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記事2003年11月3日 1913号 (3面) 
新世紀拓く教育 (11) ―― 真颯館高校
7つの提案
生徒数激減で始まった学校改革
ビジョンとロマン求めて
  平成九年、九州工業高等学校、後の真颯館高等学校(野口政弘校長、北九州市小倉北区)は、生徒減とそれに伴う財務悪化に苦しんでいた。それが十五年の今、地域の人から「五年前までの九州工業高校とはまるで別の学校だ」と言われる。
 九年度、在籍生徒数は二年度の二千六百七十九(定員二千七百)人から千三百五十四(同二千二百五十)人と激減、大幅な定員割れを起こしていた。運営資金は底をつき、学校に対する評価も低下していた。
 その九年、病に倒れた前校長に代わって副校長となった野口現校長(翌十年には前校長の懇願を受け止めて校長に就任)は、学校が「生き残る」ためにさい配をとった。まず理事会に改革のための七つの条件を提示した。(1)二十一世紀の新しい学校像を構築するために(2)校名変更について(3)魅力のネーミングと先端設備で新分野開拓(学科の改編)(4)今までの枠を破る教育課程の編成(5)負の遺産を背負いながらの運営を余儀なく(6)現在における本校の魅力度の再点検を(7)地域社会に開かれた学校である。理事会はこの条件を全員一致で了承した。
 そしていよいよ六年間の教育改革に着手。「ビジョンとロマンを持った学校創り」を掲げ、具体的には▽生涯学習ができるような自己教育力を(体験学習の実践)▽ナンバーワンもオンリーワンも認め合おう(個性を認める)▽生徒の夢実現の手助けを、夢づくりの手助けを(教師の仕事)▽情報を開示し、地域や家庭との垣根を低く。地域社会に開かれた学校(地域との密着)▽学校は入り口管理から出口を重要視する時代(三位一体)を挙げて、分厚い資料を理事会・OB・教職員に投げかけながら改革に取り組んだ。専門委員会の会議やブロック会議、職員会議など、会議は一年間で八十二回にも及んだ。教職員の研修も、意識改革を徹底させるため、校長自身が講師となって行った。むろん、財務もすべて公開した。
 学科再編に先立って、子供たちのニーズを探るため、市内の中学三年生七百人を対象に、学校の魅力度、将来志向、夢などについてアンケート調査を行った。
 最も難しかったのは校名変更であった。理事会の了承は受けたものの、現場の教師の反対は強かった。伝統ある校名に愛着はないのか、なぜ急ぐのかと野口校長に詰め寄る場面もしばしば。しかし野口校長は「相手は十五歳の少年少女である。その子たちに今の校名への愛着などあるはずがない。在校生が誇れる校名に」と、すでに腹案としてあった十の校名で、在校生にアンケートをとり、その結果、選ばれたのが「真颯館」である。真はこころ、颯はひなどりが巣立つさまを、館は歴史・伝統を表す。子供たちが心を磨き技を磨いて二十一世紀に飛び立ってほしいという願いを込めた名である。
 十一年度に真颯館高等学校と改称。同時に調理科を新設。十三年度には建築科に宮大工を養成する伝統技能コースを新設。普通科は特別進学科に、機械・電気・電子機械科を廃して総合学科とした。
 年々、受験者は増え、十五年の今春、真颯館高等学校は四百八十人の新入生を迎えた。
 現在、総合学科(メカトロニクス系列・エレクトロニクス系列・文理教養系列・介護福祉系列・生活デザイン系列・自動車系列)、特別進学科(国公立大学・難関私立大学合格が目標)、美術デザイン科(美術大学およびデザイン系専門学校を目指す)、建築科(伝統技能コース・建築コース)、電子情報科(マルチメディアコース・情報システムコース)、調理科(料理のスペシャリストを目指す)の六学科を設置。生徒たちには十三の選択肢が用意されている。
 昨年、全日本ロボット相撲大会の高校生の部全国大会で、電子情報科の生徒たちが正規の授業で製作したロボット「魔女の鼻R7」(ラジコン型)が経済産業大臣賞を受賞。全日本の部全国大会でも「魔女の鼻R3」(ラジコン型)が四位に入賞した。今年も九州大会では高校の部で五連破し、高校の部も全日本の部も全国大会に出場する。また、社長も社員も生徒たちというつくだ煮会社「颯(はやて)」は、ノリのつくだ煮「館」を小倉のデパートで販売。食の祭典「小倉 食市食座」には調理科の生徒百二十人が参加する。生徒が先生になって行っている五十歳以上の近隣住民対象の無料IT講習会など、いずれも好評で、生徒たちも目を輝かせているという。こうした生徒の活躍は積極的にマスコミに公表する。生徒たちの大きな自信となるだけでなく、同校のPRにもなるからだ。
 無遅刻無欠勤の生徒から選抜してオーストラリアへの無料短期留学、同校へ兄弟姉妹が在校していれば二人目の授業料は無料、OBの子供・孫は入学金はとらない、といったユニークな施策も実施している。
 卒業後の進路も、就職先の開拓のために、教職員全員が各企業・OBを訪ねるローラー作戦を展開。努力の結果、十五年三月、卒業生五百人のうち三割の百五十人が進学、三百五十人が就職。就職率は九六%、福岡県内トップである。
 平成十三年、改革の最終段階に入ったとき、「新しい教育をやるのに適切な人を理事に」と言って、理事会の理事九人のうち、野口校長を除く八人が理事を辞した。理事の好意を受け、野口校長は現役企業経営者や技術者などを新たに理事に迎え、いま第二期の教育改革に取りかかっている。
 野口校長は言う。「地域から存在価値を認められる学校、鮮烈なまでの個性が必要だ。個性とは、地域性であり、特色とはいかに他にないカリキュラムをつくることができるかだ」。そして「教師の責務は、夢を持たない生徒に夢を持たせること、夢を持っている生徒には実現のための手助けをすることだ。改革を実施して六年目。教職員も今は大きく変わりました。学内外のいろいろなことに率先して挑戦するまでに変改しました」と。

情報科マルチメディアコースの生徒、中央は製作中の自立型ロボット「魔女の鼻」

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