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記事2003年10月3日 1906号 (6面) 
新世紀拓く教育 (9) ―― 慶應義塾湘南藤沢中・高等部
タイの高校生と旅行プランづくり
ジュニア・アチーブメント「TTBiz」に参加
  広々とした慶應義塾湘南藤沢キャンパスの一角にある慶應義塾湘南藤沢中・高等部(井下理部長、神奈川県藤沢市)は、平成四年(大学が総合政策学部・環境情報学部をここに新設した二年後)に、「異文化交流」「情報教育」を二本の柱に、世界で活躍する人間の育成を目指し開校した。コンピュータを利用した教育を積極的に導入、ネットワークを活用した教育スタイルを模索し始めた。生徒の作成したウェブページは、校内で閲覧できるように設定するなど、他に先駆ける様々な試みを行った。その中から、平成十一年には、教材ウェブページの制作コンテスト「ThinkQuest@JAPAN」の第一回大会で、参加百八チームの中から同校高等部の二年生チームが最優秀賞を受賞するという成果を生み出した。
 新しい試みとして、昨年六月から九月にかけて、高等部の女子生徒チーム(三人)が、ジュニア・アチーブメント主催のタイの高校生とのコラボレーションによるシミュレーション・プログラム「TTBiz(トラベルアンドツアービジネス、旅行観光業の経営)」に参加することとなった。ジュニア・アチーブメントのMESE(一般企業の経営)などのプログラムでは世界大会も行われているが、同校の参加した「TTBiz」はパイロットプログラムとして位置づけられ、参加校は、日本側は慶應義塾湘南藤沢高等部と早稲田大学高等学院および熊本県立熊本高校の三校。タイからも三つの高校が参加することとなった。日本の高校とタイの高校がパートナーとなり、お互いに情報を交換しながら、それぞれが相手国への観光旅行プランを立て、パンフレットを作成し、プレゼンテーションを行うというプログラムで、TTBiz実施にあたっては主催者および支援企業によるサポートが行われた。
 慶應義塾湘南藤沢高等部のチームはまず企画書づくりから始めた。客層として想定したのは、自分たちに最も近い若い女性。テーマは「女王様気分を味わうプラン」とした。ハイクラスなホテルへの宿泊、専用送迎車の設定、レストランでの豪華な食事、エステティックなどで構成し、優雅な気分になろうという旅行企画である。
 生徒たちが実際にタイの高校生との情報交換に使ったのはインターネット上に設置した掲示板だ。お互いにブラウザーソフトを使って掲示板にアクセスし、質問や回答を書き込むだけでなく、パンフレット作成などに必要な写真も掲示板を経由してダウンロードするという方法でデータ交換した。やりとりはすべて英語で行われた。実際にタイのパートナー校の生徒と質問や回答を繰り返していく中では、文章だけでは相手のリクエストの内容が分からないといった場面もあり、テレビ会議のようなものが必要かとも検討された。しかし、タイ側の通信回線が細く、実現しなかった。改めてコミュニケーションの難しさを感じたとのことである。パンフレットはもちろんパソコンを使って自分たちで作成した。使ったソフトはフォトショップ、ワード、エクセルなどの基本的なソフトだけ。
 審査はコンテスト形式で行われ、プレゼンテーションが十一月に実施された。同校のツアータイトルは「女王様KIBUN in Thailand](働く女性をターゲットにしたリラックスできわくわくするようなプラン)であった。早稲田大学高等学院は「ふれあいタイ?〜自分探しの五日間」、熊本高校は「みんなで行こう!のほほん!バンコク・プーケット七日間の旅」。審査は、プレゼンテーション、学習プロセス、プラン、パンフレットの四つの観点で行われた。
 最優秀賞を獲得したのは早稲田大学高等学院だった。主催者のジュニア・アチーブメントの話によれば、どのプランも期待以上の出来ばえで、審査員の評価は高いものであったという。慶應義塾湘南藤沢高等部の女子生徒たちは自信作であっただけに、最後のプレゼンテーションで早稲田大学高等学院に負けたと言ってくやしがっていたそうだ。


プロジェクト型授業も

 現在、慶應義塾湘南藤沢中・高等部には校内LANを介して、インターネットに接続可能なパソコンが二百台近くある。各教室にも情報コンセントがあり、無線LANも設置されている。昨年の情報の授業では、中等部で「我が家の自慢料理」を紹介するプレゼンテーションの作成や、通学路で見かけたものを題材にウェブページを作る課題を取り上げた。高等部の生徒は、少子化や高齢化社会などといったテーマを決めて仮説を立て、統計局のホームページなどからデータを集め、分析し、その結果何が分かったかをまとめる、という課題を行った。
 今年度から教科「情報」が導入され、授業時数が二時間になったが、今後は「調べて、まとめて、伝える」というプロジェクト型の授業が増えるのではないかと「情報」担当の田邊則彦教諭は言う。「国語や英語、社会、理科、数学といった教科がたて糸なら、情報はよこ糸にあたります。コンピュータは新しいコミュニケーションのツール、新しい表現の道具。教科『情報』も将来は、情報と表現、あるいは表現活動といった活動に集約されるのではないかと考えています」。またネットワーク社会における匿名性といった問題についても「今後はメディアリテラシー教育が重要になるでしょう。生徒たちにやってはいけないと禁じるだけでなく、なぜいけないのか、その根源的なことを考えさせる工夫をする必要がある」と話している。また、情報の授業に関しては、「他校の試みから知恵を借りるといったダイナミックな動きがでてきて、初めて情報の授業がより良いものになるのではないか」と結んだ。

パソコンで新聞制作をする生徒たち

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