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記事2003年10月23日 1910号 (3面) 
総合学習・クロスカリキュラム研修会・パネル討議
研修福祉会日私教研
  全国私立中学高等学校「総合学習・クロスカリキュラム研修会」が、財団法人私学研修福祉会の主催・日本私学教育研究所の協力で八月四・五の両日、東京・市ヶ谷の私学会館を会場に開催された。高校でも「総合的な学習」の実施が始まったことに伴い、今回は研究のねらいを「私学の総合的な学習と評価」とした。初日は基調講演、パネルディスカッションが行われ、二日目は講演と分散会が実施された。ここでは初日のパネルディスカッションの概要を掲載する。(編集部)


中学 自作の宗教劇、ボランティア体験など
高校 自分史で自己評価も

阿部氏

コーディネーター 「私学の総合的な学習と評価」について各校の取り組みをお願いします。

阿部 中学校の総合的な学習は、SP(シャルトル・パウロ)タイムとして、各学年二単位です。一年はインフォメーション・スキルをしっかり学び、宗教劇を生徒が自作で台本から作り上げ、クリスマス会に地域の人や保護者を呼んで発表します。二年では「自然」をテーマに蔵王の自然を学習し、蔵王周辺の農家で、酪農、果樹園、野菜栽培などの体験学習をします。後半は食についての研究発表をしていきます。中学三年では、自分を社会に生かしていくということで、修学旅行を組み込んだ形での施設へのプレゼント作り、ボランティア体験。最後に三年間のまとめということで、卒業課題研究を行いました。また各学年それぞれ研究発表を行っており、ここではレポート作成やプレゼンテーションの方法などについて学びます。高校一年ではロングホームルームと組み合わせる形で〇・五単位、二年では一単位、三年ではゼロです。ただ私が従来から温めていた「自分史」を高校一年に盛り込むことができました。生徒は年に十五回の総合学習の時間に、ハンドノートに書き込んでいき、夏休みには家族にインタビューなどをし、冬休みに自分史を書く。ノートには一回ごとに自分史年表の作成といった欄があり、生徒が自主的に進められるようになっています。
 高校二年は来年度からですが、沖縄・広島への研修旅行にからめた内容で、自分と社会とのかかわりを知るということで考えています。高校三年はゼロ単位ですが、自分を社会にどう役立てていくかということでレポートを書かせる予定です。
 評価ですが、本校も絶対評価の研究をしていますが、結局、ポートフォリオしかないのではないかということで、生徒が振り返ったり、それぞれの過程での自己評価や教師の評価、保護者のコメントなどを通して自分の成長を見ていくという形を取っています。今年度は、評価の観点を設定しています。これを生徒にも提示し、教師にも徹底して、通知表には記述式で書くことにしています。自分史では、自己評価を積み重ねて、最後にまとめの自己評価をし、教師もこれに評価を書いて生徒に渡すという形を取ります。通知表にはいまのところ書きませんので、ハンドノートの最後に書かれたものが通知表の代わりです。「高校指導要録への記載の仕方について」は自分史なので、評価といっても先生はメッセージを書くだけ、担任との交流がメーンです。その辺のことを簡単に書きます。総合学習には、いままでの一斉指導的な授業や相対評価を打破する手掛かりがたくさんあって、それが他教科にも及んでいくというのが一番の効果ではないかと思います。

評価は主査、副査3人で
高校 一貫連携教育として卒論

澁谷氏

澁谷 中学は開校準備期間中で、新しい指導要領に対応して考える余裕がありませんでした。研修旅行など行事がらみのものはあります。
 高校の卒業研究論文については、立教学院全体の理念の再構築の中で一貫連携教育として卒業論文をやることになり、これは推薦入学の条件にも加えるし、卒業の条件にもしようということで始まりました。実際の指導ですが、教師の専門性を少しでも生かした方がいいのではないかということで、高校は二、三年次に大幅な選択制の授業となっていますので、この中に授業と一部卒論の指導も行う講座と、卒論の指導だけを行う卒論演習の講座を設けました。
 四月から実際に講座を取らせると同時に、一時間目の授業を当てて、その時間に資料集めをしたり、ワープロを打ったりします。夏休みに書かせて九月に仮に提出させ、少し細かく指導する、あるいは書き方で足りないもの、観点がまずいもの等があれば指導するという形でやりまして、十一月に提出させました。
 評価については、主査一人、副査二人の三人で見る。主査が専門性を生かせない場合は副査が補う。主査と副査の持ち点は、主査は十点、副査は五点。オールAの満点でも十八点。そして、その中で特に優れたものはSにして二ポイントプラスして二十点とする。不合格は書き直しの指導をすることで実施しました。
 十一月に論文を提出した生徒の方は生き生きとして、達成感にあふれた感じでした。教員の足りないところも生徒は補ってくれる。教員も生徒によって変えられていくのだと思います。卒業研究論文は、通知表に載せますが、それ以外の総合の時間は記載しません。

