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記事2003年10月3日 1906号 (3面) 
中央教育審議会の審議動向
“株式会社の教育参入反対”
  中央教育審議会は、初等教育から高等教育に至るまで急ピッチで改革の検討を続けている。今後、高等教育の将来構想がさらに審議されるほか、短大教育の位置づけ、幼児教育の本格的検討なども予定されている。


公立校5団体が意見発表
港区教委からは特区構想聴取

【教育行財政部会】

 中央教育審議会初等中等教育分科会の教育行財政部会(部会長=木村孟・大学評価・学位授与機構長)は、十月一日、東京・千代田区の如水会館で第七回会合を開き、教育特区を活用して新たな公立学校の設置を計画している東京都港区教育委員会から計画の概要等を聞いたほか、公立学校の管理・運営の民間への包括的委託(公設民営方式)などについて公立学校五団体から意見を聴取した。この日の部会では、初めに港区教育委員会の入戸野光政教育長が港区は米国人など外国人の区民が多く、公立学校離れも進んでいるなどとして魅力づくりや公立校の復権を目指して小中一貫の国際人育成を目指した区立学校の十八年度開校を計画していること、その際、高い英語力を持つなど優秀な教員の確保には公設民営方式も視野に入れていること、通常の公立校より教員の配置を増やすため、通常を上回る費用については受益者の負担としたいとした。義務教育を公設民営方式で行う場合、情報公開の徹底と評価制度の導入で公教育を担保することは出来るとし、担保できない場合は委託先を変更することも考えられると指摘した。中教審の委員からは「最終的な責任は誰が取るのか」などの質問が出されたが、それに対しては「我々の責任」と答えた。
 一方、公立学校団体は学校の管理運営の委託、学校の設置主体などについて言及したが、株式会社への教育参入に関しては反対との意見が強く、公立学校の管理運営を包括的に民間に委託することについても問題点を指摘する意見が多く聞かれた。ただし教員の事務の一部のアウトソーシングに関しては教員の多忙さから含みを残す団体もあった。この日意見を発表したのは、全国連合小学校長会、全日本中学校長会、全国高等学校長協会、全国定時制通信制高等学校長会、全国国公立幼稚園長会。


指導要領の改正へ 答申案まとめる
確かな学力、分かる授業実現

【初中分科会・教育課程部会合同会議】

 中央教育審議会の初等中等教育分科会(分科会長=木村孟・大学評価・学位授与機構長)と教育課程部会(木村孟部会長)は九月三十日、東京・千代田区の霞が関東京會舘で合同会議を開き、初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策についての答申案をまとめた。十月七日の総会に諮り、答申としてまとめる予定。
 この答申案は、新学習指導要領の基本的なねらいである「生きる力」を知の側面からとらえた「確かな学力」(=知識や技能はもちろんのこと、これに加えて、学ぶ意欲や、自分で課題を見つけ、自ら学び、主体的に判断し、行動し、より良く問題を解決する資質や能力等を含めたもの)育成のための取り組みを充実。「総合的な学習の時間」を通じて学びの動機付けを図るとともに、個に応じた指導を柔軟・多様に導入することによって「分かる授業」を行い、児童生徒たちの学習意欲を高めようというもので、学習指導要領の基準性(=最低基準)を明確化、創意工夫溢れる教育を可能とする環境を整備するもの。答申に基づいて十五年度中に学習指導要領の一部を手直し、十六年度から実施する。
 答申案では、現行の「はどめ規定」が見直され、学習指導要領を超える内容の指導も可能となるが、その一方で児童生徒の負担等を考え、無制限に指導が行われないよう配慮を求めている。また指導時間の確保については、長期休業期間等の見直しを指摘する一方で、長期休業期間が地域社会における子供たちの体験活動や家庭教育の充実に果たしている役割などについても考慮することが大切としている。いずれにしても教育効果等を十分研究することになる。
 この日の合同会議では委員から「教員の教材研究の時間が取れなくなっている」などの意見が出されたほか、「幼児教育に関してはどの部会に意見を言えばよいのか」との意見があった。
 幼児教育は今年五月の文部科学大臣の諮問事項にあったが、木村分科会長は「正面から議論すべきだと考えている。これまでは真正面から取り組んだことがなかった。近々、検討の場を立ち上げると聞いている」と答えた。


