長である濱谷英次教授に同大学の情報教育の現状とITの活用状況について話をうかがった。


【情報教育の拠点】

 平成十一年に本学は学院創立六十周年を迎えましたが、その記念事業の一環として学内の情報化の拠点づくりを計画しました。それが昨春オープンした「日下記念マルチメディア館」です。
 建物は地下一階、地上八階で、八階と七階には大学の生活情報学科が入り、研究室、実習室などが整備されています。六階と五階にも情報化に対応した実習室が並び、活用されています。
 また、四階、三階にはコンピュータ実習室が十三室ありますが、これらの実習室は利用人数に応じて隣り合う教室を合併して運用することが可能な設計になっています。
 二階には情報教育研究センターと事務システム開発室があります。
 一階には、情報教育研究センターの実習室、演習室、教材開発室、そして国際交流室、保健センターなどがあります。
 さらに一階と地下一階にまたがる約四百人収容のメディアホールは、ハイビジョン対応の二六〇インチ大型ディスプレイを備え、さまざまなプレゼンテーションに利用することができます。
 情報教育研究センターは、一階〜四階と八階にある十八のコンピュータ実習室に備えられた延べ千二百台のパソコンの運用管理を日々行っています。
 このように「日下記念マルチメディア館」は本学が全学的に進めてきた情報化への取り組みの集大成であり、今後、教育研究面と事務管理面とをより緊密に連携させる学内ネットワークの基幹となる施設といえるでしょう。

【情報教育への取り組み】

高度な情報教育を早期に導入
特に情報倫理を重視

 本学での情報教育は昭和五十年代末から始まっています。昭和六十三年に、情報教育を推進するための組織を学内につくりました。当初は教務部に情報処理教育担当部門を設置し、平成三年度に「情報教育センター」を立ち上げました。さらに平成六年には研究機能も併せ持つ組織として「情報教育研究センター」に改組し、より広範な活動を推し進めながら現在に至っています。
 このように本学では情報教育に早くから取り組み、女子大学の中では規模も含め高いレベルにあるものと自負しています。具体的な教育内容としては、文書処理、表計算、プレゼンテーション、eメール、インターネットなどパソコンに関するリテラシー教育のほか、特に情報倫理を重視した教育を絶えず心掛けているのが大きな特徴です。
 また、平成十三年度からは、新設途上の学科を除く大学・短大の一年生全員に情報基礎科目を必修にしていますが、この科目を教えるスタッフは外部に委託しています。全学科を合わせると一年生は三千人ほどになり、十数人の授業担当者が必要です。
 また、この取り組みの狙いは学生の情報リテラシーを一定レベル以上にそろえるということですから、専門家、いわゆるインストラクターにお願いするほうが教え方もうまく、指導内容のばらつきも減らせるということで、外部の人材を活用しています。毎年実施している学生による授業評価では、多くの項目で教員全体の平均点より高いという結果が出ています。この状況には、一教員としては複雑な思いもありますが、今では外部スタッフにお願いしてよかったと思っています。

【eメールの活用】

電子メールは早くから活用
セキュリティー確保重要

 本学では早くから情報教育を実施してきたこともあり、パソコン通信の時代から電子メールを活用してきました。当時のメールシステムは理工系の場合は別にして、一般の学生にはまだなじみの薄いものでした。ただ、阪神・淡路大震災の時には貴重な体験もしています。というのは当時、一時的な停電はありましたが、システムには被害がなかったので震災で大学に来られない学生にはパソコン通信で卒業研究のレポートの添削をしたり、学生の安否情報を受け取ることもできました。そうしたこともあって、電子メールはいろいろな意味で非常に有効だと当時から思っていました。また、本学にはアメリカに海外分校があり、そことも電子メールを介して結びたいという思いもありました。その後、インターネットでのeメール利用が次第に普及してきました。eメールを学校に導入する際の問題はセキュリティーの確保が大切だとの思いがありました。さらに、マルチメディアの情報へも対応しつつ、セキュリティーも確保しながら、ユーザーの利便性をどう改善するかということが課題になってきました。

