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記事2003年11月13日 1915号 (6面) 
システムの構造をシンプルに
マルチメディア機構は 必要に応じ付加
同志社女大

川田助教授

【eラーニングシステムの試験運用】

 全国の大学でいわゆるeラーニングの導入が盛んになっている。しかし、システムの多くが企業内研修用のものを教育機関向けに手直ししたもので、必ずしも日本の大学教育にフィットしたものとなっていないため導入後に行き詰まりをみせるケースもある。
 このような状況の中、同志社女子大学(京田辺市・森田潤司学長)では教員が使いやすい視点で構築された独自のeラーニングシステムの試験運用を開始した。
 本紙ではシステムの開発と試験運用の担当者である同大学芸学部情報メディア学科の川田隆雄助教授に開発コンセプトと運用の概要をうかがった。概要は次の通り。
  ◇
 システムのコンセプト
 本学で試験運用を進めているeラーニングシステムの最大の特徴は、授業フローを柱としてシステムの構造をシンプルにまとめ、各種のマルチメディア機能は必要と教員のスキルに応じて選択的に付加する点にあります。
 考え方の基本は、これまで主流だった汎用システムをそのまま使うのではなく、高等教育に特化してスリム化したシステムとした点にあります。なぜならば、汎用システムは多様な機能が組み込まれていて一見便利そうに感じますが機能の多くが選択的に使用することができない構造となっているため、現状の教員のスキルレベルと乖(かい)離(り)があります。また、学生とのコミュニケーションが一人の教員対圧倒的多数の学生になってしまう結果、対応に忙殺されて利用を中止するケースにつながっているからです。
 これに対して、今回開発したシステムではメールによる学生から教員への直接的なアクセスを制御しながら、授業を「ウェブ上でのコンテンツ提示→学生が受講→教員からの課題提示→学生がオンラインでレポート提出」というフローで進め、その教員はスキルと授業目的に応じたマルチメディアを選択して対応するというものです。すなわち教員が与える課題やタスクは一段目、二段目とフローになっていて、それを順番にやっていけばタスクは完成し、学生は教員が設定した学習成果に到達できる仕組みになっています。
 このシステムはTIS株式会社(本社・吹田市)、萬世電機株式会社(本社・大阪市)、株式会社メレック(本社・岡山市)が提供するソリューションに本学のノウハウを反映する形で開発されたもので「DWC―Cyber Vine」と命名されています。基本的な機能は、教員と学生のコミュニケーションツールをプラットフォームとし、そこにパワーポイントに同期する動画コンテンツと静止画にマーキングを行えるMSTという機能を付加しています。

学生は授業に集中でき
教員にとっても 板書感覚で解説、添削も


 とくにMST(教材作成ツール)はこれまで蓄積されてきた紙ベースの教材や資料をスキャナーで取り込みそこに板書感覚でマーキングができるので、学生にとっては、あたかも透明人間が教材に丸やアンダーラインを引いていくように見え、授業に集中できるようになります。
 教員にとっても長年慣れ親しんだ黒板とチョークを使用するような感覚で解説できる点やレポート添削の場合に文字を使わず音声で伝えることができる点に加え、自宅など自分のコンピュータを使って製作できるなど電子教材作りに入りやすい側面があり、大きなメリットを生んでいます。
 現在主流となっているパワーポイントに同期する動画タイプのシステムも講義の内容が視覚的に確認できる点で優れたソリューションですが、現在の教員にとっては、まずパワーポイントをマスターする必要があることと、長時間の視聴ではやや集中力を欠く傾向がある点が問題です。eラーニングを定着させる観点からは自分でメーリングリストやウェブが作れない教員でもウェブページに簡単な入力ができるレベルであれば十分活用できるシステムであることと、学生を飽きさせないことが重要な要素です。その意味で動画コンテンツとMSTでの板書・音声とを上手に連動させて行くことが大切と考えています。
 導入の背景と運用の展望
 本学がeラーニングの導入に真剣に取り組んだ一番大きな理由は大学設置基準の改定にあります。百二十単位のうち六十単位まではキャンパス内での授業でなくてもよい。つまりeラーニングでもよいということです。これからの大学はeラーニングに対して積極的にかかわることが教育の質を高め、経営的にも重要になっていくと考えられます。
 導入に当たっては、事前調査として教務課や企画課の担当者で勉強会を行いました。本当に教育効果があるのか、教員の負担はどんなものか等を他の大学の実施状況に対するヒアリングも含めて調査しました。その結果、まず教員にとって使い勝手がよく、使い続けられるシステムでなければいけないという結論を得て、この条件に合致するシステムを開発することになりました。
 運用の形態としては遠隔授業への活用だけでなく、対面授業でも有効ではないかと考えています。例えば、現状では学生にレポートを書かせても教員が多忙で添削指導が十分にはできない場合が多々あります。このような場合でもeラーニングを使えば場所や時間に制約されなくなるので指導しやすくなります。また、AO入試のフォローアップ、入学前の研修、国際授業や高大連携についてもeラーニングは有効だと考えています。さらに、生涯学習の環境が整うなかで、OGや社会人との共同学習も可能になってくると考えています。
 今後の課題
 今後は、システムをより使いやすいように改善していくこととともに、コンテンツ作りのノウハウを確立してコンテンツの質を高めていきたいと考えています。高品質なコンテンツであれば他の大学でも使ってもらえると思いますので、将来的にはこのシステムとコンテンツを大学間で共有できるようにしたいと考えています。
 ◇システムに関する問い合わせ先=株式会社メレック ソリューション販売グループ 電話086(286)8711、TIS株式会社 公共システム第2部 電話06(6821)1111、萬世電機株式会社 情報通信第一部 電話06(6454)8236

高等教育に特化したDWC−CyberVine

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