高等教育の全体規模など検討
新たな留学生政策も議題に

【大学分科会】

 中央教育審議会の大学分科会(分科会長=佐々木毅・東京大学長)は九月二十四日、東京・霞が関の文部科学省分館で第二十五回分科会を開いた。中間報告「新たな留学生政策の展開について」や、高等教育のグランドデザインなどを討議し、薬学教育の改善・充実の中間まとめについて文部科学省の説明を受けた。
 留学生政策の中間報告については、委員から「留学生の人気はアメリカ、ヨーロッパ、日本、の順に高い。日本の大学院はなぜ魅力的ではないのかを考えるきっかけとしてほしい」「どのような学問を身に付けることが派遣する国に寄与するかを考える必要がある。日本は高齢化による介護や環境問題への対応が進んでいるので海外の関心も高いのではないか」などの意見があった。
 中国からの留学生が増加していることについては「十分な知識を持ってやってくるわけではない。中国と日本の教育関係者が定期的に話し合う機会を設ける必要がある。今のように、うわさの飛び交う状況は好ましくない」とする意見があった。
 また、今年度中にも「留学生受け入れ十万人計画」を達成することに対しては「二十年間、数の増加を目指していた。これからは質の向上を目指すときだ」「受け入れだけでなく、日本の学生をいかに海外に出すかが重要だ」などとした。
 グランドデザインについては、高等教育の機会の確保に論点を絞って検討した。具体的には、高等教育の全体規模や人材需給、地域配置に関する考え方を議論した。鳥居会長は「学部や大学院で、どの分野を減らし、どの分野を増やすのか。目配りする必要があるが、これまでは触れていない。学部の名称も多様化し増加している。増減を市場原理に任せるのか、国立の責任として管理するのか。私立はどうするのかを考える必要がある」などと述べた。また、十八歳人口のうち大学に進学した数は四一・三%、専門学校二三・一%、短大七・七%であることについて、「進学率といえば、これまで大学と短大だけを問題としていたが、専門学校は着実に入学者数を伸ばしている。専門学校について検討すべきだ」とする意見があった。


義務教育の経費負担
国と地方の在り方検討へ

【教育条件整備作業部会】

 中央教育審議会初等中等教育分科会の教育行財政部会(木村孟部会長)は九月十九日、東京・千代田区の如水会館で第一回の「教育条件整備に関する作業部会」を開催した。この作業部会は、義務教育に関する経費負担の在り方など義務教育における教育条件整備の在り方について、専門的な調査審議を行うもの。具体的には(1)義務教育国庫負担制度の在り方、県費負担教職員制度の在り方(3)都道府県と政令指定都市との役割分担を中心に検討する。このうち(1)については、義務教育の機会均等と教育水準維持向上を図るうえでの国と地方(都道府県・市町村)の役割の在り方、義務教育に必要な国と地方の経費負担の在り方、義務教育に関する地方の自由度拡大のための方策の在り方等を検討する。(2)については、都道府県と市町村の経費負担の在り方、県費負担教職員と市町村負担教職員が混在する場合の人事管理の在り方(任用、服務、研修、校務分掌等)、市町村における教職員の勤務条件整備への対応等を話し合う。(3)については、都道府県と政令指定都市との経費負担の在り方、学級編制の基準や教職員定数の設定に関する権限(都道府県から政令指定都市への権限委譲等)などを審議する。
 同作業部会は、ヒアリングなども行いながら、十一月中旬には論点を整理、十一月下旬には審議結果を教育行財政部会に報告する予定。同作業部会の委員は、次の八氏。▽天笠茂・千葉大学教育学部教授▽石原多賀子・金沢市教育委員会教育長▽伊藤稔・東京理科大学理工学部助教授▽小川正人・東京大学大学院教育学研究科教授=主査▽高野利昭・北九州市教育委員会教育長▽矢野眞和・東京大学大学院教育学研究科教授▽横山洋吉・東京都教育委員会教育長