【新入生全員にメールアカウント】

新入生全員にアカウント発行
学内外でアクセス

 そこで、いろいろなシステムを検討していたところ本学のシステム管理をお願いしている株式会社理経から薦められたものが、蝶理情報システム株式会社のウェブメールソリューション(別項)である「キャッチミー・アット・メール」だったわけです。
 現在、新入生には全員にアカウントを発行していますが、利用者の利便性という観点からは、学内、学外を問わずアクセスできるのは優れた特徴です。教育面ではレポートの提出などに利用しています。ウェブメールの掲示板機能については、パソコン通信のころから電子掲示板を利用していましたので、今後順次活用を具体化したいと考えています。近い将来、教務部とも連携して教育サービスをいかに改善するかという観点から利用を進めていくつもりです。
 一方、約一万人の学生がそれぞれアカウントを持つのですから、そのコストだけでも大きなものになりますが、このシステムではアカウント設定料金が一定以下に抑えられますので、コストパフォーマンスにも優れていると思います。導入するにあたって、機能面とコストとの折り合いを重視しました。
 使用実感としては、このシステムを初めから利用している学生と以前からのメールを知っている学生ユーザーがどう感じているかには若干違いがあると思いますが、学外からのアクセス環境が大きく改善されたことはユーザーにとってはありがたいことです。ただ、eメールそのものの仕組みについて学生はまだ十分に知りませんし、携帯電話でのメールのやりとりということが日常的になっているので、大学教育レベルでもきちんとしたメールのやりとりを教えることが大切です。また、大学が発行しているアカウントを使うわけですから、私的なものではなくパブリックなものであるとの認識も必要です。特に、就職活動の際にはこれは重要ですから、この点の指導も大切です。

【これからの課題】

学習教材の利用やフォローなど
教材開発と学習支援重要

 六十周年記念事業として、二十一世紀にふさわしい情報環境の整備を行いました。ひとつは情報教育のインフラを整備することであり、さらに事務や管理業務を含めた全学的な情報化を進めることでした。平成十四年四月からは、学生証、職員証がICカード化され、それらを活用して入退館管理や証明書発行などの各種システムが導入されています。ハード的なインフラについては「日下記念マルチメディア館」が完成し、当面の目標は達成できました。今後はキャンパスネットワークの基幹部分の高速化やマルチメディア対応などをさらに進めなければなりません。ただ、セキュリティー確保の問題は避けて通れないので、常に利便性と安全性との兼ね合いで進めていかざるを得ません。また、最新のハード環境を生かすコンテンツの開発が重要になります。そうした観点から電子教材の開発にも取り組んでいます。学内には、すでに教材を電子化し教育に活用している先生方も複数おられます。次年度には、特色ある授業をされている先生方に協力をお願いし、電子教材として具体化していこうと考えています。オンデマンドでの学習教材の利用や学生が休んだ授業も後からフォローできる環境作りなど、教材開発と学習支援が重要な課題になってくると思います。


ウェブメールソリューション
ブラウザー上で送受信するメールシステム


 ウェブメールソリューションとは、eメールをブラウザー上で送受信することを可能にするメールシステムを指す。このシステムを導入するとパソコンごとにメールソフトをインストールする必要がなく、またパソコンの機種も問わずにメールを送受信することができる。
 既存のメールサーバー環境のソフトウエアや機器を変更することなく簡単に導入が可能で、ブラウザーが備わっている環境であれば時と場所を選ばずメールを送受信することができ、ウェブ対応携帯電話(iモード、EZウェブ、Jスカイ)やPDAにも標準対応している点も大きな特徴。
 最新のディレクトリーサービスプロトコル(ディレクトリーサービスはコンピュータのアプリケーションプログラムを管理するための分散処理環境。プロトコルはデータ通信でのデータ送受信のための手順や規則)であるLDAPに対応しているので既存のユーザー情報をそのまま利用することができ、効率的かつ統合的な管理が可能となる。LDAP対応により、複数台のコンピュータを組み合わせて一つのコンピュータとして処理するクラスタリングを行うことが可能。一部に障害が発生しても全体がダウンすることがなく、大学のような多数のユーザーが利用する環境でも、システム負荷を分散し、高いパフォーマンスを得ることができる。また、学校など教育機関では入学や卒業、教職員の転属などが毎年必ず発生する環境なので、メールアカウントの追加や変更に柔軟に対応できる点が高く評価されている。システムの設定やアカウントの管理などの作業はすべてブラウザー上で可能で、学校関係者以外のアクセスを制限する機能も備わっていることも大きな要素だ。

マルチメディア館のコンピュータ実習室


情報教育研究センターでパソコンを利用する学生


260インチディスプレイが設置されたメディアホール

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