人間の根源になる学習
一番大事な生徒の相互評価

松村氏

松村 本校の総合学習は、一人の私が人間として自立し、人々と共に生きていくためには何が最も大切か、つまり、人間の根源になる体験と認識ができる学習をカリキュラムの核に据えたいと願い「総合」を生み出したわけです。ですから、総合学習は国語や数学などの教科と並列的にあるわけではなく、あらゆる教科学習、教育活動の根源にあるものです。総合学習にABCというジャンルを組みました。Aは総合学習の核になる学習、命の学習と自分にかかわるもの、人間にかかわるもの、これを三年間のテーマにして「私」から出発し「私の自立」へとつながっていく理論編といった軸を作りました。Bは自己表現、学んだ自分をどう表現していくか、表現活動の中には感じること、作ること、表現すること、そういう分野のものをテーマとかかわらせて取り入れました。Cは社会的な体験学習、現在は福祉体験に一本化しました。実際には、中学一年では一つのテーマを決め、それをコアに各教科がカリキュラムを組む。中学二、三年では学び方を学んだうえで自分たちが好きなことを学ぶ。そういう総合の学習を高校でも発展させようと、平成十二年から中学高校六年間の一貫した「創造」学習ということにしました。高校生は一年から三年までを大きく二期に分けて、学ぶ意味を発見することと自己表現ということで、高校三年には最終的に自分の進路とも合わせた生き方を考える卒業制作を設けています。
 評価は、チーム・ティーチングですので、生徒が毎回書く創造ノートにいろいろな担当教師がコメントを書き込みます。自己評価も重要なポイントですが、一番大事なのは、生徒同士の相互評価です。また、本校は通知表ではなく各教科一枚ずつ学習の記録があり、大きな欄には生徒が自分で気づいたことなどを記す。隣に教師のコメント欄が、裏には友達が書く欄があります。友達同士でも結構シビアです。高校は調整をして、五段階評価を付けています。時間を学校設置の単位と分けて評定を出しています。

他と違う本質的な教育
数値での評定重要

田氏

 総合学習の導入では進学校、海洋教育、情操教育という全体の中で、もう一本の、他と違う、本質的な意味での教育になるような柱をつくることで提案しました。プロジェクトチームを結成し、理論、先行事例、方法等を十分に調査し独創的なものをつくることを共通認識としました。そして、平成十四年度に総合学習「人間学」を、週一時間、中学一年に導入しました。
 今年は高校一年生に、来年度から高二に導入予定です。中学一年生から高校一年生までは週一時間。担当は学年所属の教員です。内容は中学一年生では読む・聞く・話す。中学二年生は開成祭で発表する。これはいろいろな分野で七つのプロジェクトに分かれてやっています。中学三年はいままでやってきたことをまとめて作品として発表する。修学旅行も検討委員会をつくり徹底的に見直しました。また国際的な場面で活躍するため英語の授業も中学一年から日本語は使わず全部英語でやろうということで始めました。
 総合的学習を取り入れる以上は、何を目的とするのか、どのような力を付けさせたいのか、目指すものを明確にしなかったら学問としてダメだと考えたわけです。最終的には教科学習全部が総合学習的な学問にならなくてはいけない。
 現在わが校では、いろいろな観点を作ってそれにABCといった評価をしていますが、私はあえて、一から十の数値で評定すべきだと提案しています。数値を付けることができる明確な目標をつくることは非常に重要です。通知表は総合学習については出していません。逗子開成は今年百周年を迎えましたが、体験から学問へ、最終的にはすべての教科が総合的学習のような本当の生きる力に結びつく教育改革を、これから新しい百年を目指してやっていきたい。


【パネリスト】(敬称略)
阿部和彦 仙台白百合学園中学・高校 国際教育部長
澁谷 壽 立教新座中学・高校教諭
松村順子 橘女子中学・高校校長
田 勲 逗子開成中学・高校理事長・校長

 コーディネーター
富澤千里 東京女子学園中学・高校教諭
滝沢 潔 中村中学・高校教諭
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