栄養教諭の養成や免許
ワーキンググループで検討

【教育養成部会】

 中央教育審議会初等中等教育分科会の教員養成部会(部会長=國分正明・日本芸術文化振興会理事長)は九月二十二日、東京・霞が関の、霞が関東京會舘で第二十回部会を開いた。中教審の「食に関する指導体制の整備について(中間報告)」をもとに検討し、ワーキンググループを設置することを決めた。
 栄養教諭(仮称)の養成のあり方や免許の取得方策、現在の学校栄養職員に対する措置などを検討した。
 具体的な検討の視点には▽栄養教諭の職務内容に対応した専門性▽管理栄養士や栄養士など既存の資格制度との関係▽免許状の種類(専修、一種、二種、臨時免許状など)▽上進制度▽現在、学校栄養職員として勤務する者が栄養教諭免許を取得するための方策、などを挙げた。
 國分部会長は「栄養教諭については、スポーツ・青少年分科会でも話し合っている。免許に関することは当部会の範囲なので、特に検討していただきたい」とあいさつした。
 委員からは「免許をつくらずに、大学の教員養成課程に新たな科目を設けるという意見もある。専門性の重要性について検討すべきだ」「給食をしていない学校もある。家庭科と結びつけることはできないのか」などの意見があった。
 一方「免許の創設と学校教育とのリンクは別の問題。義務的に行うのか、付加的に実施するのかは、個々の自治体の判断することだ」とする意見もあった。
 鳥居康彦会長は「栄養士を配置していない学校はどうするのか。現状では足りないと、増やすのか。目指す方向によって議論が違ってくる。勤務体系や仕事の中身、学習指導要領との関係など話し合うべきだ」と述べた。
 同部会では栄養教諭についてさまざまな角度から検討する必要があるとして「栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ」の設置を決めた。栄養教諭の免許状の内容および取得方法、養成カリキュラムのあり方などを検討する。今後は三回ほど審議し、次回の同部会で報告する。
 ワーキンググループの委員は次の通り。
 天笠茂=千葉大学教授、香川芳子=女子栄養大学学長、田中延子=北海道教育委員会スポーツ健康教育課主査、中村丁次=神奈川県立保健福祉大学教授・社団法人日本栄養士会副会長、平出彦仁=中部大学人文学部長、村田光範=和洋女子大学教授、八木下覺=千葉県松戸市立幸谷小学校長、山ア準二=静岡大学教授、山本茂=徳島大学教授、横山洋吉=東京都教育委員会教育長、渡邉二郎=神奈川県茅ケ崎市教育委員会教育長


社会人の入学者が増加
社会人特別選抜実施の大学も

【生涯学習分科会】

 中央教育審議会の生涯学習分科会(分科会長=山本恒夫・大学評価・学位授与機構研究部教授)は九月十七日、東京・霞が関の文部科学省分館で第二十二回会議を開き、初等中等教育局や高等教育局、スポーツ・青少年局、文化庁による説明と質疑応答をおこなった。このうち、初等中等教育局は「豊かな体験活動推進事業」や、キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議の中間まとめのポイント、学校の外部人材の活用などについて説明した。
 委員からは「インターネットで調べるなどの画一的な教育ではなく、学校図書館を活用することも大切。専任の図書館司書の配置をお願いしたい」という意見があった。
 また「『ゆとり教育』は受験にどう反映されるのか。高校や大学が従来の学力差で選抜するのなら、生かされないのではないか」という意見には、担当職員が「入試そのものが変わりつつある。ペーパーテストだけでなく、推薦や面接などで、多面的に子どもの良さを見つけようとしている。今後の選抜方法は多様な形で行われるのではないか」と答えた。
 高等教育局は大学等における社会人の受け入れや、eラーニングの状況などについて話した。社会人特別選抜を実施する大学や、社会人の入学者が増加していると説明し、社会人に配慮した大学院修士課程一年制コース・長期在学コースや、社会人の勤務地に近い場所にキャンパスをつくる、サテライト教室などを紹介した。
 委員からは「アメリカでは社会人を経験してから大学に入る人も多いという。生涯学習という視点から社会人入学を考えることができる」とする意見があった。
 このほか、スポーツ・青少年局は生涯スポーツ社会の実現や、青少年の体験活動の振興、青少年を取り巻く有害環境対策、子どもの読書活動の推進に関する法律などを報告した。
 文化庁は、国民の文化活動の状況や、文化芸術振興基本法と基本方針、主な生涯学習関連施策などを説明した。
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