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記事2003年11月3日 1913号 (11面) 
慶應義塾大学の研究者情報公開への取り組み
行政や他大学へ情報提供
社会的な変化に対応
大学自体の点検・評価位置づけ
  新しい時代の高等教育の実現を目指して大学教育の改革が進んでいる。なかでも注目されているのが大学における研究内容の開示だ。取り組みの背景には大学自身の自己点検や監督官庁への情報提供・成果報告、産学連携を前提とした企業へのアピール、受験生へ向けたPRなど多岐にわたる背景とニーズがある。従来、部外者からは分かりにくかった大学の研究内容だが大学当局の努力によって学外、学内の多様なニーズにこたえるべく体制整備が進められている。本紙では五月から「研究者情報管理システム」を稼動開始した慶應義塾大学の取り組みについて、担当部署である慶應義塾研究支援センターに話を伺った。

 本学が「研究者情報管理システム」(株式会社日立インフォメーションテクノロジー製)を導入したのは、大学に対する社会的要求の変化にこたえて大学自体の自己点検と評価をきちんと位置づけるためです。また、本学のようにキャンパスが分散している大学ではどうしても研究者同士の情報交流が難しい面がありますが、これらの情報ネックを除去し、異なった学部間、とりわけ文系と理系の交流を促進する必要もあると考えています。さらには、統計など事務的な業務の取り込みも行いたいといったさまざまな要望があるため、パッケージとして核となる「研究者情報管理システム」に本学特有のカスタマイズをかける手法をとり、全体のコストパフォーマンス向上を期待しました。
 これまで本学では『慶應義塾年鑑』という冊子で研究成果を公開してきました。しかし印刷物という制約上、部数や配布先も限られ、また、成果収集から公開までに半年以上かかっていました。これからの大学はこのような手法による情報開示では社会的ニーズの拡大に対応できないという判断があり、IT(情報技術)を活用して情報を普遍化し、誰の目にも触れられると同時に、蓄積されたデータを活用できるようなシステムを構築しようと考えました。
 同研究支援センターは平成十一年の六月に発足し、各キャンパスに支部を置いて研究者のサポートを行うという活動を行ってきました。今回の取り組みでは大学の活動内容を開示して外部の人に大学のことを知ってもらうためのシステムを導入することに主たる目的を置いています。
 本学では「研究者情報管理システム」を導入することによって、本学に在籍する教員個々人の研究成果を公開し、行政や他の大学の研究者への情報提供、企業や個人に対するアピールの実施などを図ります。
 また、海外の研究者との共同研究支援環境の整備や学内の教員・学生のコラボレーションツールとしても役立てたいと考えています。

データを個人別に管理
ニーズに応えられ、比較も可能


 このシステムの特長として挙げられるのはウェブを介してデータを個人別に管理できる点です。これによって初期データや職位などの管理データを除いてデータの追加や修正を管理者側で行う必要がなくなり作業の合理化が可能となりました。公開までのタイムラグもほとんどありません。また、入力項目が「科学技術振興事業団」のデータベース調査項目に対応しているので行政サイドのニーズにダイレクトにこたえられるとともに客観的な比較が可能です。主な掲載事項は研究者の職歴、研究経歴、学歴、専門分野、研究課題、取得学位、著書・発表論文など研究業績、受賞学術賞などで、これらをウェブ上で公開しています。
 システムが実際に稼働したのは今年の五月からで、初期データの入力や本学の実情にあわせた大幅なカスタマイズなどの準備に一年ほどかかりました。
 正式稼働後の運用状況としては企業からの問い合わせがすでに数件ありました。また、内部の声としては他の学部の研究内容検索が容易になってありがたいという反響もありました。一方で、さらなるインターフェースや機能の改善要求もでてきています。これは、逆に、潜在的なニーズが研究者にもあることを示すものと考えています。
 このシステムはまだスタートラインについたばかりですが、大学としては大きな期待を寄せています。そのためには教員のみならず学生にもメリットがあるように、システムにも漸次改良を加えながら大きく展開をしていきたいと考えています。また、おのおのの研究者の成果を公開することで、分野を越えた研究が促進されることを期待しています。
 もう一つの側面としては企業などとの交流の最初の窓口や受験生へのアピールなど多様なメリットがあると思われます。さらには、蓄積データの分析による大学としての戦略的な研究体制構築も視野に入れています。いずれにしても、本学の研究成果データが一元化されることで、いろいろな相乗効果があると考えています